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08話 未練の鬼


大木の前で、兜と面を外した男の顔立ちはとても綺麗で、齢は20代半ばだろうと推測された。

相手から差し出された手に、自分の手を差し出すと、返ってきたのは力強い握手。


(相手に触れる事も出来るのか。)


その事に、相手の男は驚いた様子も無い。


「良ければこれまでの話を聞かせてくれないか?」


その質問に対し、ポツリポツリと男は語り始めた。


男の名前は、[ゼン]

東の大陸で鬼の一族として生を受ける。

かつては、その強大な力を恐れられた一族であったが、現在は300人程の小さな村で狩を中心に生活をしていた。


元々鬼の一族は、その身に宿す鬼の力もさる事ながら、武芸に優れた者が大変多いそうなのだが、中でもゼンの才能は一際で、幼い頃から大人を相手にしても全く引けを取らなかったそうだ。


そして、そんな彼には双子の弟が。


その名を[ジン]と言い、弟もまた自分と同等の実力を持っていたため、村の中で2人は、一族の最高傑作と呼ばれていたという。


そうして既に、村の中で自分と弟に勝る者が全く居なくなった頃、先代の頭領が流行り病で突如亡くなり、魂の継承で選ばれたのが、兄のゼンだった。


3日間意識を失う壮絶な経験の後、目が覚めた時には、村中が祝いの雰囲気に包まれた。


たった1人を除いて。


そう。

その頃から、弟のジンが徐々に一族の村から距離を取り始めた。

恐らく魂の継承に選ばれなかった事が原因だろうと村人達は考え、時間が解決するさと皆が口々に言っていた。


ゼンも弟のジンの様子がおかしい事は分かっていたが、慣れない頭領の仕事が忙しく、なかなか気にかける事が出来なかった。


「今思えば気付かないようにしていたのかも知れないな。」


話しながらゼンは続ける。


頭領となった数年後のある日。

突如悲劇は村を襲った。

その日はたまたま1人で狩に出ていたが、村に立ち昇る煙を見て、慌てて村に戻ったそうだ。


すると、そこには10メートル程の真っ黒な怪物が、村の全てを破壊し尽くしていた。


その姿は、言い伝えに聞いた、かつて栄華を極めた頃の鬼の姿そのもの。

そして、それが弟のジンであることはすぐにわかったそうだ。


元々、強大な鬼の力を保有していたジンの鬼の力が暴走した結果、村人は全員殺され、魂の継承を受けていたゼンも立ち向かったが、結局刃が立たずそのまま息絶えたそうだ。


一族が皆殺しとなったことを無念に感じながら、閉じていく意識に身を任せると、気が付けばこの森にいたとの事であった。


ここまで話すと、ふーっと一息。

ゼンは俺に語りかける。


「拙者ばかりが話して申し訳ない。

お主の前世の話を聞かせてくれないか?」


それは、本心だったのか、気を紛らわせるためだったのか。

促された俺は前の世界の話をした。

特に携帯電話の話にゼンは夢中だった。


「作り話であったとしても面白いな。」


ゼンは和かに笑う。

お互いの事を話した頃には、すっかり太陽は傾き、辺りは薄暗くなっていた。


「お主、冒険者になったばかりとのことだったな?

剣術に興味はあるか?」


その言葉に、俺は2つ返事で答える。


「是非、お願い致します。」


その言葉にゼンは再び笑った。


「1つだけ条件を付けさせてくれ。」


そう言うと、ゼンはこう告げた。


いつの日か、自分の弟を殺して欲しいと。



✳︎



そして、翌日からゼンとの修行は始まった。

ゼンの教えは、剣術と言うよりも身体の動かし方が中心で、俺が騎士団で習っていた型とは全く違った。

ゼン曰く、それは基礎としては良いが、いざ実戦となると役に立たないという。


朝から晩まで、修行は行われ、合間の時間に狩の仕方や、食べられる植物や木ノ実の見つけ方、木の枝や蔓を使った簡易の雨除けの造り方など、自然の中で暮らす知恵を授かった。


騎士団の養成所でも何度か野営は経験した事があったが、何も持たずに自然の中で過ごすという事は想像以上に大変だった。


特に最初に苦労をしたのは、火をつけること。


(前世ならライターで一発なのに。)


勿論、この世界には魔法がある。

中でも、火の魔法が基礎中の基礎であり、ほとんどの者がそれくらいは使えるのだが、俺には絶望的に魔法の才能が無かった。


見かねたゼンからコツとして、頭の中で火をイメージした後、小石をいくつか手の平に握り、それを飛ばす様な感覚という何とも抽象的な説明を受けると、今までどの本を読んでも出来なかった俺が、小さい火ではあるが出せるようになった。


(感覚が大切なんだな。)


そんな生活も3週間が過ぎ、季節は森が色づき始める秋の真ん中に入ろうとしていた。

毎日が常に全身筋肉痛だったが、身体の動かし方に変化が現れているのを実感していた。


その間にわかった事は、ゼンは基本的には、無機物に触る事は出来るが、生きているものには、触れられない。

但し、自分が宿り木としている大木の前では、生きている者にも触れられること。



そうして、その日もいつも通りにゼンとの修行を行おうとしていたが、俺は突如ある事を思い出す。


「ギルドに戻らないと!!

除名される!」


完全に忘れてしまっていた。

今日で、最初にギルドに登録をした月が終わろうとしていた事を。

ゼンには、一旦街へと戻った後、再び戻ってくる事を伝えた。


「人の世界も色々と大変だな。」


ゼンはまた笑った。


【不死の森】から急いでギルドに戻ると、受付にはレミアの姿が。

クエストの完了報告をすると、とてつもなく驚いていた。

理由は、とっくに死んだと思っていたから。


(駆け出しの冒険者が数週間も来なければ、そう思うよな。)


俺は、報告が遅くなった事を詫び、ゴブリンの魔石を2つ渡して、銅貨15枚を受け取った。

森へと戻る前に、クエストを受注しようと、隣の掲示板を見ると、何やら騒がしく人が集まっていることに気が付く。


人だかりをかき分けた先にその原因はあった。


〜Quest(緊急)

依頼名:鬼退治

難易度:★★★★★★

資格:誰でも

依頼者:ギルド

場所:不死の森

期間:緊急

報酬:金貨10枚

達成証明方法:鬼の首

ギルドポイント:2,000PT


(これは、、、ジンが【不死の森】まで来たのか!?)


他の冒険者達も色めき立っていたが、そのクエストを手に取る者は居ない。

ギルドがこれだけの報酬を用意する事は滅多に無いらしく、相当の危険が伴う事は誰が見ても明らかだった。

そんな中、1人の冒険者が呟いた。


「こないだのAランクパーティもこいつにやられたらしい。」


その声に、掲示板の前から1人、また1人と去っていき、とうとう残ったのは俺1人。

クエストの紙を取り、受付のレミアに渡した。


「止められた方が賢明かと。

今ランクAの冒険者に指名依頼を出しています。

それに、一度クエストを受けると、達成出来なかった場合には、報酬の3割をギルドに支払う必要がありますよ?」


「問題ありません。」


何度もレミアは引き止めるが、俺は頑なに受ける事を選ぶ。

これは他でも無い俺が受けるべきだと感じたからだ。


レミアが渋々受領印を押し、俺に紙を手渡した時に、受付の後ろに、銀髪の長い髪の綺麗な女性が立っている事に気が付いた。


(首輪?奴隷か?)


向こうも俺に気づくと、一瞬驚いた顔をしたが、その後微笑みを浮かべた。

しかし、口元だけが無理に曲げられたその表情は作り笑いという言葉がぴったりだった。


(まぁ、良いか。)


その女性が気になったが、俺は再びゼンの待つ【不死の森】へと急いだ。


見て下さる方、貴重なお時間本当にありがとうございます。

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