79話 酒と焼鳥
帰り道。
念のためと、ジェンの木に立ち寄ったが、その姿は無い。
(また、明日にでも来るか。)
そう考え、街へと戻る。
「じゃあ、私の宿はこっちだから。」
「帰るのか?
俺の屋敷で休んで行けよ?」
「結構よ。
色々ありすぎて、今は1人で休みたいわ。」
「そうか。
俺の屋敷には風呂があるから、どうかと思ったんだが。」
「えっ?
本当??」
「そんな嘘はつかないよ。」
「それなら行くわ!」
「よし。
じゃあ、帰るか。」
眠気まなこに、引きずる足。
安息を求めて屋敷へと。
途中、何軒かの店で買い物をした後、セーラのポーション屋に立ち寄り、【不死の森】でいくつか摘んだ薬草を手渡した。
(いつも好きな時に行かせてもらってありがたい。)
ようやく屋敷に辿り着くと、門の前に並ぶ幾人か。
怪訝に思いながらも近付くと、俺が門を開けた瞬間に、自己紹介と自分を雇えばどれだけのメリットがあるのかのスピーチを始めたため、一旦帰って貰った。
(しばらく続きそうだな、、、)
「中々良いじゃない!」
「だろ?」
屋敷を見たフィーアの感想に素直に喜ぶ。
疲れた身体に鞭を打ち、水の魔法を使って湯船を満たすと、今度はそれを温める。
フィーアに先に入ってもらい、その後アインスと俺が入った。
「あなた達いつも一緒に入ってるの?」
その質問に顔を見合わせ
「大体、、、そうかなぁ。」
「そうですかね。」
「へ〜。
あなた達は恋人関係なのね?」
ニヤニヤとフィーアが言う。
「恋人なんて恐れ多いです。
私にとってゼロ様はそんな、、、」
「恋人は確かに違うかもな。」
「あら、そうなの?」
「ああ。
俺はアインスともうこの先離れることは想定してないからな。
ずっと付いて来てもらうつもりだ。」
「何よそれ、、、」
「ゼロ様、、、」
「アインス。
後で詳しく聞かせてちょうだい。」
「はい!」
「それより、食事にしよう。」
アインスが【不死の森】で用意をしてくれた、ドン・ファンクのハンバーグをゲートから出すと、パンに挟んで三等分に。
帰り道に買ったホットココアの様な飲み物と一緒に朝食を済ませた。
歯を磨いて、フィーアを二階の一室に案内すると、俺とアインスは一階の寝室のベッドに潜り込む。
「ゼロ様。」
アインスがもそもそと動く。
「アインス。
今日は寝よう。」
「わかりました。」
そう言いながらもアインスは止まらない。
「アインス。」
「はい。
わかってます。」
その後も何度か同じやりとりをしたが、アインスが止まらなかったため、結局1時間程遅れて眠りについた。
✳︎
(随分寝たな。)
夕陽が差し込む部屋の中。
ベッドの横を見ると、アインスの姿は既に無い。
「ん?」
ふわっと漂う匂いに誘われてキッチンまで向かうと、そこには、アインスとフィーアの姿。
「おはようございまーす!
って、もう夕方ですけどね。」
「遅いわねー。」
「良く寝たよ。」
(2人とも飲んでるのか。)
キッチンの真ん中の料理台に、椅子を2つ持って来て、料理を作りながらワインを空けていた。
「さっさと寝ないからよ。」
「すみません。」
「大体、あなたの声大きすぎるわよ?
二階にまで届いていたんだから。」
「えへへ。」
「いきます。いきます。ってどこまで行くのよ!」
(結構2人とも飲んでるな。)
「だって、ゼロ様に愛されてる時間ですから、、、
コンスタン帝国くらいまでですかね!
アハッ!」
(アインスは相当飲んでるな。)
「本当にもう。
それより、ゼロ!
あなたも飲みなさいよ。」
「ああ。
じゃあ、貰おうかな。
何か作ってるのか?」
「ガーナーの串焼きです。」
「そうか。
じゃあそれも貰うよ。」
「それで?
話してくれるんでしょうね?
昨日、、、いや、今日のこと。」
「そうだな。
何から話すべきか。」
そうして、俺は話し始める。
ワインを飲みながら、ポツリ、ポツリと。
アインスとの出会い、シガルとの関係やテルレ公国での出来事。
そして、【不死の森】で何が起こっていたのかということを。
「信じられないわね。」
「そりゃあ、そうだろうな。」
「シガル様が、、、
いや、シガルが。」
「それも事実だ。」
「そうね、、、
わかったわ。
全てを信じる訳にはいかないけど。
でも、フォレストロトを2つも手に入れたことも事実なのよね。
それに、目覚めてからのあなた。
一段と圧が増しているわ。」
「まぁ、あの魔族の魂を継承したわけだからな。」
「そもそも、どうして私に声をかけたの?」
「たまたまだ。
シガルと俺との関係の流れだな。」
「そう、、、
ジェンはどうなったの?」
「わからない。
その後は姿を見せなかったからな。
明日にでももう一度行ってみるか?」
「それは待って欲しい。
まだ頭も追いついていないし、何より心が追いつかないわ。」
「ああ。そうか、、、
1つフィーアに頼みがあるんだが?」
「なに?」
「刺々しいなぁ。
まぁ、聞いて欲しい。」
そこで俺は、昨日ギルドにフィーアの指名依頼と共にこの屋敷の清掃の依頼を出したところ、希望者が殺到したため、ギルドが混乱し、依頼を取り下げざるを得なかったことを話す。
「そりゃねぇ。
私は知らなかったけど、この街の結構な人数があなたの鬼の力やその実績を知ってるんでしょ?
それは、そうなるわよ。」
「そこでなんだけど、フィーア。
正式にここに住まないか?」
「どういうこと?」
「ギルドから、その依頼もフィーアに頼んでみたら?と提案されて、俺の中で色々と考えたんだけど、俺に直接雇わせて貰えないかと思ってさ。」
「あなたが私を?」
「ああ。」
「それは、あなたにどんなメリットがあるのかしら?」
「信頼出来る奴が1人増える。」
「信頼出来る奴、、、
私は、いつ裏切るか分からないわよ?」
「フィーアと俺達の出会いは偶然だったが、今となっては有り難く感じている。
俺はフィーアを十分に信頼出来る奴だと既に思っているからな。
それにもし、前の魔族の時と同じようなことが起こった時は、一目散に逃げてくれていい。
それはアインスも同様だ。」
「私は逃げません。」
「今はそれで良い。
だが、俺は本気でそう考えていることを覚えておいてくれ。」
フィーアがグラスのワインをくっと飲み干す。
「良いわ、、、
これも何かの縁ね。
幸い、今の私には何も無いからね。」
「ありがとう。
正式な契約は明日にでもしよう。
俺は契約のスキルもあるし。」
「それも魂の継承で?」
「そうだ。」
「一体何人の魂を継承したの?」
「まず、鬼の一族頭領のゼン。
そして弟のジン。
奴隷商人のトッドに、泥棒のカン。
魔法使いのローレンに、今回の魔族のアノニムだな。」
そこまで言い切ると、フィーアは瓶ごとワインを空けて、言い放つ。
「本当に異常ね。
ゆっくり聞かせてちょうだい、、、」
「新しいものを開けますね。」
そうして、この夜は更けていく。
いつも読んでいただきありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします。




