表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魂を側に感じたら〜異世界上場会社を目指して〜  作者: 楽 我食
5 奴隷商人シガル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/106

78話 有へ

無であった。

途中まで、そいつの中は空っぽだった。

なぜなら、およそ感情と呼べるものが全く無かったためだ。

目に映る景色は、バスの窓を流れる景色のように通り過ぎていく。

食事をする時も、寝る時も。

人を殺める時でさへ波風は立たない。

その理由が何故なのかはわからなかったが、物心がついた時には、既にそのあり様であった。

時折男の目の前に現れる酷く気味の悪い1人の男。

そいつから出される指示に全て従う。

仕事は多岐に渡ったが、セリフだけを流暢に喋るロボットの様にその全てを淡々とこなしていく。

そんな日々が、繰り返し繰り返し行われ続けていた。

ある一瞬までは。


「だが、、、想像以上ではありませんがね。」


ゼンやジンを含む俺たちは、いつも通りにいつもの場所で記憶の追体験をしていた。

なぜなら、魔族の男が俺の中に入り込んだからだ。

だから、もちろん今行われているのは、魂の継承である。

幼い頃から現在に至るまでの記憶を辿る映像の数々。

それを皆で眺め続ける。

そうして、今目の前のスクリーンに現れたのは俺とミアの2人。

俺たちが公宮で相対した時の光景だ。

ここで初めて、この男の感情が映像を見ている俺たちに流れ込んで来た。


楽しい。


そして、それは戦闘の最後の最後まで続き、一番最後には、また別の感情さへ生み出していた。

しかし、生を受けてからここに至るまで。

これまでに無かった物が、突如自分の中に湧いて出たため、それは、男に困惑を抱かせる他無かった。


(これは何だ?

この胸の内からふつふつと湧き上がるこれは何なのか?)


その疑問は、魂となり【不死の森】へと向かった後も続く。


(もう一度あの場面に巡り合えないだろうか?

いや、もう一度ゼロに会うことが出来れば。)


そうして、舞台は【不死の森】。

念願の再会は、死ぬ間際に見た、真っ赤な鬼の手から伸びる刀剣の切っ先に生まれた感情を、俺の真紅の一振りに重ね合わせて、その答えへと辿り着かせた。


美しい。


何度も口にしたことのあるセリフの意味。

それをようやく見つけたところで、そいつの記憶は終わった。

映画の上映が終わると観客は帰路へ急ぐ。

俺がこれまでに魂の継承をした奴等も、それぞれが、それぞれの場所へと戻って行った。


最後に俺が立ち上がると、それを待っていたとばかりに、そいつも立ち上がった。


「俺に付いて来るのか?」


「ええ。まだまだ新しいものを見つけ出せそうですから。」


「お前の名前は?」


「名前ですか、、、

魔族に名前はありません。

必要もないですから。」


「そうか。

じゃあ、お前のことは"アノニム"と呼ばせてもらおう。」


「アノニムですか?」


「ああ。

名前が無ければ色々と不便だからな。」


「アノニム、、、

気に入りました。

それでは、私はあなたの旅路の一助となりましょう。」


「頼もしいよ。」


「ゼロ。

最後に一言だけ。」


「何だ?」


「私の兄は強いですよ?」


その言葉の瞬間に、意識は一気にもとの場所へと戻って行く。

(兄。このアノニムに指示を出し続けた男。

全てはこいつが?)


✳︎


「お目覚めですか?」


「ああ。」


目を覚ました俺を迎えたのはいつもの風景だった。

銀色のレースに覆われた、泣きそうなアインスの作り笑顔。


「どれくらいだ?」


「3時間程度でしょうか?」


アインスの膝から、頭を起こして視界を広がると、既に白モヤのかかった周囲と近くの焚火で暖をとるフィーアとギンが見えた。


「本当なの?」


そう呟いたフィーアは焚火に手をかざしながら、疲れきったという顔をしていた。


「魂の継承のことか?」


「ええ。

アインスから聞いたわ。」


「申し訳ございません。

フィーアさんがただ事では無いと慌てられましたので、この状況についてご説明をさせていただきました。」


「問題無い。ありがとう。

フィーア、、、

何を伝えれば良いのかも分からないが、俺が今、魂の継承をしていたことは事実だ。

3人ともありがとう。」


「それが今終わったと?」


「そうだ。」


「たったの3時間で?」


「そうだ。」


「もう、本当に訳が分からないわ。」


「ジェンは?」


「ゼロ様の横に感じていた気配の方のことですよね?

それでしたら、ゼロ様が倒れられる前に森の中へと消えていき、そのままです。」


「そうか。

アノニムに飛ばされたきりか、、、」

(魂同士の争いでそのまま消えることはあるのか?)


「そうよ!

そのジェンについても詳しく教えて欲しいわ!」


「そうだな。

とにかく、今回の目的は全て達成した。

魂の継承については完全に想定外だったが、、、

後、一仕事終えたら一旦俺の屋敷に皆で戻ろう。」


「ゼロ様。お身体の方は大丈夫ですか?

我々で回収しても良いですが、、、」


「いや、問題無い。

疲れているが、これは俺がやらないと。」


アインスにそう伝えると、真っ直ぐ目の前の木に向かう。


「ゼロ。

その木は何だか嫌な気がするわ。

近寄らない方が、、、」


鬼月に魔力を込めると、現れた1本の刀がスーっと木の根本を通り抜けた。


「正解だ。

フィーア。」


ドシャッ!


片手で押して倒れた木の幹の中は真っ黒で、その根本の下にフォレストロトが埋まっていることを示していた。


「掘り起こしますよね?

私も手伝います。」


「いや、試してみたい魔法がある。」


地面に手をついて魔力を込める。

込める魔力の量を増やすと、それは地面を波打ち立たせた。

同時に、周囲の地面を一気に寄せ集め、その木の根本を地下から上に押し上げる。


「う、嘘でしょ!?」


木の根本は、俺の頭を超えた高さまで上に上がり、ちょうど目の前に、フォレストロトが埋まっているであろう地面が現れたので、そこに鬼の手を突っ込んだ。


「良い成果だ。」


引き抜いた真っ赤な鬼の手には、妖しく黒光するフォレストロトが掴まれている。


(3メートル近くあるか?)


「ゼロ様!

凄いです。

新しい魔法ですか?」


「いや、どちらかと言うとローレンの魔法かな。

目覚めてから、魔力をより感じるようになっててな。

ボヤッとしてたものが明確に見えるようになったというか何というか、、、

とにかく、出来そうな気がしたから、試してみた。」


「流石ゼロ様です!

魔法は、魔力の量とそのコントロールが求められますからね!」


「魔法も凄いのね、、、」

フィーアがボソッと呟く。

もう大きな声は出せなさそうだった。


「くぁっ」

ギンの欠伸が見えたので、掴んだフォレストロトと、木をゲートの中に仕舞い込んだ。


「さぁ、帰ろうか。」


いつも読んでいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ