74話 反射
「もう少し奥だったかしら?」
暗闇をポゥッと光る頼りない灯りが、前へ前へと進んで行く。
黒色の恐怖に負けないように、力強く踏みしめる一歩が道を切り開いていた。
(結構、来たな。)
幸い魔物とはまだ遭遇していなかったが、この灯りを見て近づいて来る奴も少なからずいるだろう。
もしくは、既に俺達を視界に捉え、こちらが油断する時を待っているかもしれない。
「位置としてはこの辺りだと思うわ。」
「それは確かか?」
「ええ。
当時は常に自分達の位置を確認しながら進んでいたから、おおよその位置が合っていることは間違い無いわ。」
「そうか。
ちなみに、その時はどうやって見つけることが出来たんだ?」
「偶然よ。
本当にただの偶然。」
「偶然、、、
詳しく教えてもらっても良いか?」
「ええ。いいわよ。
あの時は森に入って2日目だったかしら。
森の調査が順調に進んでいたから、きっと油断していたのね。
真夜中に気付いた時には、周囲を魔物に囲まれていたわ。」
「見張りは?」
「もちろん居たわ。
でも、気付けなかったの。
そして、ジェンが私たちへ魔物が近付かないように、周囲へ火の魔法を放った時、その火から離れたところで、地面が真っ赤になっている場所があったの。」
「それが、、、」
「ええ。
魔物との戦闘の後すぐに場所を移動したから、実際に確認は取れていないけど、あの時見えたのは、絶対にカプラ草だったわ。
他のパーティのメンバーも同じ光景を見ていたし。」
「そうか。」
カプラ草は、昼は光を受け付けず、夜に光を吸収すると言われている。
つまり、昼間は透明で、夜に周りの色を取り込む。
夜。
黒。
普段は真っ暗な闇の中に、時折生まれる僅かな光を吸収して育つ。
「ここには星の光も届かないのね。」
高く聳える木々を眺めてフィーアが呟く。
「場所の案内はしたけど、この後はどうするつもり?
手当たり次第燃やす訳にもいかないし、灯りを大きくすれば魔物が襲って来るリスクも増えるし、、、」
「なるほど。
わかったよ。」
(そういうことなんだな。)
「アインス。
ギンに周囲を見張らせて、野営の準備をしておいてくれ。」
「わかりました。」
「私は?」
「フィーアは、今の内に眠っておけ。
今日の夜は長くなりそうだ。」
「眠る?」
「ゼロ様は?」
「カプラ草を探す。
多分、うまくいくだろう。
お前が居れば。」
2人と1匹は不思議な顔をする。
「ゼロ。あなた、どこの誰に話しかけてるの?」
「2人は言ったとおりここで待っていてくれ。
アインス。
頼まれてゲートの中に入れていた野営のセット、酒とドン・ファンクの肉を少し置いていく。
何かあれば、大きく叫べ。
それ程遠くには行かない筈だ。」
「わかりました!」
ドン・ファンクの肉と聞いたからか。
アインスはとびきりの笑顔で良い返事をする。
「ちょっと。
聞いてるの?
急にどういうこと?」
「フィーアさん。
とりあえずご飯にしましょう。
準備を手伝ってください。」
「じゃあ、よろしく頼むよ。
お前は俺に着いて来い。」
「ちょっと!
ゼロ!!」
ゆらり。
虹色に輝く玉が、その周りに光の粉を撒いて、俺の方へと近付いてくる。
「目的はカプラ草だ。
話は後で聞いてやる。
この辺り一帯を探したい。」
その光の玉は、右に左に揺れながら森の中を漂って行く。
2時間程度だろうか。
その後ろを付いて歩いていると、やがて同じ場所を旋回し始めた。
「なるほど。」
不思議だが、目を奪われるような光景がそこには広がっていた。
虹の魂が漂う下にその輝きを映す地面。
過ぎていくところから色を消し、迎えるところが美しく色づく。
僅か半径数メートルの中に、虹色に点滅する群生は存在していた。
(これがカプラ草。)
細い茎の先端に大きなハート型の葉。
高さは膝の下程度。
それが無数に並んでいる。
(半分程度いただくか。)
鬼月を発動し、真ん中で区切った半分のところへ走らせると、マジックハンドで一気に鬼の手の中にカプラ草を集める。
布の袋の中にパンパンに詰め込んだ後は、袋の入り口を縛ってゲートの中に仕舞い込んだ。
その様子を伺うように周っていた虹の玉は、興奮したのか上下に激しく揺れる。
「まぁ、待て。
大体分かっている。
一旦、仲間のところに戻った後、お前のところに向かおう。
そこで話を聞いてやる。」
俺の発言の後に、スーっと泳ぐように漂うと、それはうなづいたかの様な印象を俺に与えた。
「じゃあ、付いて来てくれ。」
アインスの方へ戻ると、遠目に炎の燈りが映る。
それを目印にどんどんと近付いた先には、太い木々の間に、地面にT字で木の幹を垂直にさし、鞣して繋ぎ合わせたゴーシュの皮を掛けて作られた簡易のタープ。
そしてその近くで、火に薪を足すアインスの姿が。
(流石、アインスだな。)
「戻ったよ。」
「お帰りなさいませ。」
「フィーアは寝てるのか?」
「はい。
毛皮の上でギンも。」
火の隣。
屋根の下に敷かれた毛皮の上で丸まっているギンを、金髪のフィーアが抱きかかえて寝息をたてていた。
「アインス。
飯は?」
「はい。
もう準備出来ております。」
「いや、食べたのか?」
「はい。ギンとフィーアさんと先にいただきました。」
「そうか。
カプラ草は一応取れたよ。」
「やはりそうでしたか。
ゼロ様のあの顔を送り出した時から、それを全く疑っておりませんでした。
それにしても、この短時間で。
流石でございます。」
「ああ。
ありがとう。」
(相変わらずアインスは。)
「いえ。
ゼロ様も食べられますか?」
「いや、まだ用事があってな。
悪いがもう少し待っておいてくれ。」
「そうですか。
ゼロ様にしか聞こえない声ですか?」
フィーアが起きている可能性を考えたのか。
随分と遠回しな言い方。
その心意気に応えるように、小さく頷いて、今度は虹の玉の方を向いた後、顎の先を振った。
すると、その虹の玉は来た道を引き返すように戻って行き、やがて、【不死の森】の入り口近くまで戻って来た時、俺だけに向けられた怒気を含んだ声が聞こえる。
「お前は何なんだ?」
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