73話 後悔
辺りはすっかり暗くなっていた。
それぞれが手にランタンを持って、一本道を進んで行く。
目的地は【不死の森】。
夜は一層不気味さを増す。
(まぁ、俺は大して何も思わないけど。)
先頭の俺とその後ろにフィーア。
最後尾はアインスとギン。
道中の沈黙を破ってフィーアが話し出した。
「アインス。
先ほどはごめんなさいね。
何か。」
「私"は"結構です。」
(そんなに強調しなくても。)
「俺も全く構わないさ。」
「ありがとう。
折角だし、私の話をしても良いかしら?」
「ああ。是非。」
「ありがとう。
私が【不死の森】から生き延びた時の話。」
そう言ってフィーアは語り出す。
ここに至るまでの話を。
フィーアは話に聞いていたとおり、4人組のパーティでテルレ公国とセルカ王国の国境付近で活動をしていた。
4人の付き合いは10年近くと長く、徐々に依頼の難易度を上げては、活躍の場を広げて来たそうだ。
貴族の指名依頼も数多くこなし、ようやくパーティの2人がランクAに昇格した時、この街グランの奴隷商シガルから指名依頼があったそうだ。
報酬は破格。
場所は【不死の森】。
内容は簡単な森の調査。
これまでに何度か【不死の森】を訪れたことがあったことや、調査結果次第では専属化の話も出ていたことから、その依頼を快諾した。
また、それをきっかけに、グランに移り住み、セルカ王国の冒険者ギルドの所属となって活動を続けていくことを決めたそうだ。
(この街が一番【不死の森】に近いからな。)
指名依頼である【不死の森】の調査は3日間かけて行われた。
森の中での野営も問題なく順調にこなし、初めて対峙する魔物にも対応することが出来ていた。
ちなみにフィーアはパーティでの補助役をメインに行っていたそうだ。
これからも問題無くやっていけそうだと、皆の経験が自信へと変わっていく空気を感じていた最終日。
調査を切り上げようとした時に、そいつは突如現れた。
パーティの前を歩いていたランクAの斥候の男が一瞬にして真っ二つとなると、自分の隣を歩く同じランクBの魔法使いの首が飛んだ。
逃げろという声と共に残りの1人がフィーアを投げ飛ばすと、一瞬の迷いの後に踵を返して走り出す。
走って走って走り続けた。
とにかく誰でも良いから助けて欲しかった。
ギルドまで行けば。
そう思い、心臓が張り裂けそうになっても決して止まらなかった。
永遠とも感じるほどの距離を駆けて、ようやく【不死の森】の入り口まで近付いた時、再びそいつは現れた。
見慣れた首を手に持って。
「ひっ!?」
「手こずりましたよ。
流石はAランク。
ただ、私の力はこちらの大陸でも十分に通用することがわかりましたので、良い成果です。」
あまりの出来事と恐怖。
そして、先ほどの一瞬見えた姿とは変わったその男の異様な出で立ちに、気づけば座り込んでいるだけであった。
「さぁ。どうしましょう。
嬲り殺したいところですが、今回は特別に逃してあげましょう。
何せ仲間を置いて1人で逃げ出すような人です。
我々の役に立つ見込みがある。
今日のことを誰にも言わないという条件を守れますか?」
フィーアが震えて動けないままで居ると、畳み掛けるようにそいつは話す。
「どうする?死ぬか?
死にたくないなら。
俺の言うことが分かったのなら、一度だけ首を縦に振れ。」
動かなくなった全身にありったけの力を込めて、無理矢理動かし、一度だけ首を縦に振ると、吐き捨てる様に続けてそいつは言った。
「時が来るまで誰にも何も喋るな。
今から、お前が誰かに何かを話したかどうかがすぐに分かる魔法をかけておこう。
破ればすぐに殺しに行く。
我々の目的まではまだ時間がかかるが、その時になれば使いを寄越そう。
それまで涙も流さず、糞尿だけを垂れ流して、1人で静かに生きろ。」
そう言ってそいつは姿を消した。
フィーアはそこからの記憶がほとんど無いそうで、その魔人がその場に置いて行った首を一つ抱えてギルドに戻ると、察したギルドの担当者が何も話さないフィーアに変わって、遺体の処理や残りの手続きを進めた。
またその時に、シガルから依頼が達成出来なかったことについて何か咎められることも無く、それ以来一度も関わりは無いらしい。
(すべて予定どおりか。)
但し、周囲から漏れ聞こえる噂は数匹のゴブリンに不意打ちで殺された等酷いもので、数週間毎に宿を変えては姿を隠し続けていた。
それが自分の耳に届かないように。
ようやく噂が落ち着いて来た頃、目の前に俺が突如現れたため、最初は恐怖したらしい。
遂に迎えが来たのだと。
「ふう。
これがあなたと出会う前の話。
助けられたあなたには、話しておきたくて。」
一つ気になったことがあった。
「その、最後まで戦ったそいつは、フィーアとどういう関係だったんだ?」
「ジェンのこと?
どうして?」
「他の話をしている時と声色が違った気がして。」
「ふふっ。
名前を呼ばなくても分かるものなのね。
恋人だったわ。
私にとって大切な存在よ。
でも、いざという時には自分の生命の方を優先したのだけどね。」
「まぁ、それは誰でも。」
(仕方ないだろう。」
アインスは、私はそんなことは無いという顔をしていたが、口には出さないように目で止めた。
「ええ。
私もその決断に後悔はしていないわ。」
「どうしてその話を?」
「誰かに聞いてもらって、自分は間違って無いと肯定して貰いたかったのかも。
それに、その依頼の時なの。
【不死の森】で偶然カプラ草の生息地を見つけたのは。」
「そういうことか。」
「連れて来て良かったでしょう?」
アインスの方を向いて話しながら、ようやく森の入り口に着くと、フィーアが前に出る。
「私が先頭を行くわ。
ついて来て。」
声は震えていた。
「ああ。任せるよ。
傷一つ付けはしないがな。」
「ありがとう。
頼りにしてるわ。」
フィーアは再び【不死の森】へ足を踏み入れた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回からまた毎週更新とさせていただければと思います。
よろしくお願いいたします。




