63話 貫く
森に入った俺たちは、全速力で走っていた。
鬼月で枝を切り開き、真っ直ぐ目指した方角へと進み続ける。
次第に森の木々はドンドン高くなり、登っている太陽の光がほとんど届かない程の奥深くへ。
時折、視界の端に虹の光が現れては消えた。
「獲物だ。」
微かに聞こえた声が、耳にこびりつく。
魔物と死人の怨念と。
不死の森は奥に行けば行くほど危険度が増すと言われている。
(確かに凄いな。)
俺は、その伝聞を誰よりも理解した。
やがて、駆ける地面に水がちょろちょろと流れ始める。
不思議なことは、その水は、山からではなく、俺たちと同じく山の方へと向かって流れていた。
水量は徐々に増していき、いくつか同じ様な水が合わさり小川となり始めた頃、眼前に目的の池が現れた。
(ここが。)
地図で見ていたとおり、木々に囲まれた広い池がその場所には存在していた。
だが、端から端が見えないという程では無い。
「ギンわかるか?」
そう言うとギンが鼻をくんくんとさせ、目を閉じて集中させる。
(ギン、、、何か逞しくなったか?)
「ヴルルルッ!」
唸った次の瞬間。
ザバンッ!
俺達のすぐ傍。
池の中から突如現れた巨大な口が、飛んでいた鳥の様な魔物を飲み込んだ。
(こいつが。)
そう思った時には、すぐにそいつは池の中へと姿を消す。
(やっかいだな。)
ただでさへ強力と言われている相手が、視界にすら入らない。
近くの石。
人間の頭程の大きさの石を鬼の手で拾うと、さっきまでいた辺りを狙って思い切り投げつける。
ドボンッ
水の弾けた音だけがやけに響いただけで、何ら反応はない。
もう一回。
今度は自分の身体より大きな岩を、再び鬼の手で掴むと、両手で思い切り放り投げた。
ドボンッ!!
先ほどより強く鳴った池の音が周囲により響く。
だが何ら反応は無い。
「ふぅ。」
(鬼月を発動しても、水の中じゃあなぁ。)
攻めあぐねているという言葉がぴったりのこの状況。
だが、どこかワクワクしている自分もいた。
(試してみるか。)
ふっ。と一呼吸強く吐く。
反動で大きく吸い込んだ空気。
同時に魔力を練り上げる。
頭に浮かべた最初のイメージは、天を駆ける馬。
やがて、真っ暗な空に光る雷鳴が、明確に映像化された時。
バチっ!
「来た、、、」
自然と上がる口角に合わせて、更に注ぎ込む魔力を増やす。
バチっ!バチバチバチッ!!
全身に迸る雷電を右腕に集中させると、それを一気に池の中に突っ込んだ。
(全員死ね。)
一斉に水面が揺れ動く。
大きな魔物から小さな魔物まで。
俺の近くに居た池の中の生物達が一斉に暴れ出す。
(まだまだ。)
更に魔力を込めていく。
やがて、最初に暴れていた魔物達が気絶して、ぷかぷかと水面に浮かび出すと、それを目掛けて水中から再び大きな口が現れ、一気に池の水ごと飲み込んでいく。
「チッ!」
すぐに右手を前に向けて、その姿が消える前に電撃を飛ばす。
(そこまで上手くはいかないか。)
ゼンの様に雷の刀を形成する程とはならず、纏っていた電撃を何とか飛ばしたところが関の山。
それでも多少は効いたのか。
大きな巨体の動きが鈍った。
すぐに鬼の右拳で、横っ面をぶん殴ると、丘に吹き飛んだことにより、ようやく眼前にその巨体を全て現した。
(まさしく、巨大なワニだな。)
標的は今の出来事にまだ頭が追いついていない様子。
「行け!鬼月。」
背後に現れた無数の刀が、目標へと放たれる。
いつもの必勝パターン。
カンッ!
「おおっ!?」
想像していた結果と異なり、いくつか刺さった刀もあるものの、大半の刀がその分厚い皮膚に弾かれた。
(これも試すか。)
飛び立った刀達を急いで手元に戻すと、それぞれの刀達に意識を集中し、1つに束ねるイメージを。
「ッ!?」
目の前には大きな口。
相手も流石にそこまで甘くはない。
ガンッ!ガンッ!ガンッ!
勢いよく三度。
口が開いては閉じ、開いては閉じた。
その全てをバックステップで躱すと、目を細めた焦点が俺に合う。
(これで、明確に敵と認識したか?)
再び口が開くと、今度は、勢い良く水が飛び出して来る。
飛び上がって避けると、かかった木から煙が上がる。
(酸か?)
木の上に躱すと、相手の開いた口の先に可視化出来る程の魔力が集まっていた。
(来る!?)
そう思った次の瞬間。
無数に散った光が辺り一面に降り注ぐ。
「ゲート。」
前に出現させたゲートを攻撃に合わせる。
俺を直接狙っている訳では無さそうだ。
辺り一面。
そこら中へと魔法が降り注ぐ。
ひとしきりの攻撃が止むと、気が済んだのか。
俺の生死も確認せずに、のそのそと池の方へと戻り始めた。
「まだ、生きてるぜ。」
ドンッ!
ゲートから、先ほど吸い込んだ魔法を打ち返す。
振り返ったその顔は、怒りのせいなのか。
大量の血液が送られて、真っ赤に充血した目がこちらを睨みつける。
口を大きく開くと、再びその先に魔力を集めていく。
今度は先ほどの倍以上の大きさ。
しかし、それを黙って見ている程親切ではないし、その僅かな時間を見逃すこともない。
イメージは、刀を水飴のように、柔らかく、柔らかく。
それを一本づつ丁寧に束ねる。
5本、6本。
7本目に差し掛かろうとしたその時。
相手の魔法が放たれようとする。
「貫け。鬼月。」
目の前に現れた、2メートルはある一本の刀。
それが勢い良く放たれると、魔法を切り裂き、身体に突き刺さる。
「獲った。」
そう確信を得るほどの手応え。
しかし流石というべきか。
刃は生命までは届かなかった。
身体を強くバウンドさせると、池の中へとひとっ飛びで逃げ込んで行く。
「ヴァウッ!ヴァウ!」
ギンが吠える。
「大丈夫だ。
逃げられはしない。」
そう。
相手が逃げ込んだのは池の中。
奥底に潜られれば、普通はどこに隠れたかなどわからない。
しかし、今回は違った。
先ほどの鬼月が刺さったままだ。
今度はじっくりと練り上げる。
10本、、、20本、、、30本、、、32本目に到達したところで、今の俺の魔力の限界を迎えた。
(これで届くか?)
疑念は一瞬で吹き飛ぶ。
現れた刀は、先程より更に大きく5メートルを超えている。
真っ黒なその刀身が、相手の死を予告していた。
(いける。)
確信を持って命じる一言。
「刈り獲れ。」
振り下ろした俺の右手に合わせて、在らぬ速さで水面へと入っていく。
ほとんど抵抗が無かったのか。
水飛沫一つあげることもなく。
音もたてずに。
対象の生命を貫いた。
水面に波紋がゆらりゆら。
やがて後追いの波が走っていく。
赤色の混じったその波の行き先はいずこ。
波が収まった池には、再び静寂が訪れていた。
先週更新出来ずにすみません。
引き続きよろしくお願いいたします。




