60話 手土産
街に帰った俺達が早速向かった先は宿屋のドン・ファンク。
「いらっしゃい、、、
なんだい。
また、あんた達かい?」
俺達はあの日以来、【不死の森】の帰りに何度かこの宿屋に昼飯を食べに来ていた。
理由は、ここの食事が美味しいというのも勿論あるが、元ランクAパーティの一員で、商人ギルド長レックスからの依頼対象。
Bランク冒険者のフィーアと再び話す機会を作れないかと探っていたためだ。
現状、以前に一度話してからは、会えてすらいない。
正確には、何度か階段を降りる足音からフィーアの気配を感じたが、俺達が居ることに気付くと、すぐに部屋へと戻って行った。
(完全に避けられてるよな。)
「今日も昼食を食べさせてもらっても?」
「良いよ。
じゃあ、2人で銅貨20枚ね。
でも、余計なことかも知れないけど、しつこい男は嫌われるよ?」
「そうですね。
ご忠告ありがとうございます。
気をつけます。」
「まぁ、私は売上になるから良いんだけどね。」
「はい。
それよりも、今日はお土産があります。」
「あら、何かしら?」
急に声色が変わるのは女性の性なのか。
パッと明るくなった表情は、その後すぐに驚きの表情へと変わっていく。
「これは?」
俺が宿屋の女将に差し出したのは、ハニーベアの頭部。
ゲートから既に取り出して、布に包んでおいたものだ。
「ご存知かも知れませんが、ハニーベアの頭部です。
隣のアインスが今朝【不死の森】で仕留めましてね。」
「まぁ。それは凄いわね。
これを私達に?」
「はい。そうです。」
「嬉しいわ。
でも、何かお願い事でもされるのかしら?」
流石は客商売のプロである。
その辺りの確認は怠らないし敏感だ。
「いえ。いつも美味しい食事をいただいているのでその御礼です。
特に他意はありません。
ただ、、、」
「ただ?」
「中々、普通の方が口にすることの無い貴重な食材ですので、是非宿の皆さんに振る舞っていただければと。」
「そういうことね。
わかったわ。
今日の夕食で宿に泊まっている皆に振舞うようにするわ。」
「お願いします。」
「胃袋から攻めるというのは悪くないわね。」
そう言うと、女将はハニーベアを受付の裏の厨房へと持って行ったので、俺たちも隣の食堂のテーブルへと腰掛ける。
しばらくアインスと話していると、女将さんの旦那であり、宿屋の主人である熊の様な大男が昼飯を運んで来る。
この宿は主人が作る料理に定評があるのだが、出される料理は、その作り手の見た目と裏腹に、繊細な味付けが特徴的で、すっかりその味が気に入った俺は、料理を一目見ると一気に口の中が唾液で溢れていく。
「相変わらず美味しそうですね。」
「そりゃあ、これに命かけてるからな。」
「そういえば、この宿屋の名前って魔物の名前ですよね?
何か由来があるんですか?」
ドン・ファンク。
ワニの様な見た目の巨大な魔物。
繁殖期になると栄養を蓄える為に【不死の森】に姿を現し、次々に他の魔物をその胃袋に収めていく。
魔物の不思議なところは、魔物同士では常に弱肉強食を繰り返しているが、その輪の中に他の種族は入らないということ。
当然、人間やその他の種族が魔物に襲われる事例は後を絶たないのだが、これまでに食べられたという者は確認されていないそうだ。
食べもしないのに襲うということは、何か特別な理由でもあるのだろうか。
「名前の由来はその昔。
俺の爺さんの爺さんの更に上の世代の頃に遡る。
当時から俺の家は宿屋を営んでいたそうなのだが、その頃は食事の提供はしてなかったそうだ。
そんな時、立ち寄った旅人に良くしてやったら、そいつから、ドン・ファンクの肉を貰ったらしい。」
「へぇ。」
「その時の味がこの世のものとは思えない程だったらしくてな。
食事の感動を多くの人に伝えることが出来ればと考えて、宿屋に泊まる客に食事を出すようになったそうだ。
それ以来、内の宿屋は常に客に出す食事にこだわってるって訳さ。」
「なるほど。
そうなんですね。」
(どおりで美味しい訳だ。)
「まぁ、俺もこの看板を背負っている以上、死ぬまでには口にしてみたいがな。」
「そうですよね。」
「話はこれくらいだ。
冷める前にさっさと食ってくれ。」
「わかりました。」
そう言って、口に含んだ食事は今日も格別で、俺もアインスもすぐに綺麗に平らげた。
腹ごしらえもすっかり終わったので、ギルドに顔を出して、レミアに話しかける。
「はぁ。
この短期間に二度目ですか。」
「はい。
解体をお願いしたいんですが。」
「しかも、今日はアインスさんが?」
「そうなんですよ。」
「そもそも滅多に姿を現さないことと、その凶暴さ。
そして何よりもあの味。
貴族の方々もこぞって買い取りますから、ハニーベアの肉なんて滅多に表に出てこないんですけどね。」
「まぁ、裏でコソコソするのも好きじゃないので。
一応ギルドに報告も兼ねて。」
「わかりました。
こちらに持ち込まれたということは、ギルドも取り分をいただけるんですか?
無ければ解体の費用をいただきますが。」
「肉の半分と毛皮はお渡しします。
肉の残りと魔石は下さい。
それで良いですか?」
「良いですかも何も。
十分過ぎますよ。
欲が無いですね。」
「じゃあ、解体の費用に比べて多いと思う分はギルドポイントでいただければと思います。」
そう言うと、レミアは再びため息をつく。
「わかりました。
ギルド長にはその様に伝えておきます。」
「よろしくお願いします。」
「今から取りかかりますので、明日にでも取りに来てください。」
「ありがとうございます。」
「最近良く【不死の森】で魔物を狩られてますよね?」
「ちょっと事情がありまして。」
「そうですか。
わかりました。
では、また明日お待ちしております。」
「はい。
いつもありがとうございます。」
そう言って視界に入れたレミアの顔は、何だか少し疲れている様だった。
(迷惑、、、かけてるよな?)
その表情は、何か日頃の御礼でもした方が良いかと、俺の頭の中に考えをわかしていた。
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