06話 東端の街
「うーーーんっ」
馬車の荷台から降りた俺はぐーっと伸びをしていた。
吹き抜ける風が気持ちよく、鼻が捉えた季節は夏から秋へと移ろいでいる。
レンド村を出て徒歩で6時間。
隣の街の壁の外で、無事に乗り合いの馬車を捕まえることが出来た。
そして、乗り継ぎに乗り継ぎを重ねて既に2週間。
旅路は国境を越えたコンスタン帝国の南に位置するセルカ王国へ。
この休憩を最後に、あと2時間程でようやく目的地であるセルカ王国東端の都。
グランへと着く予定だ。
2週間の旅路は長かったが、乗り合いの馬車には冒険者も多く乗っており、その人達のこれまでの話を聞くだけで退屈はしなかった。
ここまでの交通費が1日あたりおよそ銀貨1枚の全部で14枚程度。
途中で行商人などから、食料や水を何度か購入したので銀貨2枚程度多く掛かってしまい、長男カッタドからの支援が無ければ、街に着いた早々厳しいことになる予定だった。
(いつか何かの形で返せればな。)
今回、グランの街を目的地にしたのには理由がある。
元々、レンド家を除名となった身分であったので、コンスタン帝国を離れるのことは絶対条件。
そして、近接する国の中でセルカ王国は、それ程大きな国でも無いにも関わらず、冒険者に広く知られている。
その理由は、東端の街グランの近くに【不死の森】と呼ばれる森があり、その森には、希少な魔物や植物が多く存在しているからだ。
(冒険者達にとっては格好の稼ぎ場だよな。)
そして、この【不死の森】には、もう一つの側面が。
それは、この世への未練や何らかの事情により、誰にも継承されなかった魂が、呼び集められて来るという噂。
その無念の魂によるものなのか。
【不死の森】で活動を行なっていた冒険者が、突如行方不明になったり、死体で発見される事例は後を絶たない。
直近では、グランの街に移住を決めた鳴り物入りのランクAパーティが、初日の探索で壊滅的な被害を受け、重傷を負った1人しか返って来なかったという話を馬車の中で聞いた。
そして、俺がグランの街を選んだ理由は、まさしくその側面の方にある。
なぜなら、長男カッタドの魂の継承を見て以来、恐らく自分には魂を見ることの出来るスキルが開花したのではないかと考え、それを確かめるには、もってこいの場所だと思ったからだ。
(もしかすると、俺も魂の継承を経験出来るかも知れないしな。)
そんな気持ちも含みつつ、俺はグランの街に到着したのだ。
✳︎
門の前に着くと、街に入る為の許可証を発行してもらう手続きが必要だったのだが、これにまた半日。
貴族や商人が優先されるため、農家の出身と偽った俺は、手続きまでの待ち時間が随分長い。
結局、保有しているお金を見せて、銀貨4枚を支払う事で街に入る事が認められ、許可証が発行された。
この時から俺は、前世の名前である[ゼロ]を名乗ることにした。
(街のスラム街にでも居座られたら、困るからだろうな。
それにしても、兄貴からのお金が無かったら本当にまずかったな。)
自分が蓄えていた銀貨20枚分は、街に入ったタイミングでほとんど無くなる。
許可証片手に入った街の中。
辺りは既に薄暗くなってきており、出店やレストランが活況となっていた。
色とりどりの店はまるで縁日の屋台。
新しい街への期待と美味そうに漂う匂いを胸に膨らませた。
誘惑を振り切り、早速街の真ん中の冒険者ギルドへと一直線。
ギルドは、受付の横に酒場が併設されているようで、入った先には溢れかえる冒険者が。
今日の報酬を受け取ったのであろうか。
酒や料理を楽しんでいたのだが、どいつもこいつも騎士団では見た事の無いような風貌をしており、前の世界ならボッタクリバーのお会計の時に現れる様な奴ばかりだ。
その光景を尻目に受付へと向かうと、綺麗な女性が数人座っていたので、目が合った1人に話しかけた。
「すいません。冒険者ギルドに登録したいんですけど。」
「初めての登録ですか?それではこちらの登録書に、必要事項をお書きください。」
「ありがとうございます。」
渡された書類に必要事項を書き、街に入る時に貰った許可証と一緒に受付の女性に手渡す。
「ゼロ様ですね?申し遅れましたが、私は受付のレミアと申します。それでは、こちらでギルドカードを発行いたします。ギルドカードが今後は身分証にもなりますので、無くさない様にお願い致します。ギルドについての説明は必要ですか?」
「はい。お願い致します。」
その受付の女性は丁寧に説明を始める。
ギルドは元々冒険者の立場を守る為に発足され、今や殆どの国や都市に拠点を持っていること。
基本的には、それぞれの国毎でギルドを設立しているため、その国の依頼はその国のギルドが引き受けることとなっていること。
但し、冒険者にとっては、国というものは余り意味を持たないため、ギルドカードさへ提示を行えば、どこの国や都市であっても、その場所の依頼を受けることが出来る様になっていること。
(どこでも働ける訳か。)
また、冒険者にはそれぞれランクがあり、種類はA〜Fまで。
ランクが上がれば上がるほど、受けられる依頼の種類や、報酬の取り分も増えていくという。
ランクを上げる為には、依頼をこなして、ギルドポイントを積み上げれば良いようだ。
「ゼロ様は特に優れた功績等も無いとの事ですので、Fランクから始めていただきます。」
受付の女性はそう告げると、ギルドカードを渡して来る。
そこには俺の名前とFランク。
そしてギルドポイントを表す0PTの文字が並んでいた。
「簡単な説明は以上になります。
ちなみにDランクまでは、1月に1回は必ず依頼を受けて達成してください。
もし、1か月全く依頼を受けなかった場合は冒険者ギルドの資格剥奪となり、再度登録する際には、1ランク下からのスタートと別途手数料がかかります。
今回は初回手続きですので、手数料はかかりません。」
(クレジットカードの会員みたいだな。)
そう思いながら、カードを手に取って見ていると、受付の女性が続けた。
「以上になりますが、何かご不明点や聞いておきたい事はございますか?」
「特に無いんですけど、【不死の森】ってFランクでも入れますか?」
俺がそう尋ねると女性が答えた。
「【不死の森】には、ランクは関係無しで入れますが、出来るだけ手前での活動をお勧めいたします。
奥に入れば入る程、その危険度は増しますので。」
受付の女性は、変わらない表情でそう告げた。
東端の街グランのギルドで、冒険者ギルドに来る者は殆どがその目的なのだろう。
俺は【不死の森】への行き方を聞いて、冒険者ギルドを後にした。
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