58話 素材集め
スッ!
包丁で誤って指の先を切った時、痛みと血が現れる前に、スッと綺麗な線が皮膚に入る。
それをどこか自分のことでは無いかのように眺めていたことを思い出した。
そして、じわりと滲んだ血を見て我に返るのだ。
あの僅かな時間に巡る思考はどこから来るのだろうか。
今、目の前で広がった光景は、それを何倍にも拡げたものだ。
アインスが真っ赤な剣で切りつけた魔物の首には、有無を言わさず線が入り、時間差でズレた首と身体の隙間から、噴き出した鮮血と共に命の終わりが告げられる。
「どうだ?慣れてきたか?」
「はい。恐ろしい程の切れ味です。
それに、、、」
「それに?」
「はい。何かゼロ様、、、正確にはゼン様が手を添えていただいているような、そんな感覚がします。」
「そうか。」
(鬼の力か。)
「このような素晴らしい剣を持たせていただいて、ありがとうございます。」
「それについては気にしなくて良い。
それよりも、耳に付けないのか?」
アインスの手の平で再びピアスへと姿を変えたNO.151を見て言う。
「何か、私なんかが本当に良いのかな?って思ってしまって。」
「そういうことか。
気にするな。
帰ったら付けてやる。」
「はい。
ありがとうございます。」
小雨が気温の低下を誘い、体温を奪う中。
朝からアインスとギンを連れて【不死の森】へと来ていた。
今日から森の中を探索し、ポーションの素材となる薬草と魔石を集めるためだ。
理由はいくつかあるが、1番大きいのはテルレ公国での出来事だろう。
ダルク家の公女であるミアから秘蔵のポーションを貰ったことをきっかけに、あれ程の効果では無いにしても、それに準ずるものを創りたいという気持ちが俺の中で膨らんでいたからだ。
そして、その為には大量の薬草と魔石。
中でも、ポーションの質を高めるためのより強い魔物の魔石を獲得する必要があった。
この世界では、様々なインフラに魔石が使用されている。
例えば、俺の屋敷の廊下を照らす灯もその一つ。
冒険者にとって魔石は、大切な収入源であると共に、冒険や生活にとって欠かせない物の代表格であることに間違いない。
しかしながら、これまでの俺は生活に必要な程度の魔石は街で買って済ましてきた。
だが、今回のポーション作りにあたって必要となる強い魔物の魔石は、街中に流通することなどほとんど無いため、自分達で獲得する必要が生じたわけだ。
アインスの一振りによって倒れた魔物は、牛の様な顔をした二足歩行の"カラガラ"。
蹄の強力な一撃が冒険者の防具を貫く。
この魔物は、ランクBパーティなどが良くギルドの依頼を受けて納品しているようだが、今回はアインスが一人で難無く仕留めた。
「こんなものか。」
朝から森に入ること既に3時間。
仕留めた魔物は6匹で、その中ではカラガラが最も強い。
いくら【不死の森】と言えど、常に魔物と出会う程、ウジャウジャと居るわけでも無く、探し回った結果がこれ。
そして、森の奥の山側にでも行かなければ、強い魔物と出会うことは珍しいため、基本的には訓練も兼ねてアインスに戦わせ、俺は魔物の血抜きと心臓の中にある魔石の回収を行っていた。
「まだまだ足りないな。」
(何かもう少し方法があれば。)
「引き上げるか。」
「はい。」
鬼の手でカラガラを吊るし、しっかりと血抜きをした後、以前アームクラブの捕獲の際に使用した網へ、先に入れた他の魔物の上に重ねてゲートに仕舞い込む。
そうして、森を出て向かった先はセーラのポーション屋。
テルレ公国でポーションを配った結果、大量に持っていたポーションのストックが無くなっていたため、以前習ったとおりに薬草を煮詰めるところから始めて、先ずは通常のポーションや倍の魔石を使って作るハイポーションの大量生産を目指す。
セーラには作ったポーションの一部を譲ることで、お店の釜や鍋を貸してもらっていた。
今日はひとまず鍋で大量の薬草を煮詰める段階まで済ませ、一旦冷まして明日からの作業のために屋敷へと戻る。
帰り道に露店で買った遅めの昼飯を頬張りながら、改修作業中のマグガーラや職人たちに挨拶をした後、部屋に戻ってアインスからNO.151を受け取ると、丁寧に水で洗い、沸騰した鍋に入れて消毒後に度数の高い酒をかける。
「いくぞ?」
「はい。」
キラリと光った針の先がアインスの柔肌をゆっくり貫く。
「っ。」
「大丈夫か?」
「はい。ありがとうございます。」
通したピアスの裏に留め具をつけて、耳に着けたピアスの周りにセーラから買ったポーションを垂らす。
「これで大丈夫だ。」
俺は開けたことが無いため、ピアスのことは詳しく無いが、普通は開けた穴が安定するまでに時間がかかるそうだ。
しかし、この世界ではポーションを使うことで、瞬時にピアスホールが出来上がる。
「綺麗だな。」
赤色が銀髪のレースの隙間に光って良く映えていた。
(それにしても不思議だな。)
何度見ても、この付けたピアスが剣に姿を変えるというのが不思議で、これを生み出した魔道具職人のトレスの腕に感心する。
「あまり、見ないでください。」
照れたアインスの頬が染まる。
「ああ。すまない。
その状態で使って見てくれ。」
トレスからは、付けたまま使用することが出来ると聞いていた。
「はい。」
返事の後にアインスが目を閉じた瞬間。
右手に真っ赤な剣が再びその姿を現す。
「凄いなぁ、、、
戻せるか?」
「はい。」
続けてそう言うと、剣は姿を消して再び耳にピアスが戻って光る。
その光景が不思議で不思議で。
その後、アインスに何度も繰り返して見せてもらい、気付けば夕食の時間も過ぎる程に夢中になっていた。
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