57話 飛び込み
ぐ〜
「お腹減ったよな?」
「すみません。
鳴ってしまいまして。」
アインスのお腹が昼時を告げると、再び広場まで戻って来た俺たちは、教えてもらった宿屋のドン・ファンクへと向かった。
「いらっしゃい!」
受付の快活な中年女性の声。
「こんにちは!
冒険者のフィーアさんがこちらに泊まってるとお聞きしまして。」
「フィーア?
あぁ。確かに泊まってるねぇ。フィーアに何の用だい?」
「伝言を頼まれているので、それをお伝えしたくて。」
「そうかい。
でも、食事以外は出てこないからね。
それも、人目を避けて。
今も隣の食堂は昼飯時だけど、もうちょっと後で降りて来るんじゃないかね?」
「わかりました。
ちなみに、我々もお昼御飯をいただくことは出来ますか?」
「あぁ。もちろんさ。毎度あり。
旦那に言っとくよ。
そのかわり1人銅貨10枚づつ貰うよ。」
「はい!
分かりました。」
受付で20枚の銅貨を支払い、しばらく待っていると、隣の食堂へと案内される。
「食べながらゆっくり待たせてもらうか。」
「そうですね。」
座ってすぐに運ばれて来たのは、ライスの横にゴーニャの肉をサイコロ状に細かくカットしたもの。
それとサラダがワンプレートに乗っている料理。
ゴーニャはヤギの様な見た目で、畜産もされている。
やはり人間が住める環境だからか。
前世と名前こそ違うものの、似た食材は多い。
スプーンで頬張った肉の旨味が口いっぱいに広がると、たまらずライスを追いかけさせる。
(バターライス?)
ひと粒ひと粒がコーティングされたパラパラとしたお米が、さらに口の中の旨味を押し上げる。
一緒に付いて来たドリンクはヨーグルトのような酸味のある飲み物。
(トルコ料理みたいだな。)
シンプルな味付けが、食材の旨味を引き出し、素朴だが味わい深いその食事。
時折挟むドリンクの酸味が口をリセットしてくれる。
ペロリと食事を楽しんだ後、追加で果物のフレッシュジュースを銅貨6枚で頼み、アインスと会話をしながら待つこと1時間。
食堂には俺とアインスだけになっていた。
(今日は出てこないか?)
そう思った矢先に聞こえてきたのは、階段を降りてくる音。
トンっ、トンっ、トンっ、トンっ。
(来たか?)
白い肌に金色の髪。
フードの中には整った顔立ち
ローブを纏ったその姿から想像出来るのは、魔法を得意とする者なのだろうか。
俺たちから離れたテーブルに座ると、運ばれて来た食事を無言で口に運ぶ。
これだけ美味しいにも関わらず、"こなす"と言う表現が適当であると感じる程に、淡々と食事を口に運び続ける。
俺の視線が廊下を挟んで、受付の女性の視線と交差させると、女性は小さく頷いた。
(やっぱりこいつか。)
「フィーアさんですか。」
ピタッと手を止め、俺を見上げる。
「冒険者のゼロと申します。
言伝を頼まれておりまして。」
みるみる内に青ざめる顔。
(何か不味かったか?)
「実は、商人ギルド長のレックスさんが、最近のあなたを心配しているようで。」
その瞬間。
露骨にホッとした顔をした彼女は、首を小さく横に振って、スプーンを置いた。
そして、そのまま立ち上がると、部屋の方へと戻ろうとする。
(何だ?戻るのか?)
「ちょっと待って下さい!
もう一つだけお伝えしないといけない事が。」
そう言うと、振り返った彼女は哀しげな顔で俺を見つめる。
何も喋らないでくれ。その表情が俺にそう訴えかけているような。
しかし、俺の方も簡単に諦める訳にはいかない。
「あの魔族なら死にましたよ?」
独り言の様に聞こえるか聞こえないかで呟くと、先ほどの顔が驚愕の顔へと変わる。
「う、、、っ!?」
何かを言おうとしたのか、すかさず手で口を抑えて左右に首を振る。
「詳しくは話せませんが、私は確かにあの魔族が死ぬところを見ました。」
そう言うと、思いつめたような顔で、何かを訴えかけるように口を開くが、声は出さない。
再度、首を横に振ると、踵を返して再び部屋へと戻って行く。
「アイツに何か脅されてるんですか?
でも、もうアイツはこの世に居ませんよ?」
言葉を投げかけても、それは届かず。
フィーアはそのまま部屋へと戻った。
「また、来ます。」
俺は去って行くその背中に投げかけた。
(気長にやるしかないか。)
「俺にミアの能力でもあればなぁ。」
「難しいですね。」
帰り道。
思わずアインスに一言ボヤく。
その時、視界に入ったのは本日最後の目的地。
老婆のセーラがやっているあのポーション屋。
店の前で作業をしているセーラに声をかける。
「セーラさん。お久しぶりです。」
「あら、ゼロさん。久しぶりね。」
「最近はどうですか?
薬草はまだ足りてますか?」
「そういえば、少なくなってきてたわね。」
「僕の方も、この前作ったポーションを殆ど使ってしまって。
明日から、また作りに行っても良いですか?」
「それは、勿論ですよ。」
「ありがとうございます。
一つ伺いたいのですが、心の傷を治すようなポーションってあるんですか?」
「心の傷ですか。
私は聞いたことが無いねぇ。
でも、きっと時間をかけて本人が治していくしか無いんじゃないかねぇ。」
(流石にそれは無いか。あるとすれば、薬物の類になってくるか。)
「それでもその傷が埋まらないなら、他の事で薄めるしか無いかねぇ。」
「薄めるかぁ、、、」
「ごめんね。
年寄りのつまらん言葉で。」
「いえいえ。
ありがとうございます。
また、行かせていただきます。」
「お待ちしております。」
そうしてこの日の用事を全て済ませると、俺たちはようやく屋敷へと戻って行った。
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