56話 行脚
商人ギルドを出ると、同じ広場にある冒険者ギルドへとそのまま顔を出す。
「おはようございます。
ギルド長にご用ですか?」
「はい。」
「今日は朝から居ますので、奥のお部屋にどうぞ。」
「ありがとうございます。」
お礼を言うと、いつも通りにギルド長の執務室へ。
コンッコンッ!
「失礼します。」
中では、相変わらずの大きい身体が机に座ってブツブツと何かを呟いていた。
「この依頼はあの辺が受けてくれそうか。
こっちは、どこの、、、
おう。ゼロか。」
「近くだったので寄りました。」
「あぁ、まぁ座ってくれ。」
「はい。」
「呼び出してすまないな。
先ずは、テルレ公国で何があったか聞かせてくれないか?」
「それは、この国に住む者としてですか?
それとも冒険者ギルドの一員としてですか?」
「どちらもだ。」
「わかりました、、、」
一呼吸分の会話を入れることで、何を話して、何は黙すべきかの整理をつけ、ギルド長にテルレ公国での出来事を語った。
内容は、テルレ公国の大商人ラダンへシガルからの依頼の荷物を運んだこと。
中身を開けた瞬間に爆発が起こったこと。
それは、恐らくテルレ公国での純血派の者達の企みの一環であったこと。
ムー大公より指名依頼を受けて、街の復興を手伝っていたこと。
「なるほどな。シガルに殺されかけた訳だ。」
「まぁ、そうですかね。」
「テルレ公国の大商人ラダン。聞いたことはある。
胸中穏やかじゃないだろう。」
「そうでしょうね。」
「そして、当然お前はそいつから何か依頼されてる訳だ?」
「直接依頼を受けてる訳では無いですけどね。」
「けど?」
「当然俺も胸中穏やかじゃないということですよ。」
「まぁ、当然だろうな。
だが、気をつけろよ?」
「何がですか?」
「テルレ公国で純血派の者達が起こした騒動は当然この街にも届いている。」
「はい。」
「そして、お前が生きてる上に、復興に尽力したという話も入って来ている。」
「まぁ、そうでしょう。」
(100人分くらいは余裕で働いたからな。)
「だから、当然シガルにも動きがある。」
「具体的には?」
「それは、わからん。
だが昨日、お前のことも含めて領主に呼び出されていた。」
「グラーム・ロンダ様。」
「そうだ。
結論から言うと、シガルが純血派の者に援助をしていたことは、テルレ公国の弱体化を狙うものであったため、褒められはしても何か責められるものではない。」
確かにこの国から見ればシガルのやったことは、決して悪いことじゃない。
(一応、敵対しているもんな。)
「そして、シガルが領主にどう言ったのかはわからんが、お前がシガルの仕掛けた陽動の邪魔をしたと。
そして、そんな中に入ってきた話が、お前のムー大公からの指名依頼。
ギルドポイントも破格だ。」
「なるほど。」
「わかるか?
今は、この国に対する忠誠心を試されてるんだよ。
冒険者といえど、当然住んでいる街や国がその所属だからな。」
「わかります。
つまり、俺という存在がこの国の為に活動をし、この国の利益に資する者であるということを示す必要があると?」
「そういうことだ。」
この世界では、国同士大陸同士の争いは常に絶えない。
冒険者ギルドは、確かに国を跨いだネットワークを保有しているが、それでもどこの国のギルドに所属しているのかということは、明確に区別されている。
「お前また領主に呼ばれるんじゃないか?
それまでに色々と考えた方が良い。
Bランクとなれば、いよいよ国からの依頼も入る。」
「なるほど。」
(シガルの狙いはどこにあるんだ?)
「俺の話は以上だ。
何か質問は?」
「特にありません。
別件で一つよろしいですか?」
「なんだ?」
「フィーアという冒険者をご存知ですか?」
「、、、知ってるが何だ?」
「普段どこにいるかお聞ききしたくて。
商人ギルド長のレックス様より言伝を預かっておりまして。」
「言伝か、、、まぁ良い。
今は広場のすぐ近くの[ドン・ファンク]という宿にいつも居るはずだ。
依頼も全く受けてないしな。」
「依頼を受けてない?」
「生き残りなんだよ。」
「生き残り?」
「ああ。テルレ公国から来たランクA冒険者パーティのな。」
「っ!?」
「まぁ、会うのは良いが、可能な限りそっとしておいてやれ。
今は時期が時期だろう。」
「その人もランクAなんですか?」
「いや、アイツはランクBだ。リーダーともう1人がランクAでな。
俺も期待してたんだが。」
「そうでしたか、、、
すみません。」
「まぁ、だからお前に期待しているのも事実だ。
冒険者になって、数ヶ月でランクBにまで到達しようとしているお前だ。
これからも頼むよ。期待のルーキー。」
「ありがとうございます。
ご期待に添えるように。」
執務室を出て、冒険者ギルドを後にし、そのまま街の外れまで歩いて向かう。
(やっと来ることができた。)
複雑な話が続く中で、ようやく楽しみにしていた場所へと来ることができた。
そう。
魔道具職人のトレスのもとへ。
コンコンコンッ!
返事は無い。
コンコンッ!
全く返事はない。
コンコンコンコンコンコンコンッ!
「誰だ!!五月蝿えなぁ!」
その叫び声と共に、のそのそと近付く足音が扉を開く。
「相変わらずだな。」
「あぁ?
お前は、前に来た冒険者のゼロか?」
「そうだ。
頼んでいたフォレストロトはどうなったんだ?」
「おー。随分と遅かったじゃないか。
昨日ちょうど出来上がったぜ。」
(遅かったのか?)
「こっちへ来い。」
前回は玄関付近で話したのだが、今回はトレスがそう言うと、奥の扉の向こう側にある工房の中へと案内された。
工房の中には、あちこちに転がる失敗作であろう魔道具が。
奥の炉からは火が噴いている。
「これだ。」
そんな光景を見ていると、トレスが取り出したのは、真っ赤な石がキラリと光るピアス。
「これは?」
「魔力を流し込んでみろ。」
手の平に乗るピアスに魔力を流し込むと、途端に姿を現したのは、柄の先に一直線に伸びる真紅の剣身。
「ほう。」
「凄いだろ?
切れ味は保証する。」
「戻す時は?」
「剣から魔力を吸い上げろ。」
言われたとおりに魔力を吸い上げると、再び手の平にピアスが現れる。
「凄いな、、、
追加で払うよ。」
「いや、いい。
それよりも、確認したいことがある。
このフォレストロトは鬼の一族に関係しているんだろ?
つまり、お前が継承した魂に関係があるわけだ?」
一瞬頭にざわつきが起こったが、トレスならば問題無いと判断した。
(マグガーラの義弟だ。)
「そうだ。
それと関係ある。」
「やっぱりそういう事か。
今回は、結局このピアス1つしか作っていない。
っていうか、これに俺の力もフォレストロトも全て注ぎ込んだ。」
「どういうことだ?」
「アインスだったか?
このピアスを持ってみろ。
何を感じる?」
俺の手の平からアインスの手の上にピアスを乗せると、アインスが驚いた顔をする。
「お前は噂どおりなんだな。
驚いただろう?」
「アインス。
どうした?」
「このピアスから、ゼン様。
ゼロ様の背後から感じるゼン様の魔力?気配?を感じます。」
「ほう。」
(俺はそんな感じはしなかったがな。)
「今回のフォレストロトNO.151。
特性は身につけた者のパワーが数段上がるとお前は言っていたが、それは微妙に違う。」
「俺は国の奴からそう聞いたが?」
「俺も今確信に変わったんだが、このフォレストロトは鬼の力を宿しているんだ。
つまり、パワーが上がるというのは、身につけた者に鬼の力が流れ込むことに起因しているわけだ。
だから、既に鬼の力を継承しているお前には、身につけたところであまり効果はない。
受ける恩恵は、精々鉱物としての頑丈さくらいだ。」
「なるほど。だから、俺がフォレストロトを持っても何も感じなかった訳か。」
「ああ。そうだ。」
「良くわかったよ。
ありがとう。感謝する。」
「俺の方こそ貴重な体験になった。
約束だ。
また持って来い。」
そう言うと、トレスは別の魔道具の作成に戻ったため、俺たちもその場を去ることにした。
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