49話 蛍光
「では、次でいよいよ最後です。」
そう言うと俺は、公宮の中庭に純血派のローブを羽織った男をゲートから出す。
空間魔法は水槽を外側から眺めている様に、何がどこにあるのかが視覚的なイメージで常に分かる。
出す時は水槽に手を入れるのと同じく、自分の出したいものをイメージする。
そうして現れた男は、まるで今も戦闘中だと言わんばかりの物凄い剣幕。
それがすぐにキョトンとした顔に変わり左右へ振る。
瞬間。
騎士団長ゴースの剣が男の肩を貫くと、周囲を囲んでいた騎士達が、地面に押さえつけて足と手に重りのついた錠をつける。
「ガッ!?」
男の口に布を突っ込み、更に手の甲に刺さる剣。
「ん゛〜!!」
騎士の1人が叫ぶ男の顔を上げると、ミアが目隠しを解いて見つめる。
「ふっ!ふっ!ふっ!」
全身の力を入れて抵抗しているが、抑えられた身体はピクリとも動かない。
「結構です。」
ミアが告げると、その男も他の者と同様に騎士が連れて行った。
「確認ですが、今のが最後でしょうか?」
「はい。これで以上になります。後は、死体ですね。」
「承知しました、、、
ゴース。ゼロ様を火葬場まで。」
「はっ!」
「純血派の者達の死体からは、可能な限りの情報を集めなさい。
後、死体は丁重に扱うこと。」
「承知いたしました。」
ゴースが深々と頭を下げると、ミアは再び目隠しをして建物の中へと戻って行く。
他の騎士達も同じく頭を下げて、その姿を見送った。
「ゼロ殿。それでは馬車を用意しておりますので。」
そう言ったゴースに案内され、馬車に乗り込むこと数十分。
道中の馬車の中。
窓には、カーテンで目隠しがされていたが、チラチラと見える外の景色は凄惨なものだった。
(本当に街のいたる所で爆発があったんだな。)
ようやく着いた先は、街の外れ。
大きく深く掘られた穴に、大量の死体が並べられていた。
(これは、、、)
馬車から降りて、目の当たりにしたその光景が、ひどく俺の心を揺さぶる。
「凄まじいでしょう?」
ゴースが唇を噛む。
前世では、映画の中やTVのニュースから聞こえる声でしか触れた事の無い現実が目の前にあった。
「ええ。」
(戦争はこんなもんじゃ無いんだもんな。)
「本来であれば、一人一人埋葬したいところですが、時が時ですので、急遽この穴を掘ったという訳です。」
「そうですか。」
「今は、死体が腐る前に。一刻も早い処理を。」
「ちょっと待って下さい。」
「どうされました?」
「これだけの数を一気に焼くということは、魂の継承もそれだけの数となりますよね?
そうなると、街そのものが本格的に機能しなくなるのでは?」
「そうですね。
ただ、魂の継承は必ずしもすぐに行われる訳ではありません。
今回死んだ者の中には、良くご存知の【不死の森】へと誘われる者も多いでしょう。
それに、他国の事を考えると、魂の継承を遅らせるということも良くありませんから。」
不慮の事故。
本人さへ予想していない事態。
半年や1年経ったある日突然魂の継承が成される時もあるという。
死んだ本人の納得がいったその時に。
全ての魂が、皆の思いの通りの流れに沿って引き継がれていく訳ではないということを改めて実感した。
「それでは、あちらに死体を置いていただければ。」
「わかりました。」
一つ一つ死体を置くと、騎士達がその身元などを確認して、可能な限りの遺品を回収する。
作業には相当の時間がかかり、日が暮れ出した頃にようやく完了した。
「それでは、燃やすぞ。」
ゴースの掛け声に応じて、燃料となる薪がいくつか投げ入れられ、油が撒かれる。
「良ければ私も手伝いましょうか?」
「いえ、そこまでして頂くわけには。」
「これも何かの縁です。手伝わせて下さい。」
「、、、助かります。
魔法を使える者も随分と死んでしまって。」
「ご助力いただくこと感謝申し上げます。」
ふっと聞こえた声に振り返ると、そこには再びミアの姿。
騎士達や、並べられた遺体の周りへ集まった遺族と思しき者達が一斉に頭を下げると、そのまま前に歩みを進める。
「せめて安らかな時間が訪れていることを祈ります。」
ざわつきが去った静かな空間に、その声はよく通った。
泣き声と鼻をすする音が聞こえてくる。
「ゴース。」
「はっ!
皆。祈るのだ!」
それを合図に次々と火の魔法が発せられる。
(安らかな時間か。俺もそれを祈るよ。)
「鬼火。」
俺も続いて魔法を唱えると、青白い炎が、真っ赤に燃える炎を包み込むように燃え上がる。
高く高く。
天まで届けと言わんばかりの火の中で、赤やオレンジ、青に紫。
色の混ざった炎が闇夜にコントラストを生み出すと、火の勢いは更に増していく。
しばらく経つと、火の中から。
蛍の様な光がふらふらと浮かび出す。
一つ。二つ。
その数はどんどんと増えていき、やがて夜空を虹色に埋め尽くした。
俺以外には見えないのであろうこの景色。
思わず目頭が熱くなる。
昼間と見間違うほどに煌めく輝きと、それに混ざる対照的な無念が心を震わせたからだ。
「綺麗だ。」
「はい。」
呟きに答えた隣のアインスが、俺の腕を抱きしめる。
空を見つめるその横顔を見て、きっとアインスにも見えているのかもしれない。
いや、見えていて欲しいと思った。
(ランタン祭りみたいだな。)
浮かんだ光は、ひとつ。ひとつと闇夜に消えていく。
それぞれの旅の終着点を目指して。
生と死の狭間が薄いこの世界。
揺れ動く生命。
俺はその景色を心のフィルムに焼き付けた。
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