48話 約束事
再び目が覚めた時には、身体の疲れやダルさは完全に無くなっていた。
「おはようございます。」
胸元の声をした方を向くと、そこには、眠る前と変わらずアインスが。
「起きてたのか?」
「はい。少し前に。」
「そうか。おはよう。」
返した挨拶に、アインスが俺を強く抱き締める。
負けじと俺が抱き締め返すと、瞳を潤した顔を上げた。
それに応じて、アインスのおでこに唇を置くと、同じ目線までもそもそと上がってくる。
その愛らしい行動に入ったスイッチが、アインスを下に入れ替えて俺に覆い被さらせた。
募っていく俺の悪戯心が両手に移り、置いた左指の一直線に伸びる稜線の先。
真っ白な丘の中心にある蕾に向かって、舌を這わせて口に含むと、アインスの漏れた吐息に嬌声が混ざり出す。
グランの街以来の甘い空気が流れ始めた時。
甲高く扉の音が鳴る。
コンコンコンッ
「、、、はい。」
「お目覚めになられましたら、ご準備を整えて下さい。
ムー大公様のもとへご案内いたします。」
(聞き耳を立てていたな。)
下になったアインスを見ると、扉を見ながら頬を膨らましている。
気付いた俺の視線に合わせると、照れながら嬉しそうに笑った。
釣られて俺も笑うと、扉に返す。
「わかりました。
すぐに向かいます。」
すぐに準備を整えて、部屋の外にいくと、待っていたのは、昨日ミアの横に居た侍女。
早速、連れられて向かった先は、あの謁見の間に比べると小さな普通の扉。
入口の騎士に軽く会釈をすると、扉を叩いて中に入る。
「失礼いたします。」
開いた先は、机とソファが置かれて居るだけの小さな執務室。
ソファには目隠しをしたいつものミアが。
奥の机には、紙の束を見ながら眉間に皺を寄せたムー大公が座っていた。
俺の視線に気付いたのか。
ミアが口を開く。
「ゼロ様。
おはようございます。
この様な所で申し訳ございません。国中が慌ただしくしておりまして。」
「いえ。
お忙しいかと思いますので。」
「ありがとうございます。
どうぞこちらへ。」
ミアに促され、アインスと共にミアの前のソファに腰掛ける。
それを合図に、奥に座る大公がペンを置いた。
コトッ。
「この度、全てミアから見させてもらった。」
その言葉に、決戦の前の口づけを思い出し、妙に照れ臭くなる。
というか、アインスに対する後ろめたさの方が大きいかも知れない。
「冒険者ゼロ。
そなたによって我が国が救われた事。
心から感謝申し上げる。」
「いえ。
ミア様からの依頼でしたので。」
「見たところ、空間魔法?を使えるのかね?」
「はい。そうです。」
「にわかには信じられん。
その様な使い手がいるなど聞いたこともない。」
「そうでしたか。」
「どこでそれを習得したんだ?」
「お父様。それ以上は。」
ミアが遮る。
「そうだったな。
すまない。」
「とんでもございません。」
「早速本題へ入ろう。」
そう言うと、ミアがテーブルの上に一枚の紙を置く。
「読んでくれ。」
神殿の公印が押された紙の中身は至ってシンプルだった。
1.戦闘時に回収をした全ての死体の提供
2.生きている全ての純血派の者の提供
3.純血派を制圧した手柄は護衛団長ゴースのものとする
4.冒険者のゼロが望む下記の物をテルレ公国が提供
「質問がございましたら、どうぞ。」
「いえ。」
(まぁ、当然だな。)
「4の報酬については、何でも良い。
ただし、今この場で決めることと、復興も相まって用意にどれくらいかかるかも分からん。」
(何でも良いか。
逆に難しいな。
試されている感じだ。)
しばらく何が良いかを考える。
余りに無茶な要求をして、復興の妨げになることも避けたい。
貰ったポーションの事や、今回の戦闘で経験したこと。
そして、何より生き残ったこと。
それを考えれば、特別に何か報酬をもらいたいという気持ちも無かったが、何も要求をしないというのも、逆に怪しさが出るだろう。
「金貨を10枚下さい。」
「ふむ。他には?」
「はい。
もう一ついただきたいものがあります。
というより、それに条件を付けさせてください。」
「それは?」
「その金貨10枚を、指名依頼の報酬として受け取らせて下さい。」
「ほう。それは?」
「はい。今、この街の復興には人手が足りてませんよね?
私の鬼の手と空間魔法は相当役立つと思います。
ですので、街の復興の作業を、この街のギルドを通した指名依頼として私にさせて下さい。」
「ふむ、、、。狙いは何だ?」
「ギルドポイントです。」
「なるほど。
だが、別にお主ならギルドポイントなど簡単に手に入るだろう?」
(疑われているか?)
「はい。ですが、私は今年の内にランクを上げたいと思っています。」
(流石に無償で復興の手伝いをしたいと言うと、怪しすぎるだろう。)
大公がミアを見ると、ミアも頷く。
「わかった。ギルドへの指名依頼を出しておくので、明日にギルドへ向かってくれ。
指示については娘のミアから聞いてくれ。」
「承知しました。」
「本当に、これだけで良いのか?」
「はい。結構です。」
「わかった。
では、契約書に今の内容と名前を書いたら、私に渡してくれ。」
アインスをちらっと見ると小さく頷く。
書類にペンを走らせサインをした後、大公に返すと、大公の手元が光る。
(契約のスキルが使えるのか。)
左腕に熱を感じると、テルレ公国のマークが浮かび上がった。
「これでこの件は終わりだ。
改めて冒険者ゼロ。今回の件、心より感謝する。」
「お力になれて良かったです。
それでは、失礼致します。」
席を立つ際、ミアがボソッと口を開く。
「ってきり、私をご所望かと。」
悪戯っぽいその可愛らしい笑みに見惚れると、アインスが俺の手を強く引っぱり、この部屋を後にした。
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