47話 目覚め
(どこだここは?)
開いた瞳のピントが合わなかったので、霧がかった風景が目の前にぼんやりと浮かぶ。
(ああ。ゼンのあの後気を失って、、、)
ボヤけた頭と視界が、徐々にクリアになっていくと、視界の下、清潔な部屋の中に大きく縁取られた窓から、キラキラと差し込んだ赤い陽の光が飛び込んでくる。
「もう、、、夕方ですよ?ゼロ様。
今日もこのまま1日が終わるのかと、、、
終わってしまうのかと思いました。」
視界の端から発せられた、上ずった声の方向に目線を動かすと、そこには見慣れた整った顔。
「ア゛、」
(ん!?声が出ない。)
不思議な顔をしているであろう俺とは対照的に、静かな微笑みと、輝く銀髪を窓から吹く風に揺らしながら涙を零す姿は、余りにも綺麗だった。
「っ痛。」
伝う雫を拭おうと、身体を起こそうとしたが、流れる痛みがそれを遮る。
「まだ、起き上がらずにそのまま横になっておいて下さい。
なんせ、3日間も眠ってらっしゃったのですから。」
(3日間も!?)
唯一動かせる顔の筋肉を使って、重い瞼を大きく見開いたが、それもそうかと妙な納得を得た。
何しろあれだけの傷を負って、これ程の痛みが全身を覆っているのだから。
(そうか。
だがまぁ、ここでこうして居られるという事は、きっと上手くいったのだろう。)
「お目覚めになられましたので、すぐに呼んで参りますね。」
そう言うと、アインスはベッドの側の椅子から立ち上がり、部屋の外へと早足で向かって行く。
(っというか、なんでここにアインスが居るんだ?)
色々と分からない事も多いが、まぁいいかと再び目を閉じる。
今は、怪我の痛みとそれによって実感する安堵感で、何も考えずに横になっておきたかった。
やがて、複数の足音が近づいて来ると、扉が勢いよく開く。
そして、その勢いそのまま、先頭を歩く者が、早足で部屋を駆け抜けると、俺に飛びかかって抱きついた。
「ゔっ!」
「ゼロ様!
お目覚めになられる時を心よりお待ちしておりました!」
「は、離れて下さい!!
何をしてるんですか!!」
アインスが慌てて間に入ると、俺に抱きついた翠色を押し退ける。
そう。
今、俺に覆い被さって来たのはテルレ公国の公女であるミアだった。
「あぁ。そうでしたね。ゼロ様。
失礼を致しました。」
服装を正しながら丁寧に詫びると、その側に立つ侍女が持つ透明なガラスの瓶が目に入る。
中には、黄金色に輝く液体がゆらゆらと揺れていた。
(ポーションか?)
「お気付きの様ですね。
これは、我がダルク家が持つポーションの中でも最上級のものになります。
本来は公族にのみ使う事が認められておりますが、今回は特例です。」
そう言ってミアがハニーディッパーの様な物を瓶に入れ、侍女の差し出したスプーンで受け取り口に含むと、そのまま覆い被さって俺の口に流し込んだ。
「な、何をするんですか!?」
再びアインスが強い口調でミアを咎める。
「何がですか?」
濡れた唇を舌で拭いながら、ミアは戯けた様子でアインスに応える。
「何がですかではありません。
一体何をされているんですか!!」
「ポーションは身体にかけても一定の効果はありますが、それほど高くはありません。
直接飲むのが一番です。」
「だからといって、なぜ唇を!」
「今回は特例ですので。
あくまで公族が口に含んだものを分け与えるという形式を取らせていただきます。
それに、唇を合わすのはこれで3回目ですよ?
さぁ、ゼロ様。もう一口です。」
ミアの口から俺の口に渡った液体が喉を通り過ぎると、鳩尾の辺りから、熱が細胞の隅々まで伝わっていき、心地良い感覚に包まれる。
(これは、凄いな。)
身体から蒸気が噴き出しているのでは無いかと思う程の熱量。
潤った喉からいつもの声が出てくる。
「いえ、結構です。
ありがとうございます。今の一口で十分です。
アインス。心配かけたな。」
上体を起こして、アインスの頭を撫でる。
「はい、、、はい!」
「そうですか。残念です。
それでは、本日はこの辺で。
また、明日以降に体調が戻られましたら、色々とお願いしたいこともございますので。」
「わかりました。」
「アインス様のお部屋もご用意しておりますが?」
「結構です!」
アインスがそう言うと、ミアは侍女を引き連れて出て行った。
「ふー。」
(また、色々と。)
大きなため息の後に、アインスの強い視線を感じる。
「本当に心配かけたな。」
「いえ。とんでもございません。」
すると、ポーションの効果なのだろう。
身体中がどんどん熱くなってくる。
ベッドに座ったまま、全身に撒かれた包帯を外して行くと、裂傷や刺された傷は既に塞がっており、痕さへ残ってはいなかった。
「お身体をお拭きしますね。」
「いいよ。自分でやる。」
「いえ。じっとしておいて下さい。」
「いや、大丈夫だよ?」
「い・い・え。
私がやります。」
(譲らないな。)
「わかった。
じゃあ、お願いするよ。」
「はい!」
そう言うと、アインスは嬉しそうに部屋の外へとお湯を取りに行き、濡らした布で俺の身体を拭き始めた。
傷は塞がっていても、乾いた血は身体中にべっとりだ。
それをアインスが丁寧に拭いていく。
何度か桶のお湯を変えるために部屋を出たり入ったり。
途中で、頭を桶の中に入れて、髪の毛にへばりいた血と一緒に洗ってもらう。
最後は、嫌がる俺を無視して、下着まで脱がされると、全身を丁寧に拭き取った。
「ありがとう。」
「いえ。とんでもございません。」
「アインスの身体も洗おうか?」
「大丈夫です。
ゼロ様の隣に居る時は、常に綺麗にしておりますので。」
「そうか。
じゃあ、おいで。」
そう言うと、アインスも照れながら服を脱ぎベッドの中に入る。
まだ少しある身体の気だるさに、アインスの甘い香りが鼻をくすぐる。
(生殺しだな、、、)
シーツと肌と。
触れ合う箇所の心地良さに身を任せると、俺は再び深い眠りへとついた。
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