44話 第2ラウンド
右から左から。
飛んでくるのは魔法や武器が。
飛ばしているのは、先ほど鬼月で殺した者や部屋の中で既に息絶えていた者。
(死者を操る事が出来るのか。)
ニヤリと笑う目の前の魔族の男。
見た目こそ人と変わらない、その澄ました横っ面に今すぐ一撃を加えたかったが、後ろのミアが気がかりで、攻撃を弾き落とすのが精一杯だった。
防戦一方とはこの事か。
「いつまで耐えられますか?」
こちらの手札は、せいぜい2つ。
1つは目の前に出した鬼の両手で、飛んでくる攻撃を物理的に弾く事。
もう1つは、ゲートの出現場所を調整しながら、攻撃自体を吸い込んでしまうこと。
(厳しいな。)
鬼月を発動させようにも、敷き詰められた攻撃は、その猶予も与えてもらえない。
ましてや、正面からぶつけても、これ程の相手であれば、簡単に防いでしまうだろう。
今のところ、能力の差で言えば俺の方が上だと感じるが、それにしても、戦闘の経験と事前準備の圧倒的な差がそれを上回りつつあることが伺える。
こいつは、今日のこの日の為に相当の準備をして来た筈だ。
俺の情報収集だけでなく、恐らく他に近隣で有望な者の情報を集めていたのだろう。
そして、こいつは知っていた。
鬼の力を継承した俺という存在が今日この街に来ていることを。
(手の内は全て知られているか。)
「こんなのはどうでしょう?」
ボロボロのローブとは正反対に、先ほどのダメージなど全く感じさせない魔族の男。
その目の前に突如現れたのは、大きな両手。
それは、俺の鬼の手を彷彿させる様な、そんなものであった。
(魔人の手、、、?)
次の瞬間には、その手から放たれた光の弾が飛んでくる。
(魔法か!?)
攻撃と攻撃の隙間にある僅か0.1秒以下。
そこにありったけの思考をねじ込んでいく。
(クソっ!)
盤の上のゲームの様に、ジリジリと削られては、詰められていく。
(このままじゃ。何か。何か!)
攻撃が止む事は無く、魔人の手から放たれる魔法も重なり、むしろ速度は上がっていく。
それに伴い、思考の隙間は更に短く、殆ど考えを巡らす事も出来なくなっていった。
(鬼月を出すか!?)
正面から出しても受け止められるだけ。
それでも何もしないよりかはマシかも知れない。
そんな考えが頭をよぎった時、突如、目の前のその男の身体をショットガンの様な衝撃波が弾く。
ドンッ!ドンッ!ドンッ!
「ゼロ様!」
確認は出来ていない。
俺の視界からその光景を見る事は出来ない。
だが、ミアの声から想像は出来た。
(魔眼の力か。)
敵が予想だにしなかった不意打ち。
ここしかない。
恐らく勝機はここにしかない。
この座標にしか。
俺が迷い込んだ敵の戦略。
その迷路の壁が1枚だけ壊れた。
後は、ゴールまで読み切るだけ。
一呼吸だけ。
一呼吸分だけ、口から酸素を取り込むと、心臓の筋肉を最大限に使って全身に送り込んだ。
柄に触れた右手の筋肉が隆起する。
「咲け!鬼月!」
男の全身の内側から、刀と血が咲き乱れる。
「閉じろ。」
扉を閉めるかの様に、男の周囲に広がっていた刀が、男の内臓をえぐり抜いた刀に引き寄せられるかの様に、一直線に降り注ぐ。
ゴポッ!
思わず口から血を吹き出したその男。
すかさず、鬼の右手が全身を殴り飛ばす。
ゴッ!
同時に鬼の左手で、転がる大公や騎士団長を引き寄せると、俺の背後に投げ入れた。
殴り飛ばした先に待つのは、出現させておいたゲート。
そこから、取り出したものこそ、今回、俺がこの件に関わる発端となったもの。
それは、グランの街の奴隷商シガルが仕込んだあの爆発。
テルレ公国の大商人ラダンの屋敷を吹き飛ばそうとしたあの爆発である。
ドンッ!!
音さへも一部吸収していたのか。
元々あの広大な屋敷を吹き飛ばそうとしていた程のその爆発の衝撃波が、吹き飛んだ男の近くで展開する。
「ゲート!」
爆発がこちらに届く前に。
今度は、ゲートを魔物の口の様に、俺の正面から走らせる。
それは。俺たちへの爆風を防ぎながら、震源地を完全に飲み込みに行く。
(世界の狭間に消えろ!)
ゲートが閉じたその空間には何一つ残りはしなかった。
「ハァ。ハァ。ハァ。」
この広大な部屋に、俺の呼吸音だけが聞こえている。
(出し切った。)
粉微塵さへ残ってはいない。
「ゼロ様。」
ミアが後ろから抱きついてくる。
「ミア様。」
「ありがとうございます。」
「いえ。ミア様。それよりも、今の内に死体の回収を。」
「本当に、ありがとうございます。」
ミアは泣いているのか。
上ずった様な声だ。
「ふぅ〜。」
大きく息を吐いた。
溜まっていた二酸化炭素をすべて吐き出す様に。
(何とかなったか。)
しかしながら、その安堵は束の間に消える。
目に飛び込んで来たのは、転がる死体の魔力が部屋の中央に集まっていく光景。
(しまった。)
「ゲート!」
慌てて、走らせたゲートが、転がる死体を飲み込んでいく。
「遅いですよ。」
先程まで、誰も居なかった場所に、再びその男はその嫌な口調と共に姿を現わした。
「いや〜参りました。流石に死ぬかと思いました。」
(死体の魔力を吸収したって訳か。)
「驚きましたかぁ?ゼロさん。さぁ、第3ラウンドといきましょうか!」
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