42話 侵入者
「あぁ?なんだお前は!?」
「それ以上進むなら殺す。」
「遊んでやろうかぁ?」
誰も彼もが同じ様なセリフの後に倒れて行く。10から先は数えていないし、覚えてもいない。
✴︎
敷地への一歩を2人で踏み出した後。
気配を消しながら、中を進んで、正面の建物を目指す。
途中で複数人の見張りがいたが、背後から静かに首元を切り裂いて地面に寝かせた。
ようやく建物まで近付くと、正面玄関は避けて、エントランスの横の窓から忍び込む。
そうして無事に公宮の中に入ると、灯とともに目に飛び込んで来たのは、今までに見たどんな建物のエントランスよりも広く、無数に彩られた美しい宝飾と、その床に横たわるおびただしい数の死体が合わさった光景であった。
そこには、鎧をつけた騎士も居れば、メイド服や執事と思わしき非戦闘員の者。
どちらに雇われたのかも分からない、冒険者の風貌の者など様々であり、恐らくは、このエントランスで大なり小なりの戦闘が行われたのであろう事が容易に想像出来た。
そして、その死体の上を、我が物顔で歩いている男たちの1人が口を開く。
「誰だぁ?」
完全に気配を消して侵入した筈であったのだが、俺たちの気配に気付いたのか。
その男が相応の力を備えた者である事が伺える。
出来れば誰にも気付かれずに、ひっそりと進んで行ければと考えていたが、それは、ここで諦めることとして、俺はその男に向かって口を開いた。
「あなた方は純血派の方々ですか?」
「あん?あそこに居る奴はそうなのかもな。」
親指で差した先のエントランスの階段に、ローブを羽織った複数の男達。
(あれが純血派の印か、、、)
「俺は別に雇われてるだけだから、そんなのは知らねぇが、とりあえず入ってきた奴は殺せと言われてるんでな。」
「この者達を殺したのはあなた達ですか?」
発したミアの声は震えていた。
「だったら何だぁ?お前たちも死ねよ?」
その男がそう言うと、それを合図に一斉に気配が動き出す。
「後ろに。」
ミアの肩を掴んで前に出ると、背後から鬼の手を出現させて、飛んできた武器や魔法を防いだ。
(1、2、3、4、魔法を発した者が4人、威力はそれ程。飛び道具が何人か。後は一旦様子見といったところ。全部で30人程度か、、、)
僅かな指の隙間から、エントランスの状況を探る。
「な、何だ?あれは?」
「でかい手が出てきた。」
「あんな魔法があるのか?」
「とにかく女を先に殺れ!!」
鬼の手の内側で、澄ました耳に相手の会話が流れ込んでくるが、少なくとも、このエントランス内で、人質がいるなど、そういう状況では無さそうであった。
(問題は無さそうだが。)
「ミア様、大丈夫ですか?」
振り返って後ろを向く。
「ええ。私は大丈夫です。それよりも、流石ですね。」
「いえ。確認ですが、このエントランスに立っている者の中には、、、
「はい。このフロアに立っている者の中に我々の者は居りません。」
「わかりました、、、全員起きろ。」
腰に差した鬼月に触れて、そう呟くと、刀が虹色に光り出す。
ローレンの魂を継承した事で、以前よりも魔力の総量が大幅に上昇し、そのコントロールもより正確に出来るようになった。
そのため、鬼月へと注ぐ魔力は、これまでと比べ物にならない程の質と量となっていた。
虹色の光が収まると、無数の刀が背後に浮かび上がる。
そして、そのどれもが前方の敵を滅さんとする侍の刀が如く、その切っ先を地面と平行に向けていた。
「あぁ?」
「か、刀が浮いてる!」
「やばい!全員逃げ、、、
「零れ。」
言葉は撃鉄。
一度放たれた言葉を、取り消すことなど出来はしない。
魔力を帯びたその一言は、無数の刀を雨の様に降らせた。
咄嗟に気付いて逃げようとした者も居るようだが、それも意味は無い。
例えば雨が降り出した時に、たった一粒にさへ触れないなんて事が出来るだろうか?
ましてや、その雨に自分へと向かう意思があったとすれば尚更である。
放たれた刀の一本づつこそ、鬼の一族の魂そのものであり、それは、音を置き去りにして目標へと到達する。
粛々と。
命の灯火は静かに消えていく。
断末魔さへ上げさせる事は無い。
言葉を発して、数秒の後、このエントランスは静寂を取り戻し、立っているのは俺とミアだけとなった。
「ミア様。次はどちらに?、、、
ミア様?」
「え!?あぁ、申し訳ございません。余りの光景に。」
「そうですね。亡くなられた者達は、全てが終えた後に供養致しましょう。」
(死体の損壊が激しい。恐らく遊びながら殺された者も居るのだろう。)
「は、はい。ありがとうございます。」
「それよりも次はどこへ?」
「この階段を登って、2階に参ります。その後、長く広い回廊の奥の階段を登って行くと、5階まで繋がります。そのフロアに謁見の間がございますので、そこを目指したいと思います。」
「なるほど。わかりました。それでは、参りましょうか。」
そう言って、ミアの手を取ると、俺たちは謁見の間を目指した。
握った手を握り返す力は強く、俺に対する信頼を感じられた。
(ひとまずは、合格点といったところか。)
途中で何度か一階のフロアと似た光景が目に
入る。
それは、倒れている者の横で、涼しげな顔をしながら立つ者の姿である。
そして、その度にミアに確認をとり、背後に浮かべた鬼月を放った。
そうして到着した先は、これまで見た中でも類を見ないほどの厳かな扉の前。
「こちらです。この先が謁見の間となります。」
「ここに大公が?」
「恐らくは。」
「かなりの人数が中に居ますね。」
「ええ。その様ですね。恐らく純血派の者が集まっているので無いかと。」
「なるほど。必ず私の後ろから離れないで下さい。」
「はい!
承知しております。」
中から感じる複数の気配。
その中でも、一際大きな一つの気配は、これまでに感じた事の無い程強大であり、扉の外側でも、十分に伝わって来た。
(相当強いな。)
「さぁ、参りましょうか。」
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