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魂を側に感じたら〜異世界上場会社を目指して〜  作者: 楽 我食
3 テルレ公国

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41話 記憶の中に

ぽつぽつと。


暗闇の街を照らすのは、爆発によって生じた燃え盛る炎。

人よりも長く生き、100年先まで残るはずであったレンガ造りの建物が、あちらこちらで大きな音と共に終わりを告げていく。


ここに居てここにあらず。

逃げ惑う人々の声が。

木の爆ぜる音が。

瓦礫の崩れる衝撃が。

遠くに響いたり、近くで鳴ったり。

炎による蜃気楼のせいなのか。

はたまた、生命が虚ろいでいるからなのか。

ゆらゆらと揺れ続ける街の中を俺達は駆け抜けていた。

足跡代わりの翠色の光跡を残しながら。



「次の角を右へ。その先の突き当たりを左です。」


「承知しました。」


街の現状が視界に入る度に、俺の肩を掴む手に力が入る。


嫌がるアインスと眠そうなギンをラダンの屋敷へ残し、公族でありながら、依頼人でもあるミアを背中に乗せて、敷地を飛び出してからここまでで僅か数分。

周囲への警戒を強めながら、右へ左と全速力で進んで行く。

屋敷を出る際に、ラダンや護衛達は最後まで付いて行くと聞かなかったが、ミアが俺と2人で行く事で押し通した。

きっと、生きて帰れる可能性を考えての事だろう。


そうして、俺たちが辿り着いた先は、街の中心に位置する壮大な公宮の門の前。

眼前に広がったのは、背後の喧騒とあまりに対照的な静けさを持った風景であった。


(静か過ぎるな。)


「静かですね。恐らく純血派の者が既に中を占拠しているのでしょう。」


「ここに大公が?」


「普段は母や兄と共にここにおります。」


「無事でしょうか?」


「わかりません。わかりませんが、恐らくまだ殺しはしないでしょう。降伏宣言なりを行わせるまでは。」


「なるほど。その純血派の者達は殺しても?」


「構いません。可能な限り生け捕りにして欲しいというのが本音ですが。これはこの国の非常事態ですので。」


「承知しました。」


こんな時に、俺は何故か、前世の事を思い出していた。


今と同じくらいの冬へと差し掛かる季節の頃。証券会社へ入社をして半年以上経った時の事を。


当時の俺は、何をやるにも手探りで、為替やチャートと毎日にらめっこ。


情報と情報が繋がる見込みもなく、それを話す場も無かったため、自分がこの会社で上手くいくなんて到底思える訳も無かった。

次々と新しい契約を決める同期達を尻目に、1日に200本近くの電話アプローチを見込顧客へと行うも、それが易々と身を結ぶはずは無く、何度も折れた心を、その度に修復しては立て直し、何とか会社へ行く気力を保っていた。


そんな毎日を過ごしていたある日、その努力がようやく報われ始めたのか、電話の先から待望の声が聞こえる。


「今から来れば、5分だけ会ってやる。」


聞こえた低いその声に、ロクな資料の準備も出来ないまま、フロアのマネージャーに声をかける。


「どうしたんだ?」


「アポイントが取れまして。」


「そうか。それで俺に何だ?」


「出来れば一緒に来ていただければ。」


「会うのは何回目だ?」


「今日が初めてです。」


普段は新入社員がマネージャーと話す事など殆ど無い。

自分の声が上ずっていることに気付く。


「、、、良いだろう。5分後に下だ。」


「ありがとうございます!」



高級車の後ろに乗せられて、降ろされた場所は、電話で指定された相手のオフィスが入る高層ビル。


生唾を飲み込む横で、普段は恐ろしいと感じていたマネージャーの毅然とした態度に、信頼感を覚えた。


俺の視線に気付いたマネージャーは、不敵に笑い、俺に一声かけると、颯爽とエレベーターへと向かっていく。



その時の記憶は、緊張のせいか、断片的なものしかない。

ただ、俺が発したのは最初の挨拶のみで、後は、隣から聞こえてくる滑らかなトークを、目の前の顧客と共に聞き入っていた。


一言、一言が、その場の雰囲気を支配していく。

膨大なインプットが為すその見通しは、まるで未来を見てきたかの様な。


やがて、マネージャーの話が終わった頃には、誰が見ても高そうな腕時計の反対に持った万年筆が、契約書の書類の上を滑っていった。


それは、俺にとって、生涯忘れることの出来ない初契約であった。


あの時、マネージャーの気持ちがどの様なものであったのかは、俺には分からない。


それでも、きっと今の俺と同じ気持ちだったのではないだろうか。


目の前で一生懸命になってる人が居て、自分はそれを手助けする力がある。


ならば、それに応えないなんて事は無いと。


震える身体を制しながら、恐る恐る踏み出す彼女の一歩より、大きく前に足を踏み出して、不敵な笑みを浮かべながら振り返る。



「楽勝ですよ。」



いつも読んでいただきありがとうございます。

お盆に後2回くらい更新できれば、、、

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