40話 翠色
「お待たせ致しました。」
コボルトの肉が入ったスープを飲んでから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。
アインスとギンはすっかり眠りにつき、その寝顔を見ながら、俺も心を安らげていたところである。
眠気が芽生えるかどうかといった空間の中で、上の声が静寂を破る。
下を向いていた顔をゆっくり上げると、目の前には、分厚い鉄格子を挟んで、この屋敷の当主であるラダンが数人の護衛を引き連れて立っていた。
「色々と大変なご様子ですね。私たちも随分と待ちました。」
恐らく7、8時間は待ったであろう。
思わず、待たされたという感情が形を変えて、口から飛び出す。
「申し訳ございません。今現在、街の至る所で同じ様な爆発が起きておりまして、我々もその対応に追われてこの様な時間に。」
「確かに、いたるところで爆発が起こっているようですね。振動がここまで届いていました。」
「やはりそうでしたか。それにも関わらず、ここへ来るのが遅くなって申し訳ございません、、、
それよりも、1つ伺いたいのですが、私の執事が箱を開いた時の爆発を封じ込めたのはあなたの能力やスキルか何かですか?」
(正直に答えるべきか否か。)
「ええ。まぁ、そんなところです。」
「やはり。流石は期待の冒険者といったところでしょうか。あなたは、私の命の恩人です。本当に感謝を申し上げます。」
「いえ。こちらの被害を防ぐために行った事ですので、それに関してはお気になさらず。」
ここまで喋って妙な引っかかりを感じたのは俺だけなのか。
俺の能力と予想を付けていながら、なぜここまでの隔離を行ったのか。また、隔離を行なったにしては、質問も簡素であった。
「本当にありがとうございます。ただ、大変申し訳が無いのですが、こちらとしては、あなた方が本当にこの件と関係が無いのか、見極めさせていただかなければなりません。確信を得ない事には前に進めないのです。」
(なるほど。そういう事か。)
「それは、、、全く構いませんが、、、一体どの様にですか?」
「こちらへどうぞ。」
そう言ってラダンが階段の方に向かって話しかける。
それに呼応して現れたのは、翠色の綺麗な長い髪をなびかせた美しい女性。
何よりも特徴的であったのは、真っ黒な目隠しで、その目を覆っている点であった。
(目が見えない?、、、いや、違うな。)
「その方は?」
「ご存知ではありませんか?」
「良いのです。ラダン。そちらの方が良いのです。」
「承知しました。」
若く美しい女性へと、頭を下げるラダンから、その方が相当地位の高い方である事は伺えた。
それにしても、、、
「その目隠し。沢山の模様が入ってますが、何か能力でも抑えているのですか?」
俺の質問に、2人とも声こそ上げなかったが、驚いた顔は隠せない様子であった。
(正解か。)
「さっそく始めましょうか。」
「よろしくお願い致します。」
そう言って、その女性はその真っ黒で、恐らく特殊な造りであろう目隠しをすっと取ると、宝石の様に色とりどりに輝く綺麗な2つの瞳が姿を現す。
その美しさはこの世の物とは思えず、脳が発する危険信号とは裏腹に、吸い込まれる様にその目が視界を狭くする。
目線が合った瞬間。
自分の中に何かが入ってくる様な感覚が襲う。
それは、まるで、震える身体に暖かいスープを入れた様な、身体の重心にグッと溜まり、そこから鳥肌が広がる様なそんな感覚。
「この方は大丈夫でしょう。シガル様と懇意にされている訳ではなさそうですし。」
(何をされた?)
そう言って、再び目隠しでその瞳を覆う。
「そうですか。それでは、やはり、、、」
「ええ。純血派の方々なのでしょう。」
「どう致しましょうか?」
「この方に頼んではいかがでしょう?」
「それは、いくらなんでも、、、」
「恐らくこれ程の計画を進めるのですから、相当に準備を行なっているはずです。父や兄達も既に彼らの手の中でしょう。」
「それは、そうですが、、、異国の者に、、、」
「異国の者だからでは無いでしょうか?」
自分を置いて話は進む。
その様子は、1分1秒を争っている事がうかがえた。
「我々に迷っている時間はありません。」
「承知しました。」
そう言って、ラダンがこちらに向き直る。
「ゼロ殿!シガルが企てた爆発から我等を守っていただき、ありがとうございました。それにも関わらず、この様な所でお待ちいただいた事深くお詫びいたします。非礼に対するお詫びは当然の事ながら、更に無理を承知で1つお願いがございます。」
「いえ、それについては何も思っていませんし、ラダン様の対応が当然だと思います。
それよりも、なんでしょうか?
その依頼とは、、、」
「このお方。ダルク家ムー大公のご息女が1人、公位継承権第4位にして、魔眼の持ち主。ミア様を、どうか公宮まで連れて行っていただきたい!」
ドクッ。
心臓が高く鳴る。
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