04話 成功を祈って
長男カッタドが倒れてからは、屋敷中が大慌てであった。
最初に気付いたのは勿論俺。
なぜなら、虹色の透明な玉がカッタドに入っていくのを見ていた張本人であるから。
そして、その玉がカッタドの身体へと入るや否や、大の男が膝から崩れ落ちたのだ。
すぐに次男のケルンに声をかけ、執事や警備の者を呼び集める。
そのまま、数名で屋敷の寝室へとカッタドを運び込み、すぐに呼吸と心音を確認したが、幸い、どちらにも問題がないことが確認出来たため、全員に走っていた緊張は少し和らいだ。
次男のケルンが、回復魔法を使える者を数名寝室に配置した後、長女のミーデンと俺を隣の客室へ呼ぶ。
他の家族については、執事達に任せ、父親ブレムの肉体が燃え尽きて土へ還るのを見届けるように、ケルンが指示していた。
(流石だな。)
そして、客室に他の者が居ない事を確認すると、次男のケルンは今後の事を話し始める。
「魂の継承は恐らく無事にカッタドへと行われたのだろう。だが、カッタドが目覚めるかどうかは未だ分からない。そこで、ひとまず一週間を目処に、カッタドが目覚めるかどうかを見極めたいと思う。」
その意見には、長女ミーデンも俺も賛成だった。
2人とも小さく頷くと、次男のケルンは続けて話す。
「一週間で目覚めなければ、魂の継承は失敗したと判断し、次男の俺が領主を引き継ぐ。但し、引き継ぎがうまく行かなかった事が判明すれば、直ぐにでもこの領地を狙う輩が出てくるだろう。そこで、もしそうなった場合には、ミーデンもアペイロンも、俺のサポートとしてこの地に残って欲しい。もちろん領地からの収入は均等割で良い。」
多少の驚きはあったものの、ケルンの話は至極当然であった。
カッタドの目覚めをいつまでも待ちたいというのは当然の気持ちなのだが、ひとまずの区切りをつけて置かなければ、直ぐにでもこの領地を狙って、他国や同国の別派閥の者たちが刺客を送り込んでくるだろうということは容易に想像できたからだ。
ミーデンが大きく頷いたので、
俺もそれに合わせて返事をする。
「承知しました。兄上。」
その回答に、ケルンは少しだけ安堵したような表情を浮かべていた。
「助かる。引き続きよろしく頼む。」
そう言うと、他に指示すべき事があるのか、足早に部屋を後にする。
「ふ〜。」
俺はため息をつきながら考えていた。
(貴族というのも大変だな。この村で一生暮らすなんて考えたくもないが、事情が事情だしなぁ。)
後は、カッタドの目覚めを祈るばかりである。
姉のミーデンは、そんな俺を見た後、何も言わずに肩に手を置いて、部屋を出て行く。
(目覚めるまで、色々考えますか。)
椅子からゆっくりと立ち上がり、俺もミーデンに続いてその部屋を後にする。
✳︎
魂の継承より5日後の朝、相変わらず次男のケルンや執事達は忙しそうにしていた。
そんな中、俺は徐々に回復してきた身体を動かす為にも、門番や屋敷の警備で非番の者と庭で模擬戦を行っていた。
今日も、誰かに頼もうと思い、準備をしていると、執事達が慌ただしく走り回っている事に気が付いた。
「何事だ!?」
俺が尋ねると、1人の執事が一瞬立ち止まり頭を下げて答えを述べる。
「カッタド様がお目覚めになりました。」
つい先程の事なのだろう。そう答えた執事はすぐにまた走り去った。
それを聞いた俺も、模擬戦のために用意していた剣を置き、直ぐにカッタドの寝室へと向かうこととした。
途中でキッチンに寄って、料理人達には、今日は特別な夕食が必要かも知れないと伝えると、その言葉だけで理解したのか、全員から活気のある返事が返って来る。
そして、皆から少し遅れて部屋に着くと、既に他の家族達がカッタドを取り囲みながら、和やかに談笑している姿が目に映る。
その光景から、魂の継承が無事に済んだ事は明らかだった。
急いで部屋の中に入っていき、兄カッタドの顔を見ようと、家族や執事の輪を潜り抜けたのだが、ベッドに座るその姿を見て俺は驚愕した。
顔にこそ疲れが見られるものの、先日までと、明らかに雰囲気が違うのだ。
凄味、迫力、圧力、そういったものに圧倒的な違いを肌で感じていた。
「兄上、魂の継承はいかがでしたか?」
驚いた俺が勢いよくそう尋ねると、カッタドは答えた。
「不思議な体験だった。父親の人生を追体験したような、本を100冊一気に頭に詰め込んだような、喜怒哀楽が一度に押し寄せるような。上手くは言えないがそのような感じであった。だから未だ少し頭が痛む。」
そう答えると、カッタドは力無く微笑んだ。
「いくら様々な能力を引き継げるとしても、二度とやりたいとは思わん。」
そう付け加えて。
そんな話を聞いて、俺は前世で聞いた話を少し思い出していた。
前の世界における中世ヨーロッパの一般市民が、生涯に見聞きした情報量は、現代日本の経済新聞朝刊1部程度だそうだ。
それを考えると、インターネットも、TVも映画もないこの世界において、魂の継承による情報の伝達量は相当なものなのだろうと。
そして、だからこそ魂の継承にはリスクが伴うのだろうと思った。
今回カッタドも、いくら一般市民より多くの情報が得られる貴族とはいえ、魂の継承による情報量は未曾有のものであっただろう。
カッタドはそれを乗り越えたのだ。
俺はそんな兄を見て、少し誇らしげになると同時に、自分が見たあの虹色の玉は恐らく魂だったのだろうと思った。
(覚えてる範囲で、あれを見た記憶が無いって事は、これも前世の記憶が戻った影響か。)
そんな事を考えるのと同時に、自分の中に沸々と湧き上がる何かを感じた。
その後は、全員で少し談笑した後、もう少し休ませた方が良いという事で、全員部屋から出て行き、再び顔を合わせたのは夕食だった。
夕食には村の有力者達も数名呼び、随分と顔色の良くなったカッタドの挨拶を皮切りに、サイクロプスのステーキなど、普段はなかなか食べることの出来ないご馳走が大いに振舞われ、レンド家の屋敷は賑やかな夜となったのだった。
自分で文書を書くことがこんなに難しいとは( ; ; )
読んでいただきありがとうございます。
引き続き徐々に更新したいと思います。




