38話 ミライ
盗賊とのやりとりから更に3日。
のんびりと揺れる馬車は、真っ直ぐに目的地へと進み続けた。
途中で違う盗賊にまた囲まれるという出来事が起こったが、あっさりと撃退した以外は、大した変化は無かった。
それよりも、アインスがぴったりと俺にくっついて離れないので、この旅路が2人の距離を一層縮めるものとなり、気分の良い旅となっていた。
そうして、甘い時間をたっぷり過ごしながら、俺たちはようやくテルレ公国の中心都市ミライへと辿り着いたのである。
「おー、凄い行列だな。」
「本当ですね。」
「俺たちはこれに並ばなくて良いのか?」
その質問に御者が黙って頷く。
「この行列は、みんな商人達なのか?」
この質問にも黙って頷く。
(この旅の間、本当に一言も喋らなかったな。)
シガルから命令されてるのだろう。
夜に眠る時や、食事をする時も常に別行動を取り、俺たちとの会話は一切なかった。
そんな御者が手綱を握る馬車が、並ぶ行列の横を颯爽と通り過ぎて行く。
街を囲む城壁には3つの門があり、大量の馬車が行列を作る入口とその横の出口、そして恐らくは、上流階級専用の出入り口。
俺達の乗る馬車は、その出入り口に吸い込まれる様に、真っ直ぐに突き進んだ。
(同じ商人なのに、シガルはこっちの門を使える訳か。)
シガルの紋章が入っているからなのか。
門に入った際にも、門番のチェックは驚く程簡単に終わり、遂に街の中へと踏み込んでいく。
入るや否や、目に飛び込んでくるのは、煌びやかな宝飾に手の込んだ装飾。
建物から街灯に至るまで、果ては道を歩く者達の服の刺繍から、豪華絢爛、百様玲瓏。
正しくそれは、貴族の街と呼ぶに相応しいその有り様であった。
隣のアインスや、ギンは口を開いてキョロキョロ見回す。
(流石は、貴族の街。)
余りにも派手なその街並みは、前世の都心や、高級住宅街を彷彿させる。
御者は特に驚く事も無く、そのまま馬車は進んでいく。
少なくとも、初めて来た訳では無さそうだ。
目に入る彩の中に、ふと混ざっている物に気がついた。
(見られてる?)
近くからなのか。遠くからなのか。
強烈な視線に変わったかと思えば、それはすぐに風と共に消えて言く。
(俺が来るのは、既に周知の話って事か?)
「どうされました?」
「いや、何でも、、、」
街の中をしばらく走ると、やがて目的地に着いたのか、馬車が止まる。
「着いたのか?」
変わらず御者は黙って首を縦に降る。
「アインス、ギン。着いたようだ。降りるぞ。」
「はい!」「ヴォン!」
馬車から降りて、御者に木箱を手渡されると、伸びをしているアインスやギンを見ている間に、馬車はさっさと走り去って行った。
「い、行っちゃいましたね。」
「ああ。そうだな。」
(帰りは自分達で帰れって事か?何て依頼だよ。)
そんな事を考えていると、目的地の派手な門の前に立つ門番が面倒だと言わんばかりに話しかけてくる。
「ここに何の用だ?」
「はい。私はグランの街の冒険者なのですが、グランで奴隷商を行なっているシガル様よりこちらに荷物を運ぶ様に依頼を受けて参りました。」
「グランのシガルだと?一応確認をする。しばらく待っておけ。」
「はい。」
そう言うと、門番の男は屋敷の中へと入っていく。
その間、もう1人の門番が俺の方をジッと見つめる。
(大変な仕事だよなぁ。)
前世でも、交通誘導等で1日立っている様な仕事を見かけると、頭が下がる思いであった。
しばらく経って、先ほどの門番が戻ってくる。
「入れ。ラダン様がお会いになるそうだ。」
「ありがとうございます。」
ラダン。
聞いたことがある。
というよりも、トッドの記憶の中に該当するものがある。
テルレ公国最大の商会。
その流通網は凄まじく、売っていない物は無いと言われるほど。
(商人か、、、)
それにしても、今回の依頼はそもそも目的地さへ知らなかったのだが。
広い庭を抜けた先の荘厳な屋敷へ入ると、案内された場所は、天井が高くそびえた応接室。
グランの領主と会った時の様に、両端には、護衛や執事、メイド達が並び、その先の中央に居座る男こそが、恐らくラダンであるだろうと思わせる程の宝飾を身につけていた。
「あなたが、シガルの使いですね?」
丁寧な物言いに思わず驚く。
「は、はい。その通りです。」
「そして、噂の新人冒険者でもあると。」
「噂のですか?」
「はい。商人の間では既に有名ですよ。色々なお話で。」
「恐れ入ります。」
「今回、可能であればあなたを連れて来て欲しいと頼んだのも私です。その変わりシガル本人の姿がありませんがね。」
そう言ってラダンは苦笑する。
「そうだったんですね。」
「ちなみに、中身は約束の物でしょうか?」
「いえ、私は中身を聞かされておりません。」
「そうですか。」
若い使用人の1人に目線を移すと、俺の目の前に置かれた箱を受け取る。
それをラダンの基まで持って行き、ラダンが手をかざすと、青白い光がボヤッと光る。
カチャッ
鍵の開いた音が鳴る。
(どういうカラクリだ?)
恐らく、契約のスキルを使っているのだろうという事はわかる。
(どういう契約書を書けば、出来るんだろうか?)
そうして、執事が鍵の開いた箱を持ったまま、数歩下がって、箱を開いた瞬間。
ピカッ
(ん?)
ドンッ!!
いつも読んでいただいてありがとうございます!
更新遅くなり、失礼いたしました。




