37話 道中
「積荷を渡せ!さっさとしろ!!」
アインスとの甘い時間を遮る声を受けて、荷台の隙間から外を覗き込むと、刃こぼれした剣を馬車に向けながら1人の男が叫んでいる。
そして、その周りには、馬車の周囲をグルリと囲んだ無数の男達。
にやにやと浮かべる余裕の笑みが、今日の盛大な食事への期待を表していた。
それもそのはずで当然だろう。
これだけ立派な馬車が、護衛の馬車も付けずにたった1台でこの広い一本道をゆっくりと進んでいたのだから。
ましてや、馬車にはシガルの紋章。
それなりの積荷が用意されている事は明らかだ。
「盗賊か。」
「そのようですね。」
「怖いか?」
「ゼロ様が居ますから。何も。」
「そうか。ちょっと待っといてくれ。」
「はい。」
そう言って馬車を降りると、身に付けた装飾品が輝く盗賊の頭と思わしき男が口を開く。
「お前だけか?女が居るなら早く出せよ?それから積荷もさっさと降ろしてこい。」
カンッ!
威嚇をするように持っている剣を、地面に叩きつけながら吠える。
(物は持ち主を選べないとは言え、可哀想に。)
俺の口角が上がったのが見えたのか。
その男は更に激昂する。
「おい!テメェ!目ぇ見えてんのか!?5秒以内に答えろ!」
ふと、御者の方を見ると、馬の手綱を握ったまま震えている。
(さてと。どうしようか。)
正直に言うとこの大勢の盗賊達に囲まれた事を、俺は心の底から喜んでいた。
なぜなら、ローレンの魂を継承してからというものの、余りにも膨大な魔法の知識と、魔力が備わったので、早速その力を試してみたいと思っていたところに、求めていた機会が絶好の形で現れたからだ。
(魔法はイメージで9割が決まるそうだ。)
先ほどまでの燃えるような夕焼けは、水平線の下に潜り込んで行き、1日の中で最も美しいと言われる時間へと姿を変えていく。
今日は天気も良かった。
未だ残す遠方の青色に、消えゆく赤色が混ざった空は、薄紫の彩を添えていた。
匂いがする。
夜が近づいている。
暗闇が。1日の終わりが。色の終着点が。
すぐそこまで近づいている。
「ゲート。」
その呟きと同時に何かが周囲を走る。
それは単に通り抜けるだけでは無い。
それに触れた男たちの腰から上が、一瞬で消え失せていく。
「ああ?」
1人残った男が呆然と立ち尽くしながら、間抜けな声を上げた。
周りをキョロキョロしながら、腰を抜かしていた。
今回俺がイメージしたのは、空間魔法のゲートを巨大な魔物の開いた口の様に走らせるという事。
それにより、まるで魔物が獲物を口に含むかの様に、盗賊達の腰から上だけを、次々にゲートの中に放り込んだのだ。
(なるほど。)
得られた結果が俺の好奇心を揺さぶる。
不思議なもので、腰から上が無くなった無数の足が、その場に立ち尽くしていた。
(この段階では、まだ死んでないのか。)
興味深く観察した後、次の言葉を発する。
「閉じろ。」
その瞬間、一斉に腰から無数の鮮血が噴き出した。
(ここで、こうなる訳だ。)
噴水の様に勢い良く跳ねた血液が、上下左右に暴れ回ると、次々に膝から崩れ落ちていく。
そして、ゲートから大量の上半身を出すと、それは、山の様に一箇所に積み上げられた。
1人残った、いや1人残した男に近寄る。
「ふぅ。ふぅ。」
男は下を向いたまま、深呼吸を何度もしていた。
「ゲート。」
再び放った言葉の後、今度は残った男を丸々入れる。
男はひたすら下を向いて、何かを呟いている様だった。
1分程待って、男を出すと不思議な顔をして俺を見る。
「に、逃してくれますか?」
「何が見えた?」
「なっ、何が?見えた?」
「正直に言え。」
「あ、あんたが何か呟いた後に目の前が真っ暗になったと思ったら、また、ここに居る!!」
(ゲートの中の意識は無いって事か。)
「他には無いのか?」
「わからん!何も!本当に何も!わからん!!」
(嘘は言ってないか?)
今度は、試しに右手だけをゲートに入れてみる。
「ひっ!?」
「右手の感覚はあるか?」
「なっ、俺の右手!?どこ??右手どこ??何だ!?」
「右手の感覚はあるか?」
「返せ!右手!なんだ!どこ言った!?」
(なるほど。)
「おい!!聞いてるのか!!おい!!」
「ありがとう。色々分かったよ。ところで、お前は盗賊なのか?」
「ち、違うんだ。身体の悪い弟が居て。そいつの為に。仕方なくさ!!仕方なく盗賊をしてるんだ!治療費が!!」
「そういう事言われると困るんだよな。」
「本当なんだ!!本当にその治療費の為に!仕方が無いんだ!国が何の保障もしてくれないから!」
「ふー。」
「信じてくれ!頼むから!!俺の命はどうなっても良い!!せめて弟だけは!!」
「また、背負う物が増えるなぁ。」
「良いのか?」
そう言って嬉しそうにあげた顔を鬼の手で叩き潰す。
ベチャッ!
「そういう背景を言われると気が滅入るんだよな。まぁ、それも背負ってやるけど、、、」
ふと視線が気になり、目線を馬車に戻すと、御者はまだその場で震えたままだった。
(演技派だな。)
潰した死体を、お仲間のところに持っていくと、
盗賊の死体から、盗れる物は全て盗った。
(帰ってギルドに渡すか。)
それぞれが誰かの大切な何かだと考えると、1つでも持ち主やその家族の元へと向かう事を祈る。
世知辛い世の中だから。
1人くらいこんな考え方をしても良いだろう。
きっとアインスも賛成してくれるはずだから。
その後、一気に鬼火で燃やすと、虹色の魂が各々の方向へと散らばっていく。
それぞれが、それぞれの帰る場所へと向かう。
(今日はここで野営だな。)
ゲートの中から野営のセットを出すと、アインスを呼んだ。
(これも予想の範囲内か。)
いつも読んでいただきありがとうございます!!




