36話 指名依頼
夕暮れを進む煌びやかな馬車の中、俺たちは隣国のテルレ公国を目指していた。
「綺麗ですね。」
夕陽を見ながらつぶやいたアインスの銀髪が、無数の反射を生み出す。
「ああ。アインスには負けるがな。」
驚いて振り返ったアインスが、言葉を紡ぐ前にその口を唇ごと塞ぐ。
ギンは丸くなったまま、呆れた様に声を出す。
こういったやり取りに関しては、付き合いたてのカップルの様なものなのだから、大目に見て欲しいというのが本音だ。
そんなこんなで、馬車を徐々に進める俺たちであったが、ローレンの魂を継承した次の日にグランの町を出てから、既に2日が過ぎようとしていた。
あの日、屋敷に戻った俺を待っていたのは、職人ギルド長のマグガーラ。
屋敷の門が開きっぱなしであったので、俺たちが帰るのを待っていたという。
深々とお礼を述べると、「1つ貸しだぞ。」
と言って、眠そうに帰って行った。
その際、ギルド長からの伝言で、俺を呼んでいるとの事であったので、ギルドに顔を出すと、待っていたのは、執務室に腰掛ける神妙な面持ちのギルド長であった。
「良く来たな。」
「待たせましたか?【不死の森】に行っておりまして。」
「いや、良い。冒険者なら当然だ。また、何か雰囲気が変わったか?」
「そうですかね?」
(流石はなかなか、、、)
「研鑽出来ているなら、良いことだ。」
「ありがとうございます。」
「それよりも、今日はお前に用があってな。」
「マグガーラさんから伺いました。詳しくは知りませんが。」
「ああ。実はお前に指名依頼が来ている。」
「指名依頼ですか?それはまた、、、」
「内容としては隣国のテルレ公国に物を運ぶだけで、報酬もそれなりだ。」
(このタイミングでテルレ公国か、、、)
先日の事が頭をよぎっている間に、ギルド長が続ける。
「但し、、、」
「ただし?」
「お前を指名して来た相手はあのシガルだ。」
その言葉に、思わずピクッと俺の眉が上がる。
「あのシガルですか?」
「そうだ。俺の知らないところで和解でもしたか?」
いかにもそうでは無いと分かっていながら、聞いてきたような口ぶり。
「いえ、ご存知の通りかと。」
「そうだな、、、最近アイツが妙な動きを見せている。」
「妙な?」
「ああ。やたらと色んな奴がアイツの屋敷を出入りしている様だ。」
「それはどういった方々が?」
「これ以上は踏み込むな。そして、お前はこの街の冒険者ギルド期待のルーキーだ。だから自分から関わろうとはするな。」
「分かりました。」
そう答えると、ギルド長が紙を出す。
〜Quest(指名)
依頼名:運び屋
難易度:★★
指名:ゼロ
依頼者:シガル
場所:テルレ公国
期間:ASAP
報酬:銀貨30枚
達成証明方法:受領印
ギルドポイント:2,500PT
〜
「ギルドポイントが凄く高いんですが?」
「まぁ、事情があってな。」
「それはつまり?」
「シガルの企みはわからんが、この依頼を引き受けて欲しいというのが俺の本音だ。ギルドのメリットが大きい。」
「ギルドのメリットですか?」
「ああ。詳しくは言えんがな。まぁ、お前の実入りは見ての通りそれなりだが、その分ギルドポイントが高いわけだ。」
「シガルが約束を守るのかどうかも怪しいと思いますがね。」
「一応、神殿の公印が押された契約書はあるから、問題無いだろう。」
「そうですか。それで、今回僕が指名されたと?」
「その通りだ。はっきり言って意図はわからん。お前を殺すつもりなのかも知れないし、別の意図があるのかも知れない。」
「なるほど。」
「まぁでも良いんじゃないか?」
「なぜですか?」
「虎穴に入らずんばって事だ。どうする?この依頼受けるか?」
「うーん。まぁ、やりますよ。」
(ギルド長の言い分も分かるし、こっちも準備をしてなかった訳じゃ無いしな。)
「よし!じゃあ、早速シガルにはそれで回答をしておく。出発は明朝。お前の屋敷の前に馬車が来るからそれに乗ってそのままテルレ公国を目指してくれ。」
「馬車ですか?」
「そうだ。シガルが用意した馬車に積荷があるそうだから、そこにそのまま乗り込んでもらう。」
「別に馬車無しでも行けますがね?」
「まぁ、その辺が怪しさ満点ってとこだな。」
ギルド長がニヤリと笑う。
(この人楽しんでないか?)
「わかりました。依頼を受けると言った以上、全面的に従いましょう。」
(マグガーラにしばらく工事の延期を伝えておかないとな。)
「期待しているよ。」
こうして依頼を受けた俺は、街で必要な物を買い込むと、屋敷に戻って空間魔法の中にその全てを放り込んだ。
街中でしなかったのは、目立つ事を避けたためだ。
「アインス。どう思う?」
いつものソファに腰掛けて、アインスに尋ねる。
「十中八九何かあるでしょう。わざわざ馬車まで用意されているのですから。」
「そりゃそうだよな。」
「でも、これで何かが前に進むのであれば、それも良いのでは無いでしょうか?」
「ふふっ。」
「何か可笑しな事を言いましたか?」
「いや、俺もそう思っていたからな。アインスも同じ考えという事が分かって良かった。」
俺の返答にアインスもにっこりと笑う。
恐らくこの依頼の裏には何かがあるのだろう。
それでも、全く情報の無い現状よりかは、前に進むはずだ。
そう考えると今回の依頼は悪くない。
(シガルが何を考えているのかは分からんが、まぁ良いだろう。望むところさ。)
アインスの膝で、気持ち良さそうに眠るギンを見ながら、俺たちは翌日以降へと備えた。
そして、話は冒頭へと戻るのであった。
貴重な時間をありがとうございます。
引き続きよろしくお願い致します。




