34話 月夜
「お目覚めですか?」
銀色の髪のレースに囲まれた目の前には、綺麗なアインスの顔が。
そして、心臓には細い両手が添えられている。
辺りは日が落ちた事もあり、より一層の暗さを増していた。
「どれくらい意識が無くなっていた?」
「12時間程度です。」
(思っていた以上に時間がかかったな。)
「そうか、、、
泣いたのか?」
金色に輝く月に照らされたアインスの顔。
彼女の頬を流れたのであろう。
滴の乾いた後がくっきりと残っていた。
俺の生死を確認する為に置いた両手が、その滴を拭う為に動く事も無かったのだろう。
「いいえ。」
「そうか。」
「それよりも、魂の継承は無事に?」
「ああ。まぁな。何から話せば良いことやら。」
1人の魂を継承すると言う事は、1つ業が増える。
今回は特にその重みを感じたところでもあった。
(たった8小節程の人生。俺はどれだけ自分を詰め込めるんだろうか。)
重たい頭に力を入れて起き上がると、既に陽が落ちている事もあり、今日は【不死の森】で野営をする事にした。
「腹が減ったな。」
「わかりました。何か狩りに行きましょうか?」
「いや、食材は少し持って来てるんだよ。」
袋から絞めたガーナーを1羽と米を取り出すと、アインスにまた前のスープを作ってくれるように依頼する。
「あれは、そんなに大した料理じゃありませんよ?」
「良いんだ。好きなんだよ。毎日でも食べたい。」
そう言うと、アインスは顔を赤くしながら嬉しそうに笑った。
「わかりました。では、早速準備をします。」
アインスが周りで火の為の木を集め始めたので、石を集めて簡易のコンロを準備した後、取り出したガーナーの羽を毟った。
(すっかり手慣れたもんだな。)
アインスが集めて来た木の葉や木の枝に火をつけると、毟ったガーナーの表面をさっと炙って残った毛を焼く。
腹を割いて内臓を取り出し、胃袋や腸、肺は足で掘った地面に埋めた。
そこからは、アインスに任せると、慣れた手つきで、丸々一匹の肉を残った心臓や肝臓と一緒に鍋に入れて、水で煮込む。
火の灯りで、周りが見える様になったため、食べられる野草をいくつ摘んで、アインスに渡すと、その中からいくつか吟味して鍋に入れていく。
グツグツっと鳴り始めた音が、鼻腔をくすぐり、2人のお腹が返事の様に鳴り返す。
持ってきた米を加えて更に待つ間、アインスにローレンの事を話す。
「そんな事が、、、つまり、今もその娘さんのアジーンさん?は空間魔法の中に居るんですか?」
「多分そうだな。明日の朝にここで色々試して、屋敷に戻ることにするよ。」
「それにしても、これから出掛けるのが楽になりますね。その空間魔法はどれくらい入るんですか?」
「どうなんだろうな?特に制限が無い気もするが、、、無限って訳もないだろうし。」
「でも、空間魔法なんて私も聞いた事無いですけどね。」
鍋の中のガーナーをスプーンでかき混ぜながらアインスが呟く。
「そうなのか?ローレンは国に所属していた魔法使いだから、完成形はまだしも、その手前の情報も残って無いんだろうか?」
「詳しくはわかりませんが、やはりその街?が壊滅した時に、その情報も全て無くなったのでは無いかと思いますけど、、、」
「うーん。その可能性も充分ありえるか、、、俺も今回初めて知ったしなぁ。」
ゴーッと火の勢いが増した音が聞こえる。
アインスが新しい木を投げ入れて、息を吹きかけていた。
「塩は持って来てますか?」
「ああ〜、忘れたなぁ。ワインは持って来てるんだけどな。」
「ゼロ様らしいですね。わかりました。」
そう言うと、アインスは袋から何かの果実を取り出して半分に割る。
持っているスプーンで種を取り除くと、ナイフで切りながら鍋に加えた。
「何だ?それは?」
「前と少し味は変わりますが、これも美味しいですよ。」
ふふふっと笑って、再び鍋を混ぜる。
「まだもう少し掛かりそうか?」
「そうですね。後10分くらいですかね?」
ポンッ。
待ち切れなくなった俺が出していたワインのコルクを開けると、瓶の先をアインスに向ける。
「気が早いですね。」
「アインスの料理が楽しみでな。」
「期待を超えられるかはわかりませんが、きっと美味しいと思いますよ。」
ゴクッ。
瓶を受け取ったアインスが口に含んだワインで喉を鳴らす。
続けて俺も受け取ると、煙で乾燥した喉を潤した。
(なんだ?)
ワインを地面に置いた瞬間、何かの気配を感じた気がした。
(気のせいか?)
ゼンとジンの魂を継承した俺にとっては、これだけ暗い森の中でも、半径50メートル程の気配は明確に感じる事が出来る。
「ゼロ様、どうかされましたか?」
「ん?ああ。気のせいみたいだ。」
「そうですか。」
アインスは、火を見つめながら、鍋をかき混ぜている。
「ゼロ様、味見を、ひゃっ
振り返ったアインスが小さく声を上げた。
その音の振動が、俺の耳に届いた一瞬でアインスの方に身体を跳ね上がらせると、鬼の手を出現させる。
一切の気配を感じさせなかった存在を、視界に捉えると、その姿に驚く。
「狼?」
アインスと同じ銀色の美しい毛並みを携えて、さっきまで俺の座っていた横にまだ子供であろうその狼の様な出で立ちの生き物が座っていた。
(なぜ、気配に気づかなかった?)
俺の中に動揺が生まれるが、すぐに頭を切り替える。
「殺すか。」
現れた鬼の手でその狼を掴もうとすると、アインスに止められる。
「ゼロ様。ダメです。」
「どうした?」
「この出で立ちは恐らく【不死の森】の番狼と言われるムーンです。」
「だったら何だ?」
「殺せばその子供の親が出て来るかと、、、」
「強いのか?」
「【不死の森】に数多居る魔物の中で、一番と言われております。また、森の均衡者でもあると。」
「なるほどな。」
目の前の小さな狼は、呑気に後ろ脚で首を掻いている。
特にこちらに対する警戒心も無さそうだった。
「ふー。」
1つため息をつくと、俺は再び座っていた場所に座り直す。
「ゼロ様?」
「話は分かった。それなら、とりあえず皆で飯でも食おうか。」
俺の提案に笑顔になるアインス。
「わかりました。ちょうど出来上がった頃合いだと思います。」
そう言うと、アインスが3つの皿に出来上がったスープを盛って渡してくれた。
前とは違った香り。
勢いよくスプーンを口に入れる。
塩の代わりに入れた果実のせいなのか。
摘んだ野草が織り成しているのか。
「美味い!トムヤムクンみたいだ。」
爽やかに抜ける酸味と、ガーナーの骨の髄から滲み出た出汁の深み。
舌を刺激する辛味が、口の隅々まで広がる。
「えっ?何ですか?」
「最高に美味いって言ったんだよ。最高だよアインス。」
「良かったです!」
「ヴォウ!」
地面に置かれた皿のスープを、何度も小さな舌で舐めている謎の狼も、頭を上げて勢いよく声を上げた。
「そうか。お前も美味いか。」
「ありがとうございます!」
そんな、2人と1匹の不思議で楽しい夜が続いた。
いつもありがとうございます!
引き続きよろしくお願い致します!




