32話 甘々
次の日から、俺とアインスが過ごした3日間は、まるで前世の大学生の様な時間だった。
日中の模擬戦やポーション作りは引き続き行うものの、時間が空けばお互いのこれまでの事をさらけ出して話し合い、その都度生まれた姿に戻って身体を交えた。
外側が開かれた蕾は綺麗な花となり、広げられた中央から花弁を伝って滴る蜜に互いが酔いしれた。
それは、さながら蜂か蝶か。
交わされる会話の中身は、深い話やくだらない話と上下左右。
行ったり来たりが、お互いの距離を縮めるエッセンスとなっていた。
深いところで言うと、俺は前世の記憶が戻った話や、それによって魂が見える様になった事。
それまでの生い立ちである、コンスタン帝国の中流貴族のレンド家の三男として生まれ、騎士団に所属しようとしていた事など自分自身の全てを語った。
勿論、レンド家から逃げ出した身ではあるため、自分自身の全てを話すという事にリスクを感じなかったと言えば嘘になるが、それでも隠し事があるよりかは良いと考えた。
この決断がどのような結末を迎えようとも。
また、アインスも今までに触れていなかった過去の事や、自身の能力の詳細を俺に話してくれた。
より深いところで2人が繋がっていく。
これを俺は求めていた。
ちなみに、急ピッチで進んでいく屋敷の改修の責任者であるマグガーラには、次の日の屋敷の門を開いた際に、俺とアインスを見た一言目が「お前らヤッただろ?」であった。
アインスの顔が瞬時に真っ赤になったが、俺は驚きの方が強かった。
理由を聞けば、2人の間に流れる空気がこれまでと全く違ったそうだ。
流石は、職人ギルド長。
そして、3日間が経った今日。
応接室でアインスと俺は改めて話をしていた。
なぜなら、お互いの事を共有した中で、何よりも驚きであったのが、語られたアインスの能力だったからだ。
それは、想像していたよりも遥かに強力なものだった。
「結局、何度もの確認になるが、アインスが見えているのは誰の魂かと、そしてその魂の力の強さという事なんだな?」
「はい。そうなります。
実際の能力の詳細については、姿形で分かる時もありますが、基本的にはわかりません。」
「それは凄いな。十分強力だ。」
以前に聞いた時には、深く踏み込む事は野暮かと思い、軽く聞く程度に留めた。
その内容から、俺の中でアインスの能力は、いくつの魂を継承しているかがわかる程度という認識であったが、どうやらその程度では無かったようだ。
「それは、シガルも知っているのか?」
「はい。寧ろ魂の強さが分かるという部分は、シガル様くらいしか知らない筈です。」
「分かった。それはちなみに、どういう風に分かるんだ?」
「実際に、ゼロ様が鬼のゼン様とジン様の魂を継承されて帰って来られた際には、私から見れば、ゼロ様の後ろにお二人の大きな鬼の顔が浮かんでおりましたので、すぐにわかりました。」
「なるほど、、、
それであの時レミアに耳打ちをしてくれた訳か。」
「そうなります。」
「でも、何でわざわざレミアに耳打ちを?」
「う〜ん、、、何ででしょう?その時の気分?」
アインスが笑いながら、首を傾ける。
「そういえば、、、初めて会った時に俺の顔を見て驚いてなかったか?あれも魂が関係しているのか?」
「あぁ。あれはですね、、、
その、、、
お恥づかしい話ですが、ゼロ様のお顔を初めて見た時に、凄く優しそうなお顔をされているなと思いました。
素敵な方なんだろうなと。」
「なるほど、、、そういう事か。照れるな。」
「すみません。」
「いや、良い。ありがとう。
それよりも、もう少し踏み込んで聞いても良いか?」
「はい!結構です。」
俺が聞ききたいと思ったのは、魂の強さが分かるのであれば、街の中の誰が、より強い魂の継承を受けたのかという事が、街にしばらく居れば、徐々に見えてくるのでは無いかという事であった。
「それで、この街で言うとどうなんだ?」
「はい。実はゼロ様にはお伝えしてなかったのですが、私は以前にも領主のグラーム様とお会いした事がございます。」
「そうなのか?」
「はい。ご子息様のお誕生の際に、シガル様がお屋敷へ伺ったのですが、その時に私も着いて行かせていただきました。」
そう。この3日間の間に、新たに分かった事がある。
領主のグラーム・ロンダには1人息子がいるのだが、授かったのが遅くまだ幼い。
もし、今領主が死んだとすれば、幼い1人息子が魂を継承出来るとは考えづらい。
また、領主の奥さんは珍しいことに市民の出であり、政治には疎いそうだ。
頼れる誰かに自身の魂の継承を行い、そいつが死んだ時に、息子に魂の継承をしてもらうのが現実的か、、、
かと言って、そこまで信頼を置ける様な奴がいるのかどうか。
(シガルが狙うなら恐らくそこか?)
「それで、その時に何か見たのか?」
「はい。この街で言えば、ゼロ様はこれまで見た誰よりも強大な魂をお持ちです。
そもそも2つ以上の魂を継承している事自体が異常ですが、それに匹敵するのは、恐らくグラーム様の側近のドゥーエ様でしょう。」
「あいつか。」
領主の館に招かれた際に、俺達に銃口から覗く死を突きつけた奴。
今まで会った誰よりも強い殺気は、俺やアインスの身体を貫いた。
「はい。あの方が継承されている魂は、恐らく精霊か何かの類です。その魂はあまりにも強大ですし、私には詳しく分かりませんが、あの方の能力そのものも大変優れているのでは無いかと思われます。」
(俺自身のレベルアップも必要という事か。)
「なるほどな。他にはどうだ?」
「そうですね。私がこの街に来てから、見かけた中では、それくらいだと思います。領主のグラーム様は確かに並外れた魂を継承されている事がわかりますが、ご自身が実際に剣を取った様なお話は聞きませんし、、、」
(強大な力を引き継いでいるとして、必ずしも戦闘に秀でてる訳でも無いか。)
この3日間。
街の色んな奴と話をして、少しづつ情報を得ていたが、殺した貴族の方は驚くほど話題に昇らなかった。
正直に言うと、今の俺ではここが限界だと思い、舵取りを変えて、これ以上何かを探るよりも、いざという時に備える事とした。
先ず最初に考えたのは、やはり、俺自身のレベルアップ。
トレスへ依頼をしたフォレストロトも、まだしばらくは掛かりそうなので、何か無いかと考えていると、ふと頭をよぎったのは、【不死の森】で出会った老人。
カカカッという笑い声が聞こえた気がした。
思い出したのか。
はたまた呼ばれたのか。
貴重なお時間をありがとうございます。
ブックマークありがとうございます。




