30話 点と点
「戻れ。鬼月。」
刀が消えると同時に、次々と死体が床に転がっていく。
「ゼロ様、、、」
座り込んだアインスをそっと抱き寄せて、頭を撫でる。
「良く頑張ったな。」
「すみません。街で声をかけられて、ゼロ様が呼んでいると言われたので、思わず付いて行ってしまいました。」
「そうか。何もされなかったか?」
「はい。ゼロ様の力に守られました。」
その言葉の後、アインスの周りに浮いていた小さな刀も姿を消した。
(鬼の一族よ。今日も助かったよ。)
「さて。」
立ち上がると、地面に座り込んだもう1人の男に目線を向ける。
「ひっ!?」
「今日の昼間にトレスの工房で会った男だよな?一体何が目的だ?」
自分の言葉で、生命の長さが決まる事を感じているからか。
目の前の男は震えながら、必死に頭の中で思考を張り巡らせている様だった。
「聞こえてるのか?もう一度聞くが、目的は何だ?そもそも、お前は誰だ?シガルの関係者か?」
「わ、私は、、、」
未だ震える男の顔がスッと引き締まると、目の中の光が消えた。
「私が何者なのか。それを答える事は無い。私を殺すが良い。どうせ死ぬのだ、、、」
(それなりの男らしい。死を覚悟したか。面倒だな。)
目の中の光が消えたのは死への覚悟からなのか。
1つの終焉である死を覚悟した相手に、口を割らせるのは大変だろうという事は容易に想像出来た。
「あまり、気乗りしないんだが、、、」
そう言うと、鬼の手で身体を抑える。
「な、何を!?」
もう一方の鬼の手で、その男の右肘から下を掴むと、一気に引っ張る。
力の加減が難しく、二の腕から下が捻じ切られた。
「ぎゃーー!あー!!」
そのまま鬼の手で身体と傷口を抑えながら、鬼火で傷口の表面を焼く。
「あーーー!!あっ、あっ、、、
酷い臭いが煙とともに立ち込めていく。
男は余りの痛みに意識を失った様子だった。
男が目を覚ますまでの間に、既に転がっている死体から情報を探る。
何人かはポケットの中から、ギルドカードが出てきたのだが、どれもBランクやらCランクと、比較的高ランクの物だった。
しかも、その全てが俺の持っているカードと少し見た目が違う。
また、死体から出てきた銀貨の中に見慣れないデザインの物が混ざっていた。
(この国では無い?貴族の指名依頼か?)
他に身なりの良い奴が数名居たが、恐らく貴族だとは思われるくらいで、身分を表す様な特徴や身元が分かる様な物は無さそうだった。
また、トッドのおっさんの記憶にも、覚えのある様な奴は居ない。
「ん?何だ?」
1人の男のポケットの中に、金色の懐中時計を見つける、、、
「はぁっ!?あーー!!いダい!!いだいーーー!!」
(起きたか。)
一旦それを置いて男の方に近付くと、鬼の手で再び身体を抑えつける。
叫び続ける大きな口に、靴を突っ込んで黙らせた。
「良く聞け。誰が何のために今日の事をやったんだ?喋らないなら逆の腕も同じ事をする。」
目玉の中に大量の血液を走らせながら、男は首を横に振る。
(喋らないか。)
コトッ。
足をどけると、アインスの為に持ってきたハイポーションを床に置く。
「これが最後だ。今喋るならこのハイポーションを使ってやる。
もしかしたら千切った腕も戻るかも知れん。
喋らないなら、左腕から順番に右足、左足を捩じ切っていく。」
見開いた目から、流れる涙はどのような感情なのか。
しばらくの沈黙の後、男は口を開く。
「ひ、1つだけ喋ろう。シガル殿は今回の件を何も知らない。私が勝手に動いただけだ。」
「お前、、、発音が微妙に違うな。隣国の貴族か?」
ブラフだ。
しかし、誰が見ても分かるほどに、明らかに男の顔付きが変わった。
ここが勝負所と考えて一気に畳み掛ける。
「お前、アインスを元々買おうとしていた貴族と関係しているんだろ?」
「お前が喋らないなら、その辺りの奴を片っ端から殺していくか。」
合っているか、合っていないかは関係が無い。
少なくとも、解に近いところにこちらが辿り着こうとしている事を相手に伝える。
そして、いかにこちらの覚悟が決まっているかを、、、
「ま、待て!!待て待て!!違う!お前の予想は外れている!!」
「関係ない。もう、そう決めた。
先ずはお前が味わえ。さっきのやつを後3回。だるまになったら、耳を削いで、目を潰して、、、
「ひっ!?はーっ、はっー、」
「少なくとも、お前の家族やお前の周りの人間は全員味わうと思え。」
そう告げると、男の左腕を鬼の手で引き千切る。
「ぎゃー!!あーー!!あー!!あーーーー!!」
再び鬼火で傷口を焼いて、血を止める。
「あーー!!!、、、ひっ、ひぐっ、ひぐっ。」
今度は、意識を何とか保てている様だ。
「、、、ろしてやる。」
「ん?何だ?」
「呪い殺してやる。」
「わかった。お前を殺した時には魂さへ切り刻んでやる。
お前の意思はどこにも行かないし、誰に継がれる事も無い。肉体と共に大地へ帰れ。」
「ど、どういうコトだ?」
「さぁ、次は右足か。左足か。全ての痛みは、お前の家族や友人まで貫くと思え。」
「ま、待ってくれ、、、待ってくれ。
話す。話そう。知っている限りを話す。
だから、私の家族へ危害は加えないでくれ。」
「わかった。いいだろう。」
そう答えると、男はポツリポツリと話し出した。
この男は、隣国テルレ公国の中流貴族だそうだ。
テルレ公国はこのグランの街があるセルカ王国の東に位置する国で、西の大陸で中規模程度の大きさを持っている。
俺が住むセルカ王国より、領土の面積にしても軍事規模にしても遥かに大きい。
そして、予想通りアインスを最初に買おうとしていたのが、テルレ公国の上流貴族だった様で、今回の件で非常に憤慨しているとの事だった。
なぜたった1人の奴隷に対して、怒り狂っているのかと言えば、いずれはこのグランの街をテルレ公国の配下に治めるための第1段階として、アインスがグランの街で見てきた情報を得るというのが計画されていたからだそうだ。
つまり、強者がどれ程この街に居るのかという情報だ。
そして、その情報を得た後、アインスは直ちに殺される予定だった。
「ちょっと待て。シガルはその事を知ってたのか?」
男は少しだけ首を縦に振る。
「お、恐らく。それに向けて、、、準備もしているのでは。」
(、、、なるほどな。話を持ちかけたのもシガルだろう。)
続く話によると、その辺りが現在は膠着しており、一気に進める事が出来れば自分の株も上がると考えて、最近この街に、似たような事を考える奴も含めた複数人が出入りをしていたらしい。
しかしながら、早々簡単に進められる訳も無く、折角来たのだから、周辺国でも有名なトレスに何か魔道具の作成でも依頼をしようとしたのが今日の事。
偶然にも、俺が1人で居るところを見かけたため、これを好機と捉えると、すぐに同様の目的で来ていた貴族にも声を掛け、1人で居るであろうアインスを探し出したらしい。
冒険者は、テルレ公国で雇った者を護衛として連れて来ており、その他の者はその辺のゴロツキ。
全員でアインスを痛めつけた後、テルレ公国に運び出す予定だったようだ。
「わかった。それだけだな?」
再び男が首を縦に振ると、振り上げた鬼の手で顔を叩き潰す。
ベチャッ!
市販のケチャップの最後のように、赤色が周りに飛び散った。
アインスを立たせて、死体から奪えるだけの貨幣などをポケットに入れると、死体を一箇所に集めて鬼火で焼く。
火の高さをコントロールしながら高温で骨になるまで焼き上げると、それを鬼の手で叩き潰した。
(何の灰なのか。そもそも人だったのかどうかが、これで分からないだろう。)
アインスを抱えると、奪ったフードを全身に被り、勢いよく飛び出して屋敷へと戻る。
黒に染まった夜の闇へと姿を隠しながら。
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