27話 進展
次の日、昨日の宴が夜遅くまで続いた事もあり、朝の9時近くに慌てて飛び起きると、門の外が騒がしかった。
近づいてみると、昨日のレストランで一緒に飲んで、食べて、盛り上がった職人ギルドの奴等がそこには集まっているようだった。
「おはよう。ゼロ。早く開けてくれ。」
「おはようございます。マグガーラさん。すみません。
ところで、これは一体。」
「昨日の件で、何人かの奴等にゼロにお礼がしたいと言われたから、それならゼロの屋敷の改修を手伝え!って言ったんだ。
ちょうど欠員も出てたしな。
そしたら今日は30人も来やがった。
どいつもこいつも腕利きだ。
今日で一気に進めるから、楽しみにしてろ。」
そんな言葉に思わず嬉しくなる。
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
そう言って皆んなに頭を下げると、後はマグガーラに任せた。
昨日のレストランでわかった事だが、どいつと話しても、マグガーラへの尊敬を語り、自分自身の腕への自信と、信頼への忠誠心がひしひしと感じられた。
その結果、俺の中では職人ギルドの奴等は基本的に信頼出来ると判断した。
(さてと。準備を始めるか。)
「おはようございます。」
身支度を整えたアインスが近付いてくる。
「おはよう!」
昨日の件が脳裏をよぎったが、何とか自然に挨拶する事が出来た。
「アインス。少し忘れていた事がある。」
「え!?何でしょう?」
そう聞き返したアインスに、銀貨50枚を手渡す。
「先月の分と合わせた給料だ。後、今日と明日は休みにするから、好きに街で買い物でもしてくれ。
忙しくて気付かなかったが、本来週に1日は休みだからな。」
「あ、ありがとうございます、、、
そういえば、そんな契約でしたね。
全く気になりませんでした。
むしろ、休みと言われても、何をしていいのか困惑してますが、、、
折角なので街に出かけたいと思います。」
「ああ。何かあれば屋敷まで走れ。」
「はい!」
そう言うと、アインスは門から出て行き、少し枝分かれした銀髪を揺らしながら、街へと繰り出して行った。
休みと給料を与える事を忘れていたのは事実だ。
しかし、何故思い出したかと言うと、昨日の気まずさがあったのも事実だった。
その後、アインスを見送った俺が顔を出していたのは、ポーション屋のセーラの所だった。
以前教えてもらい、精製に成功したハイポーションを買い取らせて貰いに来ていた。
「ゼロさん。昨日はありがとうね。死ぬ前にあんなの食べられるなんて。」
そう言うと、セーラは顔に皺を作って笑った。
「いえいえ。いつもお世話になってますから。
それよりも、今日はお願いがあって参りました。」
「あらあら。何でしょう?私で応えられれば良いんですけど。」
「、、、こないだ作ったハイポーションを俺に売ってくれませんか?」
「わざわざ来られて、そんな事ですか?
あれはゼロさんが自分で作ったんですから、そのまま持って帰って下さい。
内では、販売する予定もありませんから。」
「いえ、お金は払いますので。」
「結構です。そんな気遣いは必要ありませんよ。」
そう言うと、セーラから瓶詰めされた20本のハイポーションを受け取った。
深々と頭を下げると、そのままその足で、街中のお店をゆっくりと見て回った。
(そろそろちゃんとした防具が欲しいなぁ。)
(貴族と会う時の為の服も作らないとな。)
(家具も買い直したいな。)
(便利な魔道具だ。欲しいな。)
店に入る度に、全てが色づいて見えてくる。
トッドのおっさんとの約束もあるため、いずれはシガルを潰したいと考えていた。
しかし、その為には準備が必要だ。
そして、その準備にはお金が必要だった。
(焦らなくて良いから急ごう。)
前世の時から、自分に言い聞かせ続けた言葉だ。
焦りはしない。とにかくやるべき事を急いでする。
そうして、屋敷へと戻ったのは夕暮れだった。
戻った俺に、マグガーラが近づいてくる。
「よう。遅かったじゃねーか。」
「少し街に出ておりまして。」
「そうか。とにかく朗報だ。今日から屋敷の中で寝れるぜ。
俺も今日からは、家に帰って寝るよ。」
「本当ですか!?ありがとうございます。」
「礼はいらねぇ。お前が職人ギルドにオーロラコングをもたらした結果だからよ。
後、1ヶ月もあれば全て終わるだろう。」
「ありがとうございます。それで、マグガーラさん。1つご相談なのですが、、、」
「ん?何だ?」
「実は、今度フォレストの上に生えていた木が届くんですが、屋敷の材料に使えますか?」
「、、、なるほど。噂には聞いている。お前がほんの数日でフォレストロトを3つも見つけてきた事を。
それぞれの特徴や特性は知ってるのか?」
「いえ。まだ知らされておりません。そして、使っていただきたいのは、その中の1本だけです。」
「なるほど。わかった。また届き次第言ってくれ。
それは出来るだけ組み入れようにする。」
「ありがとうございます。」
「それよりも兄ちゃん。
今日は、あの銀髪の可愛い子と一緒じゃねぇのか?」
「今日は休みを与えて、自由に過ごして貰っています。」
「そうか。休みは大切だな。
ただ、あんまり自由にさせると、他の男にとられるぜ?」
「彼女の世界が広がって、そうなるんだったら、それが一番です。」
それは、本音だった。
今まで奴隷として、目の前の仕事ばかりをこなして来たアインス。
その世界が少しづつ広がっていき、その過程で巡り合わせがあるのであれば、それに勝る者は無いと考えていた。
「ったく。大事にしたい物ほど、自分から遠ざける様な不器用さは持つんじゃねぇぞ〜。
おっさんからの忠告だ。」
「どういう意味ですか?」
「まぁ、気にすんな。それよりも迎えに行ってやんな?」
マグガーラが顎で促すと、夕焼けに染まったアインスが両手いっぱいの荷物を抱えて、屋敷へと戻って来た。
「ただ今戻りました。」
「お帰り。アインス。凄い荷物だな。」
「はい。途中で1回帰って来た時に、マグガーラさんが今日から屋敷で寝泊まり出来ると言っていたので、掃除用具と、鍋やお皿。それにグラスなんかを買わせていただきました。
後、今日は私の両親が良く作ってくれた、ガーナーのスープを作りますね。」
「、、、自分の物は買わなかったのか?」
「食器とか私も使う物は買わせていただきましたよ?」
「そういうのは必要経費だから、後で請求してくれ。お前の給料から払うべきじゃない。」
「いえ、私が買いたかったんです。だから、私が払うんです。
それよりも、早速今日の夕食を作りますね。」
「いや、アインス。」
その呼びかけには振り向かずに、アインスは屋敷の中へと入っていった。
「戻れ。鬼月。」
(意外と頑固なんだな。)
アインスの知らなかった一面に、思わず笑ってしまう。
その晩、アインスが作った鶏の様な姿のガーナーを、野菜と少しの米と一緒に、1羽丸々煮込んだスープが夕食に現れた。
今日、買ってきたばかりのお皿やグラスと伴に、広いダイニングのテーブルに並ぶ。
「いかがですか?」
「美味い!」
(ラーメンのスープみたいだ。)
昨日のオーロラコングを使った、ステーキを始めとする様々な料理。
それは、確かに美味かった。
(中でも、モツのトマト煮みたいなものは最高だった。)
しかし、今日のこの料理はどこか安心感を与えてくれるような味だった。
「良かったです。私にとって、これが家族の思い出の味なんです。」
「本当に美味いよ。ありがとう。アインス。」
久しぶりに、ホッとする物を食べたような気がした。
(これに麺が入れば最高だな。)
お互いの今日の話を楽しく喋りながら、ひと時の休息の様な夜が更けていく。
読んでいただいた方GWの貴重なお時間をありがとうございます。
引き続きよろしくお願いします。




