25話 オーロラコング
屋敷に戻ると、すぐにアインスを掘っ建て小屋のベットに寝かせた。
「ゼロさ、、ま」
「目が覚めたか?」
「わたし、、、すみません。」
「いや、良い。俺が少し考え無しに行き過ぎた。今日は休んでおいてくれ。」
「ありがとう、、ございます。ゼロ様、は?」
「俺は街で少し買い物をしてから戻るよ。必要な食糧や水はここに置いておくから、適当に食べておいてくれ。」
「、、、わかりました。お気をつけて。」
「ああ。ありがとう。」
そう言って、アインスの眼を再び閉じさせると、俺は屋敷を出て、【不死の森】へと向かった。
昨日、ギルド長から言われていたオーロラコングを狩りに行くためだ。
アインスにこの事を正直に言えば、無理矢理にでもついて来ようとするだろう。
しかし、あの強烈な殺気に晒された疲労は、恐らく相当なものだ。
俺でさへ少し疲れを感じているのだから。
森に着くと、木の上に登って飛び渡って行く。
広大な【不死の森】といえど、その大きさから、すぐに見つかるかと思ったが、そうもいかなかった。
(目撃情報の少なさから、向こうも警戒しているのか?)
そもそも【不死の森】の木の高さが、あの鬼のジンすら覆ってしまう程の場所もあるから、そう簡単に見つかるとは思っていなかったが、1時間以上森の手前側を飛び回っても何の気配も無い。
警戒して身を隠している可能性が高いと考えて下に降りると、偶然にもニーラビットが1匹居たのですぐに両脚を掴まえて捕獲する。
もう片方の手で、暴れるニーラビットの角を掴んでひっくり返した後、膝を使って首の骨を折った。
バキッ
痙攣しているニーラビットのお腹をナイフで割くと、手を中に突っ込み食道を掴んで内蔵を引きずり出す。
それを、少し離れたところの木の枝に吊るして、ナイフで少し傷つけておいた。
再びニーラビットの基へと戻り、集めた落ち葉や小枝に火をつけると、その火の中に死骸を放り込む。
少しづつ小枝を足していき、ある程度火が通り始め、肉の焼けた香りが漂い出したところで火を消す。
(さて、どっちに掛かるか。それとも掛からないか。)
その2箇所を見渡せる位置を確認すると、地面に伏した後、身体に落ち葉をかけて様子を伺う。
30分程そのまま眺めていると、ひょこっと現れたのは小さなゴブリンだった。
キョロキョロしながら、内蔵を吊るした方に歩いて近付いていく。
そして、吊るされた内蔵をサッと取ると、そのまますぐに走って帰って行った。
その後、更に30分程度待っていると、森の中から4匹のコボルトが手にナイフや斧を持ちながら現れると、周囲を確認しながら、その内の1匹がニーラビットを手に取った。
(コボルトか。会うのは初めてだな。)
騎士団の養成所時代には、何度も食べた事のあるコボルトの肉。
少し固めの肉だが臭みが無かったので、皆んなに人気があった。
ニーラビットを手に取ったコボルトは、特に何の変化も無い事を確認すると、その肉に齧りつく。
ニヤリっと美味そうな顔をした後、2口、3口。
気付いた残りの3匹が慌てて手を伸ばすと、その後は取り合い。
結局、1匹のニーラビットに、4匹のコボルトが顔を寄せ合い、むしゃぶりついていた。
(美味そうに食べるな。)
何だかアインスを見てるみたいで、一生懸命に食べているコボルト達をぼーっと眺めてしまう。
ドンッ!!
さっきまで、仲良く軽食を取っていたコボルト4匹は、まるで空から岩でも落ちてきたかのように、その下敷きとなり姿を消した。
岩はゆっくりと上に戻って行くと、その姿形を変え、潰れたコボルトを2つつまんで、獰猛な口へと運び込んだ。
オーロラコング。
猿を凶悪にしたような顔と大きな口。
何より目が向かうのは、2つを合わせると、6メートル程の身体と同じくらいの大きさに隆起したその両腕。
(聞いていたより少し小さいか?)
目の前に現れたそいつは、俺の目的を思い出させてくれた。
1時間も待った甲斐がある。
ゴリッゴリッ
2つとも骨ごと食べているせいか、異様な音が響いている。
ごくんっ
そして、コボルトの屍骸をもう2つをつまむと、再び大きく開いた口へと運び込もうとする。
「っし!!」
ゴンッ!!
自分が襲われるなんて思っても居ないその大きな顔面に、先制の一撃を鬼の手でお見舞いすると、巨体毎後ろに吹っ飛んでいった。
そのまま追いかけて、驚いた顔へ追撃を加える。
ゴンッ!!
2発目が入ったところで、ふらついたオーロラコングが自慢のその両腕を身体の前に慌てて持ってくると、顔を含む上半身がすっぽりと隠れる。
そして、そのまましゃがみ込み、全身を両腕の中に隠した。
構わずガードの上から殴りつけるが、その手応えに驚く。
(硬い!?)
殴った拳の感触から、異常な分厚さを感じた。
ガードの隙間から鋭い眼光とニヤリとした顔つき。
その顔が領主グラーム・ロンダにそっくりで、腹わたが熱くなってくる。
(ぶっ殺してやる。)
鬼月を使えば一瞬で片がつくかも知れない。
それでも、こいつは鬼の手で仕留める事にした。
ドンッドンッ!ドンッドンッ!
分厚いガードの上から、打ち込む、打ち込む。
(さて、どうしたもんか。)
何発打ち込んでも、腕のガードが崩れる気配は全くない。
立ち位置を変えても、当然それに合わせてオーロラコングも身体の正面を変える。
(こちらが疲れるのを待っている、、、か。)
実際、本当にこれだけ腕を振っていたら、とっくに息が上がっているだろうが、俺の場合は、あくまで鬼の力によって出現させた鬼の手を操っているだけのため、俺に対してその作戦の意味はあまり無かった。
しかし、いくら手を休まずに打ち込んだところで、この状況に一切変化は無い。
むしろ、最初に俺が与えたダメージが回復して来ててもおかしくなかった。
(面じゃなく線なら。)
殴りながら、思わず閃いたのは手刀。
真っ黒な右手を一直線に振り下ろすと、それは一振りの刀となり、天に向けた拳と拳の間を突き破って頭蓋骨まで届く。
「ガッ!?」
よろめいたその隙を逃す筈が無かった。
真っ赤な左手の拳で打ち込むボディが、確実にレバーを捉えると、その後は早かった。
無数の拳が全身に降り注いだ後、積み上げたブロックを崩すかのように、その巨体は簡単に倒れ込み、地面へと沈む。
(俺も、もう少し闘い方を工夫しないとな。)
生きているのを警戒して、マジックハンドで牙を一本引き抜くと、それを首元に何度か突き刺す。
木漏れ日の下に座り込むと、フーッと息を吐いた。
(仕事のストレスは仕事で返す。)
少し気分が晴れた気がした。
読んでいただいた方お時間ありがとうございます。
ブックマーク、評価ありがとうございます。




