19話 プロボノ4
次の日。
ギルドでレミアに声をかけられる。
「本日、シガル様がゼロ様に一度お会いしたいとの事で来訪されます。15時の鐘と同時にギルド長の執務室まで来ていただけますか?」
「わかりました。」
そう答えると、朝から俺の机の前に並んでいた30名ほどから依頼を受け取る。
近くの店で、獲物を捕獲する為の大きな網を銀貨4枚で2つ購入すると、今日も職場に向かうかの如く【不死の森】へと向かった。
最初に、昨日シガルからの暗殺者を殺した場所に向かうと、石の上に置いた首の前に1人の男が座っていた。
「カン。少しは未練が晴れたか?」
そう言うと、座っていた男が立ち上がり、こちらを振り返る。
「俺の事を知ってるのか?、、、それに、俺が見えるのか?」
「トッドの魂を継承したんだ。おっさんの記憶の中に【不死の森】でお前と会っている記憶があった。」
「そういう事か。」
この男はカン。シガルの元部下だ。
カンとおっさんは死後に【不死の森】で出会った。
そこで交わされた会話から、シガルが自分に牙を向ける者には、2人組の暗殺者を向けて始末する事、カンがその暗殺者に家族もろとも殺された事を俺は知っていた。
「昨日のやつは見させて貰った。感謝するぜ。」
「いや、構わない。俺の目的でもあったからな。」
「あいつ等が来たって事は、シガルに喧嘩でも売ったのか?」
「ああ。このアインスを奴から奪い取った。」
「やるな。ただシガルは嫉妬深く、執念深い男だ。くれぐれも気をつける事だな。」
「まぁ、気をつけるよ。あんたの恨みも晴れたなら良かった。」
「ああ。これで未練は無ぇよ。」
「そうか。じゃあな。」
そう言うと男は笑った。
「これも何かの縁だ!お前に俺の魂を継承してやるよ。」
アインスが心配そうに俺を見ている。
そりゃそうだ。はたから見れば何も無い空間に独り言を投げかけているのだから。
「ゼロ様。一体誰と?」
「アインス。今から3時間程俺の意識が無くなる。その間見張っておいてくれ。」
そう告げた後、俺の意識が遠のいていく。
その男カンは、旅人であり盗人であった。
様々な街や村を転々としながらのその日暮らし。
保有していたスキルが、持てる範囲の視界に映る物や生き物を、自分の右手に瞬時に持ってこれるという能力であったため、多少の金銭や食料品は簡単に手に入れる事が出来ていた。
そんな生活を繰り返していたある日。
いつもの様に屋台の食料品を盗んでいると、それを偶然街で見かけたシガルの部下に声をかけられ、そのままシガルに雇われた。
仕事の内容は競争相手の商人などから、契約書や商品を盗むといったものであったが、待遇も良く不満は特に無かった。
そして、新しい生活の中、通っていた娼館で出会った1人の女性に恋をした。
包み込む様な優しさに、初めて心が安らぐ感覚。それは一目惚れだった。
必死に口説くこと1年。
熱意に負けた彼女は娼館を辞めて、カンと家族になる事を選ぶ。
1人の子供をもうけて、幸せな日々が続く中、十分な蓄えが出来た事もあり、今の仕事から足を洗おうと決意した。
シガルに家族の為に辞めたい事を伝えると大いに喜んでくれた。
最後に一つだけ仕事を頼まれて欲しいと言われて。
そうして頼まれた仕事はいつもと変わり映えは無かった。
言われた通りの品物を、商人の馬車からただただ盗み出すのみ。
品物を手に掴んだ瞬間、胸に熱を感じる。
自分の胸から剣先が突き出していた。
後ろに倒れ込むと、2人の男が近づいてくる。
「抜けれると思ったのかぁ?これで終わりだぁ。このゴミがぁ。お前の家族も全員嬲り殺してやったよ。」
「お前の女は俺に犯されながら殺されて、泣きながら喜んでたぞ。」
薄れていく意識の中で、声だけが聞こえる。
「おい!あんた!あの盗人があんたの商品を盗んでたぞ。」
「ああ。ちゃんと殺しておいた。俺たちはシガルに雇われている者だ。」
「なーに。良いって事さ。内の主人が困ってる時にはまた手助けしてやってくれ。」
カンの感情が流れ込んでくる。
騙された悲しみと、2人に対する強烈な憎悪が。
そして【不死の森】を彷徨うこと数年。
再び現れた憎しみの対象は、石の上に首を1つ残して、瞬く間に灰となって散っていった。
その光景と、残された首を眺めていると、少しずつ心が晴れていくのを感じた。
目を覚ますと、目の前には覗き込むアインスの顔が。
「おはようございます。」
「ああ。済まない。何時間くらい経った?」
「2時間程度だと思います。まさかとは思いますが、この短時間で魂の継承を?」
「ああ。終わった。」
「、、、凄まじいですね。それも以前におっしゃっていた前世の記憶の影響ですか?」
「多分、そうなんだろうな。」
ゼンやジンの時には、その力の大きさからか、負担も大きかったが、今回やおっさんの時には、それこそ2時間のドキュメンタリーを見ている様な感覚だった。
「アインス。身体も軽いし、今日で依頼をほとんど終わらせようと思ってる。」
「承知しました。但し、かなりの数の魔物が必要ですよ?」
「そうだよなぁ。大きいのが1匹手に入ればいいんだがな。」
(食べ物関係の依頼だけで200人くらいか?)
そんな事を考えながら、森の奥の方へと進んで行くと、思わず目を疑う様な光景に出くわす。
(木の根っこが動いてる?)
森の先の方で、木の根の辺りが動いているかの様に見えるのだ。
「何だあれは?」
「アームクラブです!今の時期は産卵期なので集団で行動しているんです。ゼロ様!ついてます。」
すぐに網を広げると、鬼の手でアームクラブを次々に入れていく。
アームクラブは、上海蟹の様な見た目でサイズは成人男性の両手程。
色は茶色で遠目だと木の根と見分けがつかない。
特徴としては、右の爪が胴体の半分近くの大きさを持ち、それが非常に強力となっている。
一応魔物の一種だそうだ。
(ケチらずに金属製の網を買っておいて良かった。)
最初の不意打ち以降は、一斉に逃げ始めたが、カンの能力のおかげでどんどん捕まえられた。
持てる範囲というのが鬼の手にも適用されたため、大量のアームクラブが瞬時に右手に入っていく。
ものの30分程で、持って来た網2つがパンパンになった。
(これは凄く便利だな。)
カンのスキルをマジックハンドと呼ぼうと決める。
「凄く獲れましたね。」
「そうだな。大漁だ。早いけど昼飯にするか。」
そう言って、入りきらなかったアームクラブを4匹石の上に置き、水で良く泥を落とす。
洗っている間に、アインスに木を集めておいてもらい、鍋の中に酒と水を入れて火にかける。
沸騰した鍋に、アームクラブをそのまま突っ込むと、茶色い身体は瞬く間に綺麗な赤色へと姿を変えた。
5分程待って取り出すと、既に良い香りが辺りに漂っていた。
石に敷いた葉っぱの上で冷まして、その特徴でもある大きな右の爪を外す。
殻を割ると、そこには美しい紅白の身が姿を現した。
湯気ごと口に含むと、まさしく蟹の旨味と甘味が口に広がる。
実際には蟹よりもより筋肉質で、食べこたえがあった。
甲羅を外して、中に入っている味噌と魔石ごと鍋に入れて、しばらく煮込む。
塩で味を整えると、至福の一時が訪れる。
魔石を口にしたからか、力が漲るのを感じた。
「まだまだ食べれるな。」
空になった鍋を見ると思わず口から飛び出した。
アインスが力強く頷いている。
「まぁ、でもみんなに配って余ったらだな。」
落ち込んだ顔のアインスを励ますと、帰りにカンの宿り木に寄ってから、ギルドへと戻る事にした。
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