16話 プロボノ3
起きるとアインスが部屋のソファに座っていた。
「すみません。何度もノックしたのですが、部屋が空いてましたので、ここで待たせていただいておりました。」
「ああ。すまん。ちょっと疲れててね。」
「こちらこそ、すみません。」
そう言ったアインスの表情はやけに曇って見えた。
すぐに着替えて準備をした後、ギルドに着くと、そこに出来ていたのは長蛇の列。
「ゼロ様!遅いです!皆さんお待ちになられてます!!」
レミアが到着した俺たちを叱りつける。
「どう言う事ですか?」
「ゼロ様の噂を聞きつけて、皆さん来られたのですよ!!」
どうやら、俺がハニーベアを無償で宿屋に渡したことが噂で広まり、少しでも恩恵にあやかろうと、街の様々な人がこのプロボノ活動に集まって来たらしい。
「はぁ。一人づつ伺いますよ。」
列の先頭から聞いていくと、そのほとんどの依頼内容が、ハニーベアを食べてみたいだの、植物を採取して来て欲しいだの、少しでも栄養のあるものをなど、【不死の森】に絡む内容ばかりであった。
結局、並んでいた行列の話を全て聞くだけで、2時間程度かかってしまった。
「多過ぎて全然覚えられない。まぁ適当に取ってくるか。」
「ゼロ様。大丈夫です。私が記憶しておりますので。」
(本当に優秀だな。)
俺のアインスへの信頼が更に増したところで、早速レミアに【不死の森】へと向かう事を伝えると、返って来たのは意外な答えだった。
「今日【不死の森】へ向かう事は許可出来ません。」
「ん?なぜですか?」
「アインスさんから聞いてませんか?」
アインスの方を振り返ると、彼女は下を向いていた。
「どういう事ですか?」
「アインスさん。ゼロ様に話しても良いですか?」
アインスが俯いたまま首を縦に振る。
「アインスさんは、明日グランの街に来られる隣国の貴族と契約をされる予定ですので、ギルドのお手伝いをしていただくのも本日までとなり、明日からは別の方がゼロ様の監視を行います。ですので、本日【不死の森】へ行く事は許可出来ません。」
「2週間後じゃなかったのですか?」
「今日の朝に急遽早まったそうです。」
「そうですか。」
思わず俺も下を向く。
そしてレミアは話を続けた。
これまでギルドは、奴隷商のシガルからアインスを始めとする様々な奴隷を借りて来た。
中でも、アインスは大変優秀だったので、ほとんど毎日ギルドが借りていたそうだ。
(何だか、単発の派遣みたいだな。)
アインスがこの街に来て早くも3年近となり、恐らくシガルが奴隷のアインスを買った金額を、ギルドへの貸し出し料が優に超えたのだろう。
隣国の貴族にアインスが売られる話が浮上した。
最後の仕事として、突如現れた俺の監視役を頼んだのだが、予想外に楽しそうにしているアインスを見て、正解だったと思えたそうだ。
残り2週間。
最後まで楽しんで、この街を去って行って貰えればと思っていたが、今回のことは残念に思うとの事であった。
「わかりました。アインスもそれで大丈夫だな?」
「はい。問題ございません。」
アインスがそう答えると、先程の行列の中から、街の中で手伝えるものを、1つづつこなしていく事にする。
主婦達の買い物の荷物運び、洗濯の手伝い、大工達の資材運び、商人達の荷物の積み下ろし等、朝から10件近くの現場を回って、すっかりクタクタになったところで、街の中の依頼はひとしきり終えたため、アインスを一度戻す事にした。
「急だったな。こっちの動きがバレたのか?」
「恐らくそうなのでしょう。この街最大の奴隷商であるシガル様を相手にしては、やはり勝ち目がございませんね。
ひと時でも楽しい思い出と期待を持つことが出来て私は幸せです。」
「そうか。残念だが明日となると。」
「はい。承知しております。」
そう言った彼女の目の端には、涙が今にも溢れそうだった。
「ゼロ様との思い出は、短かったですがきっと一生の思い出になると思います。」
「そうか、、、今日はもう特にやる事も無いし、疑われるのも良くないから一旦戻っておけよ。」
「はい。」
「夕食は一緒に食べよう!それくらいは許してくれるんだろう?」
「はい。」
そう返事をして、アインスはとぼとぼと帰って行く。
✳︎
そして、俺がギルドに戻ってレミアにプロボノの報告を行い、銀貨2枚を受け取った頃には、すっかり辺りは薄暗くなっていた。
「今日もお疲れ様でした。凄い汗ですね。」
「一日中走り回ってたので。」
ギルドを出たところで既に俺を待っていたアインスと合流して、歩きながら話す。
「お待ちしておりました。」
「最後は何が食べたい?」
「そうですね〜。ハニーベアはもう一度食べたいですね。」
「あれは、宿屋の女将が派手に宣伝したからとっくに売り切れてるだろう。」
「ははっ、そうですよね。」
無理に明るく振る舞うアインスの表情がどこか悲しげであった。
結局、近くのレストランに入り5品程度といつも通りのお酒を頼む。
何杯かお酒を流し込んだ後、アインスに1枚の紙を手渡した。
「何ですか?これは?」
「この条件でアインスを雇おうと思ってたんだ。せっかく作ったから見てくれないか?」
「喜んで。」
〜雇用契約書
雇用者:ゼロ
被雇用者:アインス
期間:特に定めない
休日:週に1日
賃金:年間金貨3枚
賞与:12月にその年の実績を考慮して支払う。
その他:食事及び衣類、住居は雇用者ゼロが提供する。
雇用及び被雇用者は、それぞれ対等の権利を有するとする。
〜
「ふふっ。面白いですね。」
アインスが笑いながら俺の作った契約書を眺めている。
「どうだ?」
「凄く良い条件ですね。こんなの誰でも飛び付きますよ。
これだったら私はこの首輪からも解放されてたんですね、、、」
「まぁ、相手がアインスだからな。じゃあ、そこに名前を書いてくれ。」
そう言ってインクと羽ペンを渡すと、アインスは少し不思議な顔をしつつも、自分の名前を書き始めた。
「ありがとう。じゃあもう未練は無いな?」
「???」
「我と汝の契約は、汝の了承により今より効力を持て。」
そう言った瞬間、俺の右手とアインスの左手、そして契約書に同じ紋章が浮かび上がった。
「契約のスキルですか!?」
驚いたアインスが俺に尋ねるが、黙ったまま首輪を取るジェスチャーをする。
「約束は果たしたよ。アインス。今日から俺がお前の雇い主だ。」
床に落ちた大粒の涙と奴隷の首輪が、急いでレストランを出て行く男達を映し出していた。
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