15話 道程
街に戻ると、相変わらず街中の視線が俺に集まってくるのを感じる。
気にせずギルドに行き、受付へと向かうと、レミアが目を見開く。
「何ですか!?これは!?」
「【不死の森】で見つけたから持って帰って来ました。
フォレストロトだと思います。
後、街には入れてないんですが、その上に生えていた大木も持って帰って来てます。」
「しょ、少々お待ち下さい。」
そう言ってレミアが奥に引っ込むと、再び現れた時には10人程の男達を引き連れていた。
「こちらが本物のフォレストロトかどうかをギルドで調べさせていただきます。
また、街の外に置いてらっしゃる大木についても、色々と調べさせていただきますので、2週間程度お時間をいただきます。
よろしいでしょうか?」
「ええ。
結構です。
それではよろしくお願い致します。」
既にレミアは落ち着いていた。
5メートル近くあるフォレストロトを10人程の男達が掛け声を挙げながら、ギルドの奥へと力いっぱい運び込む。
「今日はこれで終了で良いですか?」
「もちろんです。
もともと本日は休日と考えておりましたので、これで結構です。」
「それでは。」
ギルドでの話し合いが全てが終わった時には、15時の鐘が鳴り終え夕方が近くなり始めていた。
外に出て伸びをすると、今日は朝から一食も食べていなかった事に気がつく。
「アインス!
今からご飯に行くけど一緒に来るか?」
「勿論です!」
今日はフォレストロトを見つけたお祝いと、その助言をくれたアインスへの御礼を兼ねて、街の高級なレストランへ向かう。
(あくまで、市民が使うレストランの中でだけどな。)
レストランの中は、綺麗な服装をしている人が多く、冒険者と思しき奴等も何とか服装を整えて座っていたため、俺とアインスの格好はやけに目立った。
(食事用の新しい服くらい買えば良かったか。)
少し反省をしたが、折角なので深い事はあまり気にせず、コース料理と共にワインとビールを頼む。
「アインス、、、今日もありがとう。」
「とんでもございません。」
運ばれたビールとワインのグラスが、緊張しつつも楽しげな音を鳴らすと、その日の食事が始まった。
一品目は、ポンドシュリンプに南国果実のソースを添えたもの。
ポンドシュリンプは、【不死の森】の中にある池の中で稀に発見されており、ロブスターの様なプリプリの身には、独特な旨味があるのだが、果実のソースの甘さがそこに濃厚さをプラスしていた。
二品目は、様々な食材の切れ端を煮込んでとったブイヨンで玉ねぎを煮込み、一皿に半個程を入れたオニオンスープ。
シンプルな味わいの中にある重厚さに思わず驚く。
料理の質の高さに会話も弾み、次々と追加のお酒を注文する。
ちなみにこの時初めてアインスが3つ上の21歳だということを知った。
3品目のジャックスナッパーをトマトソースで煮込んだ料理が出てきた辺りで、俺からアインスに切り出す。
「アインス。
お前が奴隷になったきっかけを聞いても?」
「、、、わかりました。
あまり話したくはありませんが、ゼロ様であればお話いたします。」
そう言うと、重い扉をゆっくりと開くかのように、彼女は自分のこれまでを語り始めた。
✳︎
小さい頃から両親と共に人里離れた場所に住んでいた彼女は、13歳のある日、父親の身体から父親とは良く似ているが微妙に違う別の存在を見た。
正確には、見たというより、感じたといった方が適切であったそうだが。
すぐに両親に伝えると、両親は決してそれを人前で話さないようにとアインスに告げる。
両親のいつもとは全く違う形相から、幼い自分ではありながらも、この事は決して喋らないと心に決めたのだが。
それから数ヶ月が経ったある日。
いつものように近くの村の子供達と遊んでいる時の事であった。
子供達を迎えに来たおじさんから、父親の時と同じように別の存在を感じたため、ついついそれを口走ってしまったそうだ。
その時のおじさんの驚いた顔。
それは、今も鮮明に思い出す事が出来るほどらしい。
幼いながらまずいと思い、慌てて家に帰ろうとしたが、その帰宅途中に突如意識を失った。
(恐らく誘拐されたんだろうな。)
気付いた時には知らない部屋。
目の前には、仮面を被った男が1人とその横に先ほどの子供を迎えに来たおじさんが立っており、仮面の男の方が喋りかけてきた。
「今からお前の両親を殺すのと、そこに名前を書くなら、お前はどちらを選ぶ?」
氷の様な冷たさを帯びたその言葉に、アインスは泣きながら紙に自分の名前を書いたそうだ。
今考えれば、幼いアインスに対する簡単な脅しなのだが。
名前を書いた後、首輪を付けられた。
男が何かを呟くとカチッと音が鳴り、その首輪はどれだけ力を込めても取れなくなっていたという。
それ以降、様々な街や場所で、自身が感じた事を報告する仕事の依頼をこなし続けた。
時には今回の俺のように、特定の対象に対して行われる事もあり、対象から心無い言葉や暴力を受ける事も良くあったと言う。
幸い、この世界では共通して、奴隷を無闇に傷つけてはいけないという考え方があることと、幼い頃から父親が魔法の基礎、弓や狩の仕方を教えてくれていたこと。
前の前の主人が、奴隷に剣術を教える方針で、剣術を学んだ事が役に立ち、大事に至る事は無かったそうだ。
何度か主人が変わり、その都度国境を跨いでは、言われた仕事をこなしていく。
そうして買われたのがグランの街の奴隷商シガルであった。
ここまで食べながら話した時には、四品目の肉料理や五品目のパスタを既に終えていた。
「悔しいか?」
「いえ。全ては自分の愚かさからですから。」
「これからもこの街で、働き続けるのか?」
「今度、隣国の貴族に売られることになりました。
これがこの街最期の仕事になります。
貴族の奴隷なので、食事は楽しみですね。、、、あっ、でも今よりいい食事は流石に出来ないでしょうけど。」
アインスは笑って答えたが、その表情は冷ややかだ。
「それは、いつだ?」
「2週間後です。」
「そうか、、、
俺と一緒に来るか?」
「え!?」
立ち上がりながら発せられた余りの大きな声に、レストラン中が振り返る。
「すみません。」
アインスが四方八方に頭を下げながら、椅子を直して座ると、再び俺が告げた。
「お前さへ良ければ、俺がお前を雇ってやるよ。
そして、旅をしながらお前の両親を探そう。」
「いや、、、でも。」
「嫌なら良い。
ちなみにこれは同情ではない。
数日だが、お前の有能さや人柄が充分に伝わった結果だ。
俺は騎士団の養成所に居たから知らない事も多くて、お前が居ると助かる。
どうする?
二度は誘わない。」
俯いたアインスと俺の間のテーブルを沈黙が流れて行く。
「、、、れて行ってください。」
「ん?」
「私を、ゼロ様と共に連れて行ってください。」
顔を上げたその顔から、大粒の涙を流しながら彼女は告げた。
「わかった。
明日から具体的な方法を考えよう。
とりあえず今日は飲もうか。」
「あ゛い。」
そうしてその日の夜は更けて行った。
俺たちの事を見張る視線に気がつかないまま。
ブックマークありがとうございます。読んでいただいた方ありがとうございます。
引き続きよろしくお願いします。




