12話 プロボノ2
トントンッ、トントントンッ。
何度も何度も繰り返して鳴らされる扉の音が、二日酔いの俺を起こす。
(もうアインスが来たのか?昨日は騒ぎ過ぎたな。)
昨日の反省をしつつ再び布団に入るが、扉を叩く音は全く止む気配がない。
(出て来るまで辞めないつもりか。)
ふらふらとしながら扉を開けると、そこには銀髪のアインスが昨日と同じ様に立っていた。
「おはようございます。ゼロ様。昨日はありがとうございました。今日も早速ギルドに参りましょう。」
「ああ。少し待ってくれ。二日酔いで。」
扉を一度閉めると急いで準備をし、ふらふらしながらアインスと共にギルドに顔を出すと、レミアが俺を待っていた。
「おはようございます。本日もよろしくお願いしますね。」
「今日は昨日の依頼があるから、【不死の森】へと向かいます。アインスも付いて来るのですか?」
「勿論です。アインスさんは剣の腕もたつので【不死の森】へも同行させていただきます。但し、くれぐれも怪我をさせ無いようにお気を付けください。」
「はい。それは承知してます。」
「それではお気を付けて。日が沈む前には必ずギルドへ戻るようにしてください。」
そうしてギルドを後にした俺達は、昨日、老婆から頼まれた薬草採取の為に【不死の森】へと向かうことにした。
(二日酔いだから水だけは買っていこう。)
✳︎
【不死の森】へと着くと、入り口付近は相変わらず冒険者達で溢れていた。
俺を見かけると、その一人一人が多種多様な反応をする。
(色々な噂が流れているらしい。)
聴こえて来る話し声に聞き耳をたてると、鬼の一族の末裔だの、大量の金貨でギルド長を買収しただの、実は魔物だのと言いたい放題。
気にしても仕方が無いので、森の奥の方へとさっさと進む。
(まぁ、そんなもんだよな。)
随分人の気配が無くなったところで、薬草の採取を行おうとするが、似ている形の草が多く、どれが薬草なのか分からなかった。
困り顔で眺めていると、アインスがポーションに使う薬草の見分け方を丁寧に説明してくれたので、お礼を述べると共にその知識に驚きを覚える。
ちなみに、途中で二日酔いに効く植物も教えてもらい、水で流し込むと確かに楽になった。
途中からアインスが手伝ってくれた事もあり、昼前にはある程度の薬草が集まったところで、少し早いが昼食にしようと思い、獲物が居ないか辺りを探す。
すると、木の枝に魔物のニーラビットが1匹休んでいたので、鬼の手の指先で頭を掴むと同時に頭蓋骨を割って殺した。
そのまま、石の上に置いた死骸の腹をナイフで割くと、内臓をすぐに取り出しで皮を剥ぐ。
脚と胴体を切り離していき、塩を振ってそのまま火にかけると、その間に、宿の女将さんが持たせてくれたサンドウィッチを口に頬張る。
(強い魔物を仕留めたら、宿にも肉を分ける条件付きだけどな。)
アインスにもサンドウィッチを渡したが、遠慮したので、口の中に無理矢理放り込んでやると、すぐに満面の笑みが広がった。
しばらくすると、ニーラビットが焼き上がったので、アインスにも手渡す。
ニーラビットは、外見がウサギに似ており、それほど強くは無いのだが、頭に生えている一本の角と、強靭な脚力の後ろ脚と共に一直線に襲って来るので、反応が遅れると冒険者達にとって致命傷になりかねない。
パンパンに膨らんだ後ろ脚の肉を頬張ると、力強い弾力と旨味が口いっぱいに広がった。
食べながら、頭を小さな鍋に入れて水で煮込み、塩と近くに生えていた香草で味付けをした後、肝臓や魔石を取り出した心臓を煮込むと、それだけで十分なご馳走が揃う。
アインスも顔を赤らめながら一生懸命。
ゼンとの修行の間は、魔物との交戦は避けていたので、〆たての魔物がこんなにも美味いとは驚きであった。
また、魔物は強ければ強いほど魔石の質が増し、同時に肉の旨味も増すと言われている。
(女将さんが強い魔物を獲って来いと言ったのも納得だな。)
食事を終え、火を消した後、ギルドに戻ろうとした俺にアインスが告げる。
「ゼロ様。少しお伺いしたいのですが、鬼退治の鬼の他に、もう1人鬼の魂を継しょ」
そうアインスが言おうとした瞬間、2人同時に森の奥の方を振り返る。
「微かに聞こえた。悲鳴か?」
「間違いなく人の悲鳴です。」
返答を皮切りに、急いでその方向に走り出す。
アインスも必死に付いて来るが遅い。
「アインス!俺の背中に乗れ!!」
アインスの手を勢いよく引っ張り、俺の背中に乗せた。
そのまま、速度を一気に早めて、声の聞こえた方に走る。
近くまで着くと、5メートル程の全身黄金色の熊?の様な魔物に襲われた冒険者達が数名倒れ込んでいるのが見えた。
「アインス!降りて離れろ!」
「はい!ゼロ様気を付けてください!ハニーベアです!」
到着するや否や、真っ黒な鬼の右手を背後から出し、硬く握った拳で、そのままハニーベアを正面から殴り付ける。
その一撃を両手で防いだハニーベアは、よろめきながらも体制を整えると、両手を地面に着けて構え、俺の方に突進してくる。
(早い!?でも、甘いな。)
強烈なスピードで駆けてくるハニーベアを下から鬼の手の拳で突き上げると、身体が宙に浮き上がる。
「ガッ!?」
(間抜けな声を出しやがって。)
身体が宙に浮いたハニーベア。
鬼の手を握りしめた拳で、上から頭を力強くぶん殴る。
頭蓋骨の割れる感触が鬼の手を通して伝わって来た。
地面を何度かバウンドした後、ハニーベアはピクリとも動かなくなった。
「助かったぁ。」
「ハ、ハニーベアを一瞬で、、、」
後ろから助けた冒険者達の声がする。
「あ、ありがとうございました。助けていただいて。本当に死ぬかと思いました。」
「感謝するならギルドにしてくれ。それよりもこのハニーベアは貰っていいのか?」
「はい。勿論です。ただ、負傷者が多いので、街まで一緒に戻っていただけると助かるのですが。」
「わかった。お前達は全部で4人だな?全員俺が鬼の手で運んでやる。」
そう告げると、冒険者達はホッとしたのか。
全員が地面に倒れ込んだ。
それと同時に、茂みの方からアインスが現れる。
「ゼロ様。この方達は私が看ておきますので。」
「ああ。助かるよ。」
負傷した冒険者達はアインスに任せて、剣でハニーベアの首を切り、逆さまにして血抜きをしておく。
アインスが冒険者の荷物からポーションを一本見つけた様で、それを全員の傷口に少しづつ塗っていた。
幸い駆けつけたのが早く、重傷の者は居なかった様なので、5分程度血抜きをすると、鬼の手の上にハニーベアの死骸と冒険者4人を乗せて、急いでギルドへと戻った。
恥ずかしがるアインスを背中に背負いながら。
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