11話 プロボノ
トントンッ、トントントンッ。
何度も何度も繰り返して鳴らされる扉の音が、俺を起こす。
(誰だ?
もう少し眠りたいし無視するか。)
再び布団に入るが、扉を叩く音は全く止む気配がない。
(出て来るまで辞めないつもりか。)
少し不機嫌になりつつも、扉を開ける。
そこには、ギルドで見かけたあの銀髪のアインスが立っていた。
「おはようございます。ゼロ様。
ギルド長よりお迎えにあがるようにとの命令を受けて参りました。」
「あっ、、、ああ。
少し待ってくれ。」
予想外の来客に俺は驚いた。
相変わらずの美しさと無表情さが目に留まる。
扉を一度閉めて急いで準備をし、アインスと共にギルドに顔を出すと、レミアが俺を待っていた。
「お待ちしておりました。ゼロ様。
どうぞこちらへ。」
そう言われて案内されたのは、受付の横に簡易に設置されたテーブルとソファー。
「これは何ですか?」
「ここで、グランの住民の皆さんからの依頼を無料で受けていただきます。
もちろん、ゼロ様にはギルドより1日銀貨2枚が支給されますし、宿代もギルドが負担いたします。」
(なるほど。プロボノか。
流石はギルドだ。)
俺は前世のプロボノ活動を思い出していた。
いわゆる専門家が無料で悩みを聞くというものだ。
ギルドに所属する冒険者達は様々な恩恵をその街にもたらすが、荒くれ者が多いので、必ずしも街の者全員が恩恵を受ける訳では無い。
むしろ逆の場合もある。
もし、住民からギルドに対する不満の声が挙がれば、ギルドの活動に影響が出かねない。
だから、こういった活動で住民の支持を集めているのだろう。
「依頼に対して真摯に取り組んでいるかは、アインスさんに見張っていただきますので、くれぐれもお気をつけ下さい。」
「わかりました。」
「何か質問はございますか?」
「これは、いつまでやるんですか?」
「それは、わかりません。
ギルド長が良いと言うまで続きます。」
「なるほど。」
「他に何かございましたら、また言って下さい。
それではよろしくお願いしますね。」
そう言うと、レミアは忙しそうに受付に戻って行った。
俺もソファーに座り住民の依頼を待とうとしたが、アインスが横に立っている事に気がつく。
「アインスだったか?
あんたは座らないのか?」
「私は奴隷ですので。」
「別にいいだろ。
立ったままじゃしんどいから座りなよ。
誰かに何か言われれば、俺から説明するよ。」
そう言って、アインスへソファーに座る様に促し、俺の隣へ座らせる。
それから1時間程度。
ぼーっと座って依頼人を待っていると、泊まっている宿の女将さんが、買い物の荷物持ちを手伝って欲しいと言われ、その手伝いをした。
それが終わると、ちょうど昼時になったので、昼食に行く許可を貰って街に繰り出す。
何だかんだで、街を出歩くのは初めてだったので、ワクワクしていた。
(宿代もしばらく浮くらしいし、色んな食べ物を食べてみたいな。)
街を歩いていると、良い匂いが漂うレストランがあったので2人でそこに入る。
そこでも、アインスは立ったまま過ごそうとしていた。
「アインスも座ってくれ。」
前世の記憶が戻らずに、貴族や騎士団の頃のままであれば、違和感は無かったかも知れない。
しかし、今の俺にとっては、同行者を立たせたまま食事をするという事には、とてつもない違和感があった。
遠慮がちにアインスが座ると、店員に銅貨11枚のランチセットを1つ頼む。
「アインスは何にする?」
その尋ねに、アインスは驚いた顔をして答える。
「私には支給されているパンが1つございますので。」
「いや、それじゃあ足りないだろ。
すみません。
ランチセットやっぱり2つで。」
「そ、そんな。」
「ご飯は一緒に食べた方が美味しいからな。
ランチセットで良いよな?」
「、、、はい。」
それは、今まで無表情だったアインスの表情が初めて崩れた瞬間だった。
一度崩れると止まらないのか。
運ばれてきたランチのスープを口にしたアインスの顔がとても綺麗な笑顔に変わったので、俺は一層嬉しくなった。
(飯代の価値は十分あるな。)
そんな事を考えながら。
✳︎
昼食から戻り、ソファーでくつろいでいると、1人の老婆が現れた。
「すみません。
お願いがあるのですが。」
「はい。
承りますよ。」
そう答えると、老婆は、ポーションの原料となる薬草を、【不死の森】で採ってくるという依頼を俺に告げた。
(こんな婆さんが、ポーションの原料を?)
少し疑問を感じたので尋ねると、どうやらその老婆は街でポーション屋を営んでおり、何らかの事情により、今回薬草の採取を依頼したようだった。
【不死の森】へは明日の朝から行くこととし、その日は、その後に依頼があった街の商人達の荷物の積み込みを手伝うことにした。
商人達の前で積み込みの為に、鬼の手を出現させると、最初は恐れて逃げ出す者も居たが、終わった頃には大いに感謝された。
「ありがとうございました。
明後日の昼に出発出来ればと思っていたのですが、明日の朝には出発出来そうです。
本当にありがとうございます。」
「感謝はギルドにして下さい。
それでは、また機会がございましたら。」
荷物の積み込みは、俺にとっても、まだ慣れない鬼の手の練習には持ってこいだった。
理論的には、ゼンとジンの力を合わせれば、同時に4本の手を出せるはずなのだが、今はまだ真っ黒な右手を一本しか出せなかった。
(相場に王道なし。
何事も地道な努力が必要だな。)
その依頼が終わると既に夕方だったので、ギルドに戻って完了の報告をすると、銀貨2枚を受け取る。
「明日もよろしくお願い致します。」
レミアがそう告げてその日は終了した。
早速宿屋に戻った俺は、身体を濡れた布で拭いて着替えると、ウキウキしながら部屋を飛び出す。
そう。
既に誕生日を迎えて、俺は18歳の成人となっていた。
成人という事は堂々とお酒が飲めるということだ。
久しぶりのお酒を楽しみにしながら宿を出ると、ギルドから歩いて行くアインスを見かけた。
「アインス!!今日はありがとう!
今からどこに行くんだ?」
そう尋ねるとアインスは、今から自分の家でもある奴隷の館に戻るという。
夕飯があるのか尋ねたが、返ってきた答えは、パンとスープのみとの事だった。
俺は、その辺の露店でオークの串肉をまとめて購入し、アインスに持たせる。
「パンとスープだけじゃ栄養が足りないだろ。
明日もまたよろしくな。」
渡した時の、アインスの嬉しそうな顔。
はい。
と告げて、何度も頭を下げた後小走りで帰っていった。
最初に会った時に見た作り笑いが頭をよぎる。
何だか良いことをした気持ちになった俺は、グランの夜の街へと繰り出した。
(今日は18年振りの酒だ!)
お読みいただきありがとうございます!
今で少しチートの力を手に入れたところでしょうか。
引き続きよろしくお願いします。




