103話 従業員
「本当にこれでいいのか?」
「ああ。
ここから始めるさ。」
〜雇用契約書
雇用者:ゼロ
被雇用者:ドゥーエ
期間:特に定めない
休日:週に1日
賃金:年間金貨3枚
賞与:12月にその年の実績を考慮して支払う。
その他:食事及び衣類、住居は雇用者ゼロが提供する。
雇用及び被雇用者は、それぞれ対等の権利を有するとする。
〜
ドゥーエに提示した条件は、アインスやフィーアと全く同じもの。
これまで領主の側近を務めていたことを思えば、破格の安値で雇うこととなるのだが、本人の希望でもあったためその通りにさせてもらった。
「わかった。」
契約のスキルを発動させると、馴染みの感覚が腕に走る。
「さて、続いては、、、」
目線を向けたのは4人の奴隷。
皆がビクッと表情を強張らせる。
「怖がらなくて良い。
ゼロはそんなに悪い奴じゃない。」
ドゥーエの言葉にホッとした表情を見せたことから、奴隷達との関係が既にある程度築かれていることが伺える。
( 数ヶ月一緒に居たんだもんな。)
「改めて自己紹介をしよう。
俺の名前はゼロ。
ちょっとした流れでシガルの商会の権利を持つことになってな。
実質的に今はお前たちの持ち主というわけだ。」
ーー深く頷く奴隷達。
「だが、俺は奴隷を保有するつもりは無い。
だからまずは、奴隷契約を解除させてもらう。」
その言葉と同時に、シガルの商会から持ち出した奴隷達の契約書に契約のスキルを使う。
先ほどドゥーエの雇用契約書に神殿の公印をもらう際、契約の終了日を追記した奴隷達の契約書にも公印を貰っていた。
「よし。
これでお前達は自由の身だ。
行きたいところがある奴は何処かに行ってくれて結構。
だがもし、行くところが無いというなら、俺が面倒を見よう。」
ーー奴隷達の顔に動揺が走る。
が、それに構う事なくドゥーエが4人に紙を手渡した。
〜雇用契約書
雇用者:ゼロ
被雇用者:
期間:特に定めない
休日:週に1日
賃金:年間銀貨36枚
賞与:12月にその年の実績を考慮して支払う。
その他:食事及び衣類、住居は雇用者ゼロが提供する。
雇用及び被雇用者は、それぞれ対等の権利を有するとする。
なお、被雇用者が雇用期間中に得た知識や経験を活用して独立開業をする場合には、金貨10枚を雇用者ゼロへ支払い、雇用契約を解除すること。
〜
「今、手渡した内容を見てくれ。
基本的には、これまでの生活とは変わらないだろうが、俺のもとで働いてくれるというのなら、奴隷契約では無く雇用契約に変えさせて貰う。
更に、月に銀貨3枚は手渡すのと、良いアイディアや何か特別な貢献があった場合には別途賞与を渡す。」
ーー矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
「異論が無ければ、被雇用者の欄に自分の名前を書いて、下の方にサインをしてくれ。
特に働くことを希望しない場合には、何も書かずにドゥーエに紙を返してくれ。
そして、そのままこの場を去ってくれて良い。」
「ちょ、ちょっと待って下さい。」
痩せた男が詰まりながら声を出す。
「どうした?」
「一体これで貴方にどのようなメリットが?」
「メリット、、、
メリットがあるかどうかは今は分からないが、信頼出来る人手ならば欲しい。
ドゥーエ。
こいつらは悪い奴等じゃないんだろ?」
「まぁ、程々さ。」
「だ、そうだ。
お前達がメリットを感じれば、サインをすれば良いし、デメリットだと感じるならしなければ良い。」
冷たいようだが、それが本音であった。
そもそも、シガルの商会の権利を集めていたのは、シガルに一矢報いるためだ。
その目標はシガルの死によって達成された。
(まぁ、財産については不明な点も多いがな。)
「承知しました。」
少女の母親がサインをすると、少女にもサインをさせ、2枚一緒に俺に手渡す。
「主人も既に亡くした身。
私達は他に生きる術を知りません。
むしろお金もいただけるというなら、断る理由がございません。」
「早いな。
わかった。
よろしく頼む。
改めて俺の名前はゼロだ。」
「私はアリエ。
この娘はエマです。」
「「よろしくお願いいたします。」」
茶色の長い髪を振りながら大きく2人は頭を下げた。
髪の毛が綺麗にまとまっているのは、フィーアの図らいか。
「儂もよろしくお願い申し上げる。」
次に紙を渡して来たのは、虎のような顔をした獣人族の男。
「名はバーム。
出身は東の大陸で、ご覧のとおり獣人族でございまする。
力仕事は任せてくだされ。」
恐ろしく筋骨隆々であり、その身の丈は2メートル近くありそうであったが、そう言って頭を下げる姿を見ると、なぜ売れ残ったのか不思議であった。
(あまりの力に恐れられたか?)
ーー獣人族
獣の力を宿す一族。
その見た目どおりの特性が現れるようだが、彼が奴隷になっているということは騙されたか何か。
(まぁ、良いさ。)
「よろしくな。」
紙を受け取り握手を交わす。
「私もよろしくお願いします。
ヌリカと申します。
力仕事はあまり得意ではありませんが、数字の計算は出来ます。」
そう言って最後に紙を差し出したのは、ヒョロっと細い人間の男。
その紙を俺に手渡す手は僅かに震えていた。
(そりゃあ怖いよな。)
「よろしく。
じゃあ、4人とも俺のもとで働いてくれるという訳だな?」
その言葉に皆が頷いたので、4枚の雇用契約書に契約のスキルを発動させた。
「じゃあ、これから頼むな。
それじゃあ、早速仕事を頼むか。」
連休最終日、、、
引き続きよろしくお願いします。




