102話 食卓
「悪かったな。」
「いや、気にすることは無いさ。」
ーー気のせいだろうか。
久しぶりに会ったドゥーエは少し疲れたような顔をしていた。
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ご機嫌な昼下がりに、グランの街へと戻った俺とアインス。
門のところで酷く苦い顔をされたが、ひとまずは通してもらえた。
そして、まず最初に見に行ったのは俺たちの屋敷。
見た目は相変わらず立派であったが、嫌がらせなのか、屋敷の周囲には大量のゴミが散乱する。
(風評被害ってやつか、、、)
そのまま門の鎖を解いて中へと入ると、屋敷の中から感じる複数の気配。
俺達の足音に反応したのか、その内の1人が物凄い勢いで近づいて来た。
「久しぶりだな。
ゼロ。」
「ふっ。しっかりと上から入れたようで。
迷惑かけたな、、、
ドゥーエ。」
「まぁ、色々とあったさ。
詳しくは中で話そう。」
「フィーアは?」
「中で、昼飯でも作ってるんじゃないか?
とにかく、やることが山積みだ。」
ドゥーエの顔には疲れが見えたが、何はともあれ久しぶりの我が家だ。
玄関の扉に手をかけると、必然にテンションは高くなる。
(中はどうなっているかな。)
怖い物見たさのような、実は見たくないような。
そんな腑抜けた感情で扉を開けたものだから飛び込んで来た光景に驚いた。
1人の少女が俺を出迎えてくれたのだ。
「お帰りなさいませ。
ご主人様。」
「えっ?」
思考が繋がるまでに数秒、そして理解と同時に声が聞こえる。
「シガルの奴隷の1人よ。」
「フィーア!
久しぶりだな!」
「ええ。
久しぶりね、、、
本当、簡単に了承するんじゃ無かったわ。
こんなに色々と大変なんて!」
「どうやら、迷惑をかけたみたいだな。」
「いいえ。
結構よ。
ゼロ。お帰りなさい。」
「ああ、ありがとう。」
「アインス。あなたもね。」
「ただいま戻りました。」
「2人ともご飯食べるでしょ?
さぁ、早速食べながら話しましょ。」
フィーアに促されてキッチンへ向かうと、そこには焼かれたコボルトのスペアリブとワインのボトルが置かれていた。
「ちょうど今焼けたの!」
「美味そうだな!」
「良い匂いです!!」
元の木阿弥とはこのことか。
キッチンに置かれた樽などを椅子代わりにすると、さっと手を洗ってそのまま3人で飲み食いを始めた。
「また、こんな所で食べてるのか。」
呆れたような声の持ち主はドゥーエ。
「良いじゃない。
これが、この家のやり方よ。
郷に入っては郷に従えってね。」
「まぁまぁ、皆んなの家だ。
気楽にいこうぜ?
とりあえず、ドゥーエも食べろよ。」
「そうか。
なら遠慮なく。」
そう言うと、ドゥーエは一番大きなスペアリブを掴んでかぶりつく。
「なっ!?
それ!!」
「ここで食べるということは、上座や下座も一切無いわけだ。
つまり、早い者勝ちだということだろ?」
「そうだな。
じゃあ、それもこの家のルールに追加で。」
「ちょっと、ゼロ!」
「流石はゼロ。
残念だったな。
フィーア。」
「ふふふっ!」
俺たちのやり取りにアインスが笑う。
久しぶりなんてことは微塵も感じさせない程の上々な会話だった。
「それより、2人とも本当にご苦労様だった。
こっちはそんなに成果も無かったんだが、とりあえずそっちの報告を受けても良いか?」
「ああ。」
「私が話すわ。」
フィーアがワインをゴクっと飲むと、口を開く。
「まず、私とドゥーエがこの街で最初に向かったのは、シガルの商会よ。
行ってみたら驚いたわ。
何も無かったの。
家具すらもほとんど無かったわ。」
「商会の権利書も探したが無かった。」
「従業員達が盗んだか?」
「それは分からないわ、、、
でも、そのまま商会の中を調べてると、庁舎から人が来たの。」
「庁舎から?」
「ええ。
それで、この土地と建物は既に違う人間の持ち物だから、早く出て行けーってね。」
(シガルの商会の権利の過半数は俺が持っている。)
「つまり、あの建物は商会の持ち物じゃないってことか?」
「どうかしら?
可能性としてはあるわね。
そして、アインスが以前住んでいたという奴隷の館についてもそうだと言っていたわ。」
「そうか。」
(シガルは商会の財産を個人で保有していた?)
「もしくは、、、」
「もしくは、あの晩俺たちが見たとおり、あいつはどこかへ逃げる気だった。
つまり、その殆どを現金化していたと見るのが良いんじゃないか?」
ドゥーエの言葉に深く頷く。
その可能性が一番高いと感じていた。
(まぁ、元々期待していた訳でも無いしな。)
「それで?
その後はどうなったんだ?」
「そうね。
お察しのとおり、恐らく売れ残ったんでしょうね。
あの出迎えてくれた可愛らしい少女と、2階の掃除をしてくれているその母親、今庭で掃除をさせている人間の男と、獣人族の男が残されていたので、引き取って来たわ。
それも、庁舎の人間に連れて帰れって言われたからだけどね、、、」
「そうか。」
(売れ残った奴隷が4人。)
「奴隷達は上に住んでるのか?」
「空いてる部屋にね。」
「シガルの商会、これ以上深くは関わらない方が賢明か。」
「まぁ、そうだろうな。
商人の世界に顔が効く訳でも無いからな。
そもそも、冒険者ギルドも活動していない今、これからどうするんだ?」
「そうか。
冒険者ギルドはまだか。
その辺りは俺にも考えがある。
それよりフィーア。
セーラのポーション屋には行ったか?」
「ええ、、、
でも、店は閉まってたわ。
何かあったのかしら。」
「わかった。
ひとまず、今日はゆっくりしよう。
明日、ドゥーエと奴隷達を連れて街に出る。
2人ともお疲れだったな。」
「ふー。
なかなかね。」
「悪かったな、フィーア。
俺とゼロの名前が思った以上に悪い意味で広がってるようでな。
買い物も一苦労さ。」
(そりゃあそうか。)
「まぁ、全ては明日からだ。
一気に駆け上がろう。」
俺の掲げたガラスのコップに皆んなが合わせ、景気の良い音が鳴り響いた。
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