100話 幕引き
人の短い人生や、同時にそれを生きる世界において起きる出来事、それは常に絶え間なく地続きで過ぎていくのだが、多くの人が普段から感じているとおり、所々に節目がある。
今回の件、それを俺という物語に当て嵌めるなら、間違いなくそれに該当すると言えるだろう。
結論から言うと、奴隷商人シガルはテルレ公国での拷問の末、セルカ王国で公開処刑となった。
それは、今回の騒動の発端がシガルであることを両国が認めた結果でもある。
結局、最後まで口を割ろうとはしなかったシガルであったが、ミアの魔眼が捉えた記憶によって、多くの事実は明るみとなる。
シガルと魔族の共通していた目標は、自らの土地を、街を、国を手に入れることであり、その為に狙いをつけていた先が隣国のテルレ公国。
当初、テルレ公国の純血派へ資金の供給を行い、内部のクーデターで国が乱れたところを一気に攻め込む予定であったが、それは道半ばで終えることとなった。
純血派へは、クーデター成功後にグランの街を攻めるように持ち掛けていたようだった。
シガルは、戦闘員を確保するため、冒険者ギルドのギルド長を抱き込もうとしていたが、むしろギルド長の説得を受け、抱き込んでいた貴族の中に、戦争を起こすよりも冒険者ゼロの後ろ盾となり、俺を盛り上げた方が良いのではないか。そう思う者が現れ始めた頃には、ギルド長は魔族の手によって屍と化した。
そこから最終局面までは、流れるように進んでゆく。
テルレ公国の純血派への莫大な資金提供に始まり、セルカ王国の貴族達への援助。
ーー最早シガルには前に進むしか他無かった。
多少強引な手を使ってでも。
しかしながら、シガルがそもそもどのような理由で一連の行動に至ったのか。
それについては最後の最後まで明らかにはならなかった。
シガルがセルカ王国で公開処刑となることが決まったのは、今回の戦争で完全勝利を収めたテルレ公国が、セルカ王国との間に設けた話し合いの場である。
その際、セルカ王国は仲裁者としてはコンスタン帝国を指名したため、実際には3ヶ国の代表者達による話し合いとなったが。
ちなみに、その場にはミアも魔眼による映像の共有のために出席することから、俺も護衛として会場の端に居た。
話し合いの冒頭でミアの魔眼によるシガルや俺、ドゥーエ、更には純血派の貴族達による記憶の映像が共有されると、元々セルカ王国が大義名分として掲げていた領主の暗殺計画について、全くの事実無根であり、むしろ、セルカ王国が魔族に踊らされた結果であることが明るみに出ると、コンスタン帝国の代表者の顔色も暗くなる。
ーー交渉は終始テルレ公国が優勢か。
3日間という短い話し合いでこの場は終結。
なぜなら、セルカ王国の北にあり、コンスタン帝国とテルレ公国の間に位置するメロウ共和国がセルカ王国の領主不在となった街へと攻め入ったため、セルカ王国にとっては、最早悩んでいる暇など無かった。
最終的には、セルカ王国が多少の粘りを見せたものの、コンスタン帝国の後押しは期待以下であり、次の様な内容で決まった。
1、
セルカ王国は、賠償金として金貨20,000枚をテルレ公国へ支払うこと。
2、
セルカ王国は、現段階において保有しているフォレストロトの3割とそれに付随する物をテルレ公国へ譲渡すること。
3、
セルカ王国は、テルレ公国による【不死の森】での調査活動を認め、その活動のためにテルレ公国が【不死の森】の周辺に拠点を作ることを容認すること。
4、
2年の間、両国は互いに不可侵とし、グランの街近辺である互いの国境付近に関しては、5年の間、コンスタン帝国を含む3ヶ国が戦場としないことを約束すること。
他にも取り決められた内容は多岐に渡るが、俺が聞いていた中では、大まかにこの内容で書面が交わされていた。
テルレ公国の要求はほとんど通った形となり、3つの書面にそれぞれの代表者達がサインをし、それをそれぞれが自国へ持ち帰る。
国同士の約束事にはほとんど効果を期待できないためか、契約のスキルが使われることはないようだった。
帰り際、コンスタン帝国の外相と思わしき者が、ミアの力に興味をもって話しかけてきたが、自身が【冥府の王】のもとへと嫁ぐ予定であることを告げると、顔を青ざめて踵を返していた。
ーー冥府の王。
話は遡る。
俺とドゥーエが年を跨ぎながらテルレ公国のミライへ戻った時のこと。
既にブランデ達が凱旋して、街中で大賑わいの戦勝パーティが行われていた。
この国の人々にとって、圧勝したこの戦の結果は、日常を輝かすニュースになったようであった。
そして、俺の到着が伝わるや否や、有力者が集う謁見の間へと連れて行かれ、その場で大公から今回の戦争での活躍を称して【冥府の王】という称号を付与するとともに、テルレ公国が一個人との間に初めて友好条約を結び、そのことを周辺国へと周知することがその場の全員に告げられた。
また、改めて公女ミアが【冥府の王】へと嫁ぐことが大公より高々と宣言されたが、前回とは打って変わって今度は雄叫びのような歓声が一斉に上がった。
どうやら今回の俺の活躍は、この国に相当の影響をもたらしたらしい。
その後、シガルの身柄をテルレ公国へ引き渡し、すれ違う様々な者からの称賛と自己紹介を矢継ぎ早に受け、引きつった笑顔も作れなくなった頃、ようやくフィーアやミア、そしてアインスの顔を再び見ることが出来た。
部屋の中で待っていた3人。
それぞれが、自身の生死が掛かった数日を自身は何も出来ないまま過ごしていたのだから、それには想像を絶する程の心労があっただろうに、そんなことは噯にも出さず、俺とドゥーエを凛とした姿で暖かく出迎えた。
「おかえり!」
「お帰りなさいませ。」
「おかえりなさい。」
ーーまた、忘れられない光景が増えた。
駆け寄ってアインスを胸に抱き寄せながら、そんな感情を抱いた。
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