10話 一番の鬼
【不死の森】でひっそりと鬼の一族は絶滅した。
俺はただただ、彼等の安らかな眠りを祈るばかりであった。
ふと、背後に気配を感じたので振り返ると、そこには虹色の魂が。
(何だ?また誰かの魂か?)
そう思ったのも束の間。
それは、ゆらゆらと揺れながら真っ直ぐに俺の方へと向かって来る。
(おいおい。嘘だろ?)
虹色の魂が俺に触れると、再び意識が暗闇へと遠のいていく。
気付けばまた、無数の席が用意されている真っ暗な部屋の中。
既に席に座っている人がぼんやりと見えたので、ゼンかと思ったが、少し雰囲気が違う。
「もしかして、ジンか?」
ゼンと姿形が全く同じその男は、無言で頷き、隣の席に座る様に促した。
座ると、同じ顔の男がジンの隣に座っており、それがゼンだと気付く。
(なんだ。ゼンも居るのか。)
ビーッと音が鳴る。
目の前のスクリーンに、鬼の一族の頭領ゼンの双子の弟。
ジンの物語が映し出されていく。
俺と鬼の兄弟の、3人での上映会が始まった。
ジンの記憶は、ゼンからの魂の継承を受け終わった今、強い既視感に包まれる。
それもそのはずで、小さな頃から2人はいつも何をするにも一緒だったからだ。
初めて大人との模擬戦で勝った時。
初めて鬼の力を操る事が出来た時。
そういった場面場面の感情が、ゼンと同じものが多いのは双子だからなのか。
1つ違う点があったとすれば、ジンは常に兄に対する尊敬の念があった事だ。
目線の先には常にジンがおり、自慢の兄。
そんな思いが節々に感じられた。
それは、魂の継承に関してもそうだった。
ジンは兄のゼンが次の頭領に選ばれた事を誇りに思っていた。
そう。
ゼンが魂の継承から目覚めた日の宴までは。
その日の宴は一晩中続いた。
大量のお酒や料理が振舞われた事もあり、村中が大いに盛り上がっていた。
そんな中、宴の最中に酔っ払った数人の村人がジンに絡む。
「村から出ていかないのか?
兄貴は同じ力を持つお前を処分しようとしてるんじゃないか?」
ガハハハッと笑いながら告げられたその一言は、ジンの心に衝撃を残す。
それは、グッと負の感情を産み、心の真ん中にトグロを巻いて、徐々に牙を向くのが俺にも伝わって来た。
そんな訳は無いと何度も自分に言い聞かせるが、感情を抑えようとする度に寧ろそれは膨らんでいく。
余計な情報が入らないようにと、村人達から距離を取るも、一向に心が晴れることはない。
ましてや、兄のゼンは頭領の仕事で忙しい。
話す機会が一段と減る中、 徐々にそれが疑心暗鬼へと繋がっていく。
それから数年後、きっかけは突然現れた。
ある日、兄のゼンが居ない間に村人達が集会を開いていた。
話の内容は、ジンの様子がおかしいため、いっそ村から追い出そうというものだった。
そしてそれに伴う罵詈雑言。
それをジンが聞いてるとも知らずに。
ジンは自分自身の鬼の力が暴走するのを感じたが、抑えようにも一度溢れ出した感情や力が留まることはない。
それに抗うすべはなく、ただただその流れに身を任せた。
そこで、スクリーンの映像は急に途絶える。
怒りと悲しみの感情だけが、渦を巻いて押し寄せると、ひたすら、遥か遠くに気配を感じる兄に会いたいという思いが全身に伝わって来た。
再び、映像が映し出された時には、既に俺がジンの目の前に立っているところ。
俺から兄の気配を感じる事が、自分が兄や村人を殺したという事への理解へと繋がり、深い絶望と共に叫ぶ。
そして、俺が鬼月をかざした瞬間。
伝わって来た感情は、安堵の一言。
そこで、ジンの物語は終わった。
ゼンは立ち上がると、ジンにも立つように促す。
俺の方を向くと。
「馬鹿な兄弟と一族さ。
よろしく頼むよ。」
儚げな笑顔でそう告げて、2人は去って行く。
目が覚めた時には、既に朝陽が登り始めていた。
魂の継承を続けて行ったからか、少し頭が痛かったが、それ程疲れは無いように感じた。
(魂の継承にそれ程負担が無いのは、前世の影響か。)
むしろ、自分の中に力がみなぎっていた。
試しに10メートル程先にある木に触れようと手を伸ばすと、その瞬間背後から真っ黒で巨大な鬼の手が現れ、木をなぎ倒す。
そう。これこそが鬼の一族の力である。
巨大な鬼の身体の一部を操り、出現させる事が出来る。
鬼の力が強大であればあるほど、操る制度やその力は増していく。
ゼンとジンの強大な力を継承した今。
俺の操る鬼の手は一振りで木々をなぎ倒し、巨大なその指で飛んでいる虫を捕まえれる程の速さと正確さを持ち合わせていた。
✳︎
ギルドへと戻り、鬼退治完了の報告を行うと、周囲の注目は一気に集まる。
そして集まった視線と沈黙は、ドッとした笑い声に一気に変わる。
「ぶはははははっ。
あの野郎鬼を倒したとよ!!
凄いじゃないか。」
「そりゃあすげえや。何ミリくらいの鬼だったんだ?」
そんな声が、ギルド中から次々に湧き上がる。
そんな中、受付のレミアが冷静に俺に告げる。
「その報告だけでは、討伐完了とは認められません。」
討伐証明部位は無かったので、完了報告にはならないのは分かっていたが、鬼退治を完了した事は事実であったので、違約金を払うつもりは無かった。
「それは勿論わかってます。
しかし、事実は事実ですので。」
「そう言われましても。」
レミアが困った顔をしていると、クエストを受ける前にも気になった銀髪の女性が、後ろからレミアにそっと耳打ちをする。
瞬く間に変わるレミアの顔。
「本当ですか!?
アインスさん。」
銀髪の女性が黙って首を縦に降ろす。
「少々お待ちください。
今ギルド長に確認して参ります。」
そう言うと、レミアは奥に走って行く。
(アインスと言うのか。)
しばらくすると、奥からレミアと共に2メートルはある大男が現れた。
(こいつがギルド長か。)
「話は聞いた。
レミアは他の者と人払いを。
お前は奥の部屋に来い。」
その男は、俺をギルドの奥の部屋に連れて行き、こう告げる。
「鬼の魂を引き継いだそうだな。
何か示せるものはあるか?」
そう言われた俺は、自分の背後から真っ黒で巨大な鬼の手を出現させる。
「わかった、、、本当のようだな。」
ギルド長は特に臆せず、鬼の手を凝視してそう告げた。
「クエストの完了の件だが、条件をつけさせてもらう。
鬼がこの街の周りから消えた事が確認出来、お前にも危険性がない事が確認出来れば、今回のクエストの達成を認めよう。
ポイントは認めるが、報酬は1割だ。
それでどうだ?」
「問題ないです。」
「では、明日またギルドに来い。
宿はどこだ?」
「特に決めてないです。
今から探そうかと。」
「わかった。
宿についてはギルドで手配しよう。
それでは、明日の朝またギルドに来てくれ。」
その言葉に従い、案内を受けたギルド御用達の宿に早速向かうと、その晩は、久々にお皿に盛られた夕食を食べ、お湯で頭を洗い、身体を拭いた。
洗濯のされた服に着替えて、ふかふかのベッドに包まれながら、この世界では上流階級の者しか利用する事の出来ない風呂に入る事をいつか夢見て、ゆっくりと眠りについた。
お読みいただいた方は貴重なお時間ありがとうございます。




