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01話 始まり

1話2,000文字程度で徐々に更新したいと思います。


物語の始まりは突然だと良く聞くが、終わりもまた同様である。


夏の暑いある日、太陽がまだ昇らない時間に、出社の準備をする男の姿があった。


名前は、安食零(あじき ぜろ)

この物語の主人公だ。


これは、この男が異世界で冒険者となった後、会社を設立して活躍するまでの物語である。



✳︎


「昨日のNYダウの下落はまずいなぁ。CMEもめちゃくちゃ反応してやがる。」


外資系証券会社で働く俺は、毎朝4時に起床し、前日のNYダウの動きを確認する。

その後、フレッシュジュースで脳の糖分を補給すると、TVのニュースを流しながら、ネットのニュースをチェック。

社会人になりたての頃は、世間の流れというものが全く分からなかったので、何社かの新聞を取って読んでいたが、今では、ネットのニュースから気になるキーワードをピックアップして読んでいる。


「中東の産油国でまたストライキね。

WTIがしばらく反応してくるか。」


(まぁ、落ちてくるナイフは掴むな。

だな。)


集めたニュースや統計データ、時期によっては決算資料などを積み重ねていき、今後の動向を予測。

それを、顧客へのプレゼン資料へと綿密に落とし込んでいくのだ。


(悲しいところは、作った資料の分だけ、責任回避の文言が増えるところだけどな。)


ちなみに自慢ではないが、入社3年目以降、顧客へのセールスの成績は会社の全役職中5%以内を5年間キープし続けている。

200人の顧客と、彼等の資産の1,000億を預かっているトップセールスマンだ。


ひとしきりの情報を頭に詰め込んだら、ゆっくりと風呂に入る。

29歳独身で彼女も居ないので、この風呂と夕食の時こそが至福の時間。

最近は、レモングラスのオイルを浴槽に少し入れて半身浴をするのがお気に入り。



風呂では、浴槽に備え付けたテレビでトレンドのチェック。

巷で流行ってるレストランやスイーツの情報も、顧客との雑談には有効で、なかなか馬鹿にはできない。


着替えは、2週間分を揃えた10着のスーツから日替わりで一つ選び、その日の服装へ。

どれもオーダーメイドなので、ぴったりとフィットするのが気持ちいい。

そうして、朝の7時には、会社近くの高層マンションから出社する。


そんなルーティンをこなして、いつものように充実した朝を過ごし、代わり映えの無い出社をその日も行なおうとしていたのだが、ジャケットに袖を通した瞬間、身体中に違和感が走る。


それは胸の中心付近に一気に集まり、心臓に強烈な悲鳴をあげさせた。


「ハェァ!? ハァ、あああァ!!」


声にならない声が部屋を駆け巡る。

誰かにこの胸の中央を鷲掴みされているような。


「死ぬ??シヌ!?」


誰も居ない空間に投げかけられた言葉。

うめき声を上げながら、膝から崩れ落ちた俺は、目の前が徐々に真っ白になるのを感じた。



「ん?」


気付けば、ただひたすらに青い空が続く風景の中に1人で立っていた。

さっきまで着ていたスーツを身に纏っていたため、その風景には酷く不似合で、真っ直ぐに上を見上げると、青い空がやけに近くにあるように見える。


(昔、付き合っていた彼女が、オーストラリアの空は近くに感じるって言ってたな。)


そんな昔話が頭をよぎる。


「綺麗だ。」


思わず口から漏れ出た言葉。

つい先程までに感じていた苦しみも、そこにはもう存在すらしていなかった。


「お疲れ様でした。」


ふと、後ろから。

穏やかな声色が、俺の耳を伝って脳に信号を送りつける。

ゆっくりと振り返った先には、ベールの様なものを全身に纏った綺麗な女性が立っていた。

その姿に思わず見惚れたが、すぐに襟元を正してその女性に尋ねる。


「俺は死んだのか?」


彼女は答える。


「はい。その通りです。」


「そうか。」


何となく予想は出来ていたので、あまり驚きは無かった。

その時、胸の内から沸々とこみ上げて来たのは、マラソンを走り終えたかのような達成感。

短い人生ではあったし、やりたかった事もまだまだあったのだが、決して悔いは無かったからだろうか。


「これからどうなるんだ?」


再びの質問にむしろ彼女の方が驚いた。


「もの分かりが良くて大変助かりますが、良過ぎるというのも如何なものです。

他にご質問はございませんか?

例えば私が誰なのか?とか。」


既に頭の中は、この後俺がどうなるかということ。

まぁ、死後の世界があるということが分かったのは興味深かったし、ここがどこなのかというのも気にはなったが。


「特に無いよ。

あんたは恐らく上位の存在で、いわゆる神さまみたいなもんなんだろう。

それより、これから先のことが聞きたい。」


再び答えると彼女は言った。


「おおよそ正解です。

わかりました。

それでは早速ですが、これから貴方には、3つの選択肢より、1つ選んでいただきます。」


そう言うと、彼女はその選択肢を提示する。


1つ目は、魂としてこの世界に残り続けること。

2つ目は、再びこの世界に新しい命として転生すること。勿論今回の人生の記憶は消された上で。

3つ目は、2つ目と内容は同じだが、転生先が今と全く違う世界へ転生すること。


ちなみに、この世界と違う世界は、数百種類あり、転生した先がどのような文明なのかは彼女も分からないらしい。

また、転生先で死んだ場合にどのような選択肢が与えられるかも、その世界のルールによって違うとのことだった。


(神さまにも、担当エリアとかがあるんだろう。)


そう思うと笑えてくる。

異世界への転生についてふと気になったため、尋ねてみることに。


「剣や魔法の世界もあるのか?」


「私も全ては把握しておりませんが、いくつか存在していると聞いたことがあります。」


その言葉に、俺は心の中でガッツポーズをした。

小さい頃からファンタジーは大好きだ。剣と魔法の世界があるなら是が非でも行きたい。

この世界に住んでる者なら、誰だって一度は思うだろう?

俺は迷わず3つ目の、異世界への転生を希望した。


「よろしいのですか?そんなに早く決めて。

一般的には2つ目を選ぶ方が多いですよ?

何せ、この世界は文明が高度に発展してますから。」


「大丈夫です!」


ふと、今まで敬語を使ってなかったことがよぎり、語尾に取って付けたかのような"です。"を付け加える。

その返答が面白かったのか、彼女は微笑んで口を開く。


「承知しました。

それでは、あなたの次の人生に幸多からんことを。」


優しく告げた彼女は、俺の胸にそっと手をあてた。


その瞬間。

今度は目の前が真っ黒になるのを感じ、再び俺の意識は遥か遠くの方へと向かって行った。




初めまして。

どうぞ、どなたもゆっくりしてください。

広告の下の評価は押してもらえると嬉しく思います。

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