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それでも私は

作者: えいき

チャリリン

自販機の前で落とした10円玉はアスファルトの平らな道で弧を描き、離れたとこで小さく光っている。

あんなとこまで行っちまったよ(笑)

強張っていた敏生の顔は柔らかくなっていた。

もう、こんな日に落とすなんて縁起悪くない

彼女の玲が軽く鼻息を鳴らしている。

敏生は10円玉を拾い上げ玲に向けた。

この10円玉がどう関係あるんだよ、大学受験に(笑)

そうだけど、、、

敏生はその手を握りしめながら

そうだよ、それにこんな10円玉がどうとかで今までの積み重ねを無駄にしてたまるかよ

玲は十分勉強してきたんだから、もっと緊張を緩める資格があると思うよ

そんなこと、、、でも緊張ばっかしてても仕方ないよね、今日は最後まで頑張ろうね

敏生は背中で応えた。

頑張ろうな

お金を入れかけた自販機に10円玉を入れ、お茶を購入した。

そして二人が歩き始めようとした時、玲が足を止めた。

どうした?ん?

敏生は振り返るとアメフト選手のように体格がしっかりしている強面の茶髪が唖然としていた。二人は数秒沈黙した後で

えっ、、、拓斗?

まあ、、、玲、だよな?

うん

え、お前もここ受けるの?

うん!

(どうして若干うれしそうになった?)

敏生は二人に挟まれた位置で会話に入れず、気まずさを紛らすためにお茶をたびたび飲んでいた。

玲に会うとか、いつぶりだ?

中3の時に拓斗が引っ越してからだから、4年位?

(さっきから拓斗拓斗って、何者だよ)

敏生のお茶はもうそろそろ半分になろうとしている。

あの時何の連絡も無しに行っちゃったよね

まあ、、、な

結構寂しかったんだから

悪かったよ、でも、、、また一緒になれるかもしれない!

(また?)

うん!

(え? うん?)

てか玲は専攻何なの?

拓斗が大学内の建物に向かって歩き出すと玲もちょっと待ってと言わんばかりに行ってしまった。

(おい、玲、、、)

私は人文だけど、、、

俺も!

よかった!

(待ってくれよ、そんな、一瞬で俺とのことがなかったことになるなのか?待ってくギュルギュルギュー)

ん?

拓斗はお茶の入ったペットボトルを持ちながらお腹をさすった時、気付いた。お茶が入ってない。

いつの間になくなっちギュルギュルギュー

どうやら冷たいお茶を短時間で飲み干してお腹が壊れてしまったらしい。

敏生は周りを睨み付ける。

トイレは、どこに

玲と拓斗が消えていった建物に可能性を感じた敏生は走り始めた。多くの受験生がそこに向かって行列を成していた。しかし、敏生は途端にその場で体を弓のように反らし、人の波に抗った。どうやらおしりに力を入れて耐えているようだ。走った際の振動で下ってきたらしい。迫り来る圧力に異常な呼吸法で応えつつ歩き出した。

建物は5階建てで上から見ると長方形になっている。各階に6つの部屋が一列になっており、入り口は6つの教室の真ん中辺りであった。また、階段とトイレはそれぞれ両端に備わっていた。

敏生は入り口で建物の構造図を見るなりトイレの方向だけを見た。トイレまでは2つの教室があり、その先にトイレの看板がひょこっと出ている。

敏生は教室を1つ過ぎた辺りで安堵を見せてしまった。途端に圧力が襲いかかった。

ガッシャーン

敏生は2つ目の教室の扉に前からよりかかり、つま先立ちになりながら圧力を押し殺した。

入口から最も離れた席に着いていた生徒は何事だと受験対策の資料から顔を上げた。そして未だに扉を打ち鳴らすような音が響いていており、その先には苦虫を噛み潰したような表情で少し震えている男がいるのだった。

ギュルギュルギューただの圧力ならまだしも、今回は水っぽいのかお腹が痛すぎるのだ。敏生は肛門付近に全ての神経を注ぎながら窓際をゆっくり過ぎていった。

敏生はトイレにたどり着いた。そして壁にもたれながら一心不乱に目指した様式は工事中であった。頭が真っ白になり、精神が絶ち切られるも肉体は2階という次の可能性に向かって自然と動いていた。しかしトイレの隣の教室を横切っているとこでかすかに我に戻り、戻りかけの頭で考えてしまった。恐らく2階には1階で用をたせなかった受験生が集っているのでは、と。敏生を繋ぎ止めていた精神と肉体が全て断ち切られたその瞬間、一言だけを残した。

あっ


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