表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

淡い花と空の絵

みとめる光は瞬く間に

作者: 風奈多里


久保田タケルは、23歳、社会人になったばかり。毎日、お気に入りのマイバイク、タケル号で元気に自転車通勤をしている。


家を出てすぐのところに小学校がある。小学校を通り過ぎると、上り坂になる。上り坂を登ると、今度は下り坂である。何度か緩やかな坂を上ったり下ったりすると、大通りに出る。その大通りに会社がある。


だいたい30分かけて会社へ行く。


夏場は毎日暑くてとろけそうだ。日焼けもお見事だ。熱中症対策で、飲み物も欠かせない。


タケルは、いつも坂を上って、下ったところで水分補給をする。オレンジ色のかわいい屋根のお家の目の前で、少しだけタケル号を止めて、ゴクリとスポーツドリンクを飲む。何口か飲んでから、またすぐに出発する。


そのオレンジ色の屋根のお家の前には信号がある。


スポーツドリンクを飲んでいる最中に、いつも目に入る信号だ。最近、その信号の前に、いつも同じ時間に、同じ女性が立っていることに気がついた。


今日は、水色の白のワンピースを着ていた。毎日、水色の日傘を差し、つばの広い麦わら帽子をかぶっている。ワンピースのスカートの裾を揺らし、風に揺れる長い髪の毛を片手でおさえながら信号を待っている。


なんとなくしか顔が見えないが、とても色白で美人だ。華奢な細い手首も美しい。




翌日もその女性は、信号の前に立っていた。


今日は、紺色のワンピースだ。花柄がとてもよく似合っている。


その翌日も、またその次の日もその女性は立っていた。毎日違う色のワンピースを着ていた。


いつしかタケルは、今日も綺麗だなぁと、毎日見惚れている自分に気がついた。




ある日、タケルがいつものようにその女性に見惚れていると、女性がこちらを一瞬見たような気がした。

タケルは、ドキッとした。


すると、急に強い風が吹き、女性の帽子が飛ばされてしまった。


「あっ。」


タケルは、とっさに飛ばされた帽子を追いかけた。


「あっ。」


その女性は驚いたようにタケルを見ていた。


帽子に手を伸ばしたタケルは、まるで一瞬だけ時が止まったように感じた。


タケルは、帽子を手に取り、その女性に自然に手渡した。


その女性は、ニッコリ微笑み、


「ありがとう。」とお礼を言った。


すると、その一瞬から世界は瞬く間に明るく光った。タケルは、その世界に吸い込まれて行く感覚がわかった。とても綺麗で柔らかな白い光であった。


タケルは、その女性に軽く会釈をすると、すぐにまたタケル号に飛び乗り、がむしゃらに自転車を漕いだ。


なんだかとても不思議な気分であった。自転車に乗っているのに、体がふわふわと宙に浮いている。


女性の顔は思い出せない。よく見えなかった。いや、恥ずかしくて見ることなんて出来なかった。




その日からタケルから見える世界は、明らかに変わった。




信号は、青になっているのも渡り忘れ、気がつけば赤に変わってしまっていた。いつも飲んでいるスポーツドリンクは買い忘れて、なぜかブラックのコーヒーを買った。いつもは掃除なんてしないのに、タケル号の汚れが妙に気になり、念入りに洗車をした。ワイシャツのシワが許せなくなり、アイロンを自分でかけるようになった。



朝は、少しだけ早く出勤するようになった。タケルは、あの女性に、また会いたいと思った。けれども、こんな自分じゃ自信が持てないと心のどこかで感じていた。その心がタケルを変えた。


1ヶ月くらいたって、タケルは、前と同じ時間に出勤するようになった。


いつもと同じ時間、いつもの信号前には、あの女性が立っていた。今日は、ピンク色のワンピースを着ていた。


タケルは、ゆっくりとその女性を見た。


すると、女性は、はっと気がつき、ニッコリと微笑んだ。




はじめて顔が見えた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公が女性に恋をする瞬間、自分の中に新しい光が生まれる、まさしくタイトル通りですね。 恋をすると、色々と自分も変わろうとしている感じがまた恋の描写として良いと思いました。 [一言] 最後…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ