テラフト
「この辺からは歩いていこう。」
2人は車を降り、テラフトへ歩いて向かうことにした。
歩いている途中、アルデンヌはシャフターの紅の髪に皆の視線が向かうのを感じていた。それもそうである。周りにいるのは、人間であるが、貧困層に近いような連中ばかり。誰一人として配下を持ち合わせていないような面構えをしている。
「こいつら…割と育ちがいいわけではなさそうね」
警戒しながら歩いているとテラフトの看板が見えてきた。
すると、不意にアルデンヌが立ち止まった。すぐ後ろを歩いていたシャフターは気づかずにぶつかる。
「いたぁ!何?」
前をのぞいてみると、アルデンヌと誰かが対峙していた。
「アルデンヌ?どうしたの?」
不安になり声をかける。しかしアルデンヌからは返事がない。
その直後、アルデンヌはシャフターのほうへ振り向きこう言った。
「ごめん、ちょっと裏路地いってくる」
どうやら、アルデンヌは誰かとぶつかったらしく、その誰かが、アルデンヌにとって都合のいい相手ではなかったらしい。シャフターはこれまでの会話の経緯からして、機構の人間と判断した。
「じゃあ私先にテラフトにいってるね」
そう言って、一人テラフトへ向かった。
テラフトは看板こそは大きいものの、内装は普通の酒場だった。中へ入ると、賑やかな宴の真っ最中かと思ったが、一転、そういうわけではなかった。中には店主の男性と看板嬢の女性、それに物静かな客の3つしかなかった。
(ここがテラフト…案外雰囲気が想像と違ったわね)
内心そう思いながら、マスターに一番の好物であるレクティアを頼んだ。レクティアはボラント大陸で生産される麦の一種で、プロジオン法といわれる抽出工程により、上質な酵素を取り出すことでできる品である。
店主はおとなしい風貌で、どことなくアルデンヌに似ていた。
「マスター、これもう一杯頼める?」
シャフターは2杯目を注文した。
「あいよ、ちょっとまってな。」
そこへ看板嬢とみられる女性が近寄ってきて、空のジョッキを取り上げた。
「ふふ、綺麗な赤い髪ね、この辺の方じゃないでしょう?」
シャフターの独特な外見は見るものの視線をロックする様だ。
「まぁ、私ジュエの出身なんです。髪が赤いのはそれとどう関係があるのかわかりませんが…。」
「ジュエ?ってあのセシルトニアンのほうのですか?」
「はい。にしても、この町の方は異色ですね」
これまた冗談のつもりである。
「あはは、本当よね、私もそれは思いますわ。あなたが目立つのはそのせいですよ。」
目立つといわれると、なんだかうれしいような気もしてくるのが性なのかもしれない。シャフターはどう見ても煽りにしかとらえられないようなセリフに対し満面の笑みで受け答える。
「ここの酒場に来る途中、イーシーの方と出会いまして、賑やかとおっしゃっていたのですが…」
シャフターは突然そんな話に切り替えた。
「賑やか?あぁ、そうですね、ジェスターさんがいれば、多少は賑やかになりますよ」
「ジェスターさん?やっぱり今のここって、賑やかじゃないんですか?」
以外にも、というかなぜか、この酒場がにぎわっているのかどうかという話から、何がそうさせているのかという、まったく関連がない内容に話が移り変わってゆく。
「賑やかかどうか、というのを私の判断から言いますと、ジェスターさんがいるか否かによります。」
「ジェスター?って誰なんです?」
敬語口調で問いかける。
「えぇ、ここらへんで一番強大な配下を持っている方です。たしか、神様の下で従事する者とか言っていました。」
「神様?それって五大勢力じゃない?」
「はて、ゴダイセイリョクとはなんですか?」
シャフターのその問いに対し、看板嬢は疑問に思った顔をした。どうやら、彼女は外界の状態を知らぬものらしい。シャフターには今の会話で、触れられぬ一線が生じうると確信が得られた。
「じゃあ、ジェスターさんってどうな風貌の人なの?」
なぜ人かというと、基本的に確率論から、人であることが多いと見たからだ。
「たしか、眼帯を付けておらして、散切り頭で…軍服を着ているような方です。」
「あなた、記憶力いいじゃない」
シャフターはそう一つ褒めてやると、ちょうど店主が2杯目の酒を用意してくれた。
「とりあえず、レクティア2杯目いただきます。」
「シャフターさん、あなた見た目と違って陽気な人なのね。」
女性はにこやかな笑みを浮かべている。
ぐびぐびと音を立てながら飲むその姿に、よその客から歓声が上がり始めた。
「おい、あそこに座ってる赤髪の奴、なんか飲み干しざまがジェスターに似てるな!」
ジェスターという感情生命体は、話によると毎晩6時くらいに現れるらしい。しかし、この日は違ったようだ。
噂をすればどうこう。などという言葉があるが、本当に噂をすればジェスターさんはやってきた。