神
なぜここまでして5大勢力に歯向かうことが無駄なのか。それを知らしめる戦いがジグ暦30年に起きた。シャフターが8歳のころだった。
世に言う「第一次大戦争」が巻き起こった。大戦争はジグ暦207年までに3回ほど起きており、その一番最初の戦である。この戦争は、支配拡大戦争を決定的なものにし、60年後に起こる第二次大戦争の原因にもなった。
事の発端は、ピグミー湾の東端にある王国、霧島国の皇太子が5大勢力の一つ、ヲロ一族の配下に入りたいという申請を送ったことからだ。ヲロ一族はその申請に対し、ノーを突き付けた。理由は霧島国がもう一つの五代勢力、ワラワラ一族の配下であったからだ。ヲロはワラワラの戦略を見抜いていた。霧島国の一見は完全なるフェイクであり、本当の目的は、ヲロの配下の査察。互いに僅差の軍事力である神は、相互干渉を極度に嫌った。それは当然だった。干渉というとほとんどが戦争であり、対話による和平解決など1つもなかった。
そこに舞い込んできたのが、グウェントというテロ組織。彼らは両勢力に対し、2面性外交を行い、神同士の軍事衝突を引き起こさせる目論見を立てていた。霧島国の真意をねつ造し、互いに互いが不振になるよう、筆頭に対談を持ち掛けた。かれらの目論見は成功した。見事にワラワラとヲロは対立し、一か月後、グウェントの一団が、ヲロ一族の邸宅で自爆テロを起こし、ワラワラに濡れぎぬを着せた。
こうして、ヲロとワラワラは戦争状態に陥った。見かねたセルシオン、イコール、チョウ一族も戦争に参戦。大戦争が巻き起こった。
対立図は、ワラワラ、セルシオンバーサス、イコール、ヲロ、チョウであった。この戦争はジグ暦44年まで、十四年間続いた。
ジグ暦40年―
シャフターはすっかり大人になっていた。十八歳。ミナラカ国はジグ暦32年に滅亡。現在国名はジュエ国となり、セルシオンのもとで安泰な生活を送れている。しかし、この大戦争のさなか、彼女は心のうちに煮えたぎるものを抱いていた。日々報じられる戦争の話題。日々繰り返される惨劇。こんな日常が十年も続き、将来的な目的はすでに決まっている顔だった。カレッジで、将来の夢を語る一幕があった。シャフターは迷わずこういった。
「私の夢は、天下泰平。皆が心広く共存できる…そんな世の中にしたい」
よどみはなかったが、同席したクラスのメンバーにこっぴどく笑われた。
「きいたか?天下泰平だってよ!おかしなやつだな!」
誰も聞く耳はなかった。彼らにとって現在は、まさに天下泰平だったからだ。
外の世界を知る者は粛清される。だから皆そのことを知っていても知らないふりをする。どこでその情報を得たとしても知らないふりをする。
でなければ、人生どころか、命さえ危なかった。この状況を打破するには、自分を捨てる必要がある。そう思っていた。
十八にもなれば、けっこう大人びて哲学的な価値観も理解できるだろう。こう言ったのはかつての哲学者らしいが、シャフターにとって哲学を吟味している暇はなかった。恋という名ばかりの付き合いをする人間を見て嫌になることもあった。やれることは何なのか。常にそんなことを頭に入れていた。