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---家の近くまで来た俺はふと向かい側のバス停に目を向けていた。無人のバス停には一台のバスが停まっていた。もう学校も終わってる時間だから他の学生とかが降りてくるのだろう。
プシューというバスのドアが閉まる音が鳴ると、バスが走り去って行った。
バスが走り去って行くとバス停に1人の人影が見えた。きっと、今さっき降りた人だろう。
「…あれ?」
バス停には白いワンピースに麦わら帽子というなんとも夏を感じさせてくれるコーデを着た黒髪短髪の少女が立っていた。
その少女を見てふと脳裏に同じような少女が思い浮かんだ。見覚えのある姿だ。
「あっ、おーい! なっちゃーん!!」
そして少女は俺を見るなり子供みたいに無邪気に手を振り俺の名前を呼んでいた。
少女はしばらく手を振った後、左右から車が来ないか確認すると大きめなキャリーケースに大きめのバッグをくくりつけたいかにも重そうな荷物を持って道路を横断してきた。ここら辺は信号どころか横断歩道も少ないからな。
「ハア…ハア…、なっちゃん、ただいまー」
「なつ、もう来たば?」
少女は重そうな荷物を引きずりなんとか道路を横断して来た。そして息切れする少女を見ながら俺は少し驚かされていた。
彼女は工藤夏海。俺の従兄妹で東京に住んでいるが、毎年夏休みになるとうちに泊まりに来るのだが、今年はかなり来るのご早い。いつもなら早くても1日2日ぐらい経ってから来ていたのだが。
「えへへっ、どお? ビックリした?」
「………」
汗を掻きながらも笑顔で返すなつに俺は反応に困まらされていた。
「なんで連絡寄こさかなかったば? 母さん達には言ってあるば?」
反応に困った俺は無視し、話を戻そうとなつに問いかけてみた。
「ううん。おばちゃんにも誰にも言ってないよ。サプライズだからね」
「ぬーがサプライズよ!」
なつの返答に呆れてしまっていた。なんのためにそんなことしたんだよ。ちなみに『ぬー』とは『何』という疑問系で使う方言で、さっきの言葉を訳すと『なにがサプライズだよ!』という意味だ。
「なっちゃん、今帰りでしょ? 一緒に帰ろうよ!」
「…お前、荷物を俺に持たせる算段立ててるだろ?」
「えっ? ナ、ナンノコトカナ?」
「わかりやすいカタコト使うな」
なつは重そうな荷物をチラつかせながら俺に期待の眼差しを向けてきた。こいつ、完全に俺に持たせようとしている。
それに気づいた俺はなつに一言物申すとなつのやつ、そっぽを向いてわかりやすいカタコトで返してきた。わかりやすすぎるにも程がある。
「自分で持てよな。ここまで1人で持ってきたんだろ? なら大丈夫だろ?」
「えー!?」
俺が嫌そうな顔をすると、なつは文句言いたげそうな顔で返してきた。
---その後、そのやりとりを帰る道中、何度も繰り返すのだった。