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---『好きな季節は?』と聞かれると俺は迷わず『夏』と答える。自分の名前に夏が入ってるからというのも僅かながらにあると言えなくもないが、好きな理由は二つある。
一つは夏の空が好きなのだ。昼はスカイブルーの空と入道雲が視界一面に映ると嫌なことをスッキリと忘れさせてくれる。夜は一面の星々が線香花火のように美しく輝いている。まあ空なんてどの季節だってあんまり変わらないと思うが、暑い季節を乗り切るにはそれぐらいの気持ちでいないと外になんか出ようとは思わんだろう。要は気持ちの持ちようだ。
そしてもう一つの理由は、彼女に会えるからだ。彼女といっても付き合ってるという意味ではない。だがこの時期になると俺の脳裏に彼女の姿がちらつく。真っ白のワンピースに麦わら帽子を被った短髪黒髪の彼女の天真爛漫な笑顔は誰も忘れることなど出来ないだろう。
そんな彼女に俺はいつの間にか好意を寄せていた。初めて出会ったのは五歳くらいの時だったか。彼女が彼女の親と一緒に俺ん家に遊びに来たのが始まりだった。
ちなみに俺と彼女の関係はいとこにあたる。俺の父と彼女の父が兄弟なのだ。彼女の父が兄で俺の父が弟になる。元々俺の父は東京出身なのだが、沖縄出身である母と知り合い、そして結婚した後、沖縄に移住したのだ。親の馴れ初めなんてあんまり興味ない、というより聞きたくもなかったのだが。
話は戻るが最初は彼女に対して恋愛感情は全くなかったのだが、気がついたら彼女のことを意識するようになっていたのだ。
しかし彼女と一緒に居れるのは夏休みの間だけだった。大都会・東京から国内最南端の沖縄だと気軽には会いに行けない。その上、俺の住んでいる場所が北の方だから空港からだと更に時間がかかる。それでも俺は密かに楽しみにしていた。
だが俺も彼女ももう高校2年。来年は受験やら就活やらで忙しくなってくる。もしかすると会えるのも今年までかも知れない。大人になると中々会いに行ける時間も作れなくなるかもしれないしな。そうなると俺もいつまでも何もしないわけにはいかない。
そこで俺は密かに決意していた。彼女、工藤夏海に思いを伝えようと。彼女と過ごせる夏は今年で最後かもしれない。なら、後悔する前にきちんと俺の気持ちを彼女に伝えなければ。
---だがしかし、彼女と会えるのが本当の意味での最後になろうとは俺も彼女自身でさえも知る由もなかった。
俺と彼女の最後の夏休みが間も無く始まる。