この変わりゆく世界と共に。
様々な世界に出会うボクらの短い旅。
そして、今日も終わりに近づく頃、また新しい世界が始まる。……。
ボクは今、丘の上の原っぱで横になり空を見上げていた。
周りには街灯も家もなく灯りがない。あるのは月と星々が光輝いている風景。
この丘に来るのは初めてであり、周りに人は誰もいない一人だけの空間、風でなびく草木、月明りで揺れる影、光り輝く星々、僕はこの場所が気に入ってしまった。
この場所に来てからどの位時間が経っただろう。星座を見つけ、自分で星と星を結び星座を作り、風で揺れる草木を見て耳を傾ける。このままこの世界が終わらなければいいのに、そんな事を思いながらもゆっくり起き上がり遠くを見ると、微かに光が見えてくる。
「またここに来たいな。」と呟き、だんだん迫ってくる光を見つめていた。
ボクらはいつも不思議な世界の中で目が覚める。
煉瓦造りの建物が立ち並ぶ街灯と月明りが照らす夜の世界、舞殿を囲うように立つ桜の木を照らす燈篭と月明りの世界、等間隔に埋められた光がある先の見えない洞窟、紫色のライトが灯る薄暗く扉の無い奇妙な雑貨店らしき部屋、他にも港町や雪山、お菓子の森など様々な場所に旅をしてきた。
その行く先々でボクらはいつも二人だった。
煉瓦造りが立ち並ぶ夜の世界では、ただ歩いた。
五階建てくらいはありそうだけどその階には一部屋しかないのではないかと思わせるくらいの細い家、二十五メートルプールが入りそうな程横に広がった平屋、複雑な形をしている家、一つの階を上がるごとに右にズレている家。そのどれもが煉瓦で造られていて同じ形がない家々を見て歩くだけ。
ボクらはそれらに見惚れていて会話もなく歩き続け、いつの間にか違う世界に来ていた。
新緑が月明りに照らされ風で煽られカサカサと揺れている森の中をボクらは歩いている。
ゆっくりと周りを見ながら、時に立ち止まり夜空を見上げ星々を眺める。先に進んでいくと、光のようなもやもやが見えてきた。それに向かって歩を進めていくと共に光もハッキリ見えてくる。歩を進めながら周りの変化に気付くと、緑から茶色、だんだん薄い桃色に変化しやがて桃色がはっきり確認できるくらいまで来た時、光の正体が現れた。
舞台?土俵?…違う、舞殿……。
いつだか見たことがある。舞楽を行う舞台のこと。
実際に見るのは初めてだったし、何より幻想的だった。
桜の木に囲まれ、月明りと燈篭の光に照らされたそれを見て言葉を失っていた。開いた口が塞がらない、正にその通りだった。
クスクスと笑われたような気がして、ボクも我に返りなぜだか口元が緩んでしまった。
ボクらは舞殿を一周する、右回りに、次に左回りに一周する。
正方形の端に一本ずつ四本の柱、屋根と続く。木造で造られていて、お城のてっぺんだけを中が見えるように切り取ったような感じであった。
ボクらは少し離れたところで舞殿と桜の木を一緒に見ることにした。
桜の木があり舞殿があり、その後ろには満月が見える。
……そこで立ち尽くしてどれくらいの時間が経ったか、月が沈み、新しい光が現れるこ頃、ボクは思う。
またここに来たい、と、ふと目を閉じる。
また新しい世界に入り込んでいた。
目が覚めると見慣れた天井、本棚、箪笥…そこは自分の部屋だった。
「そうか、今日はここから始まるのか。」
周りの枠と時針分針が白、秒針が黒、その奥の背景はグレーのシンプルな造りの時計を見ると、九時を過ぎたところだった。二階にある自室を出て一階に向かう階段を下る。一階には誰もいない、外は晴れているのだろう明るい。僕は玄関を開け外に出ると、太陽の日差しで咄嗟に目を閉じる。と同時に頭が痛くなる。
少しの痛みを耐えながら目を開けると、そこにも見慣れた景色。
一旦家に入り、着替えをしてまた外に出る。
近くに川沿いに舗装されているサイクリングロードがあり、歩き始めた。
十分程歩くと道路沿いに歩くようになる。その反対側には小さな山があり、途中には茂みの中を歩けるようになっている場所があり、そこから山を登っていく。
五分程度登れば頂上に近づくが僕の目的は途中にある休憩スペース。そこから町を見下ろすことができ遠くの山々を見渡すことができる、そのどれもが黒と白の濃淡で描かれたようなモノクロの世界。僕のお気に入りの場所である。
ボクはベンチに座り、目を閉じる。
鳥の鳴き声が聞こえ、風で擦れ合う木々の音が聞こえ、心地よい風を感じることが出来る。
ゆっくりと目を開け、また街を見下ろし、帰路に就いた。
また景色が変わっていた。
旅の終わりには現実が待っている
という、お話です。
読んでいただきありがとうございます。
感想があったらお願いします。
面白くないと思いますので、面白くなかったら、面白くない、で。
続きはそのうち、また短編で。