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ブラック破会社

「トウサンが危ない! 紙一重で攻撃を交わしました!」実況が叫んだ。私、妻、息子の三人は食い入るようにテレビを見ていた。


 テレビの中では等身大の人型ロボが一対一で闘っていた。場所はこの国最大級の遊園地、『運命の国 千葉ディステニーランド』である。『トウサン』と呼ばれる一体のロボが遊園地を破壊するのを、『ボウガイシャ』と呼ばれるもう一体が阻止している。トウサンの動きは鈍く、中々思うように遊園地を破壊できない上、気を抜くと今にもボウガイシャにやられてしまいそうである。


 私も妻もトウサンが遊園地を破壊するのを応援していた。我が家でボウガイシャを応援しているのは、幼い息子一人だけだった。


「厳しい展開です。トウサンは後何分耐えれば良いのでしょう?」


「あと五分というところでしょうね。闘いもいよいよ佳境です」


 解説者の言葉に、私の心は高ぶった。トウサンはスロースターターな機体であり、起動から約二十分が経過しないと持ち前の爆発力を発揮できないのだ。そしてあと五分耐えれば二十分になる。


「約五分間、果たしてトウサンは凌げるか――」と実況が叫ぶ。



――――――



 その会社はサビ残、過労死当たり前、三六協定なんのそのといった感じで、二十年連続ブラック企業大賞を受賞している実績から、『ブラック企業史上最高傑作』と呼ばれていた。

 一方で、この国には『対会社決戦制度』というものがあった。ブラック企業の過重労働に苦しむ社員達は、その過半数の署名を集めて申請することにより、会社に決戦を挑むことができるのだ。


 申請後は、その妥当性が国により審査される。審査に通ると、ブラック企業の資産状況を考慮した上で、決戦の場となる遊園地と、決戦で用いられる人型ロボ『対会社決戦兵器』が選定される。今回は、『ブラック企業史上最高傑作』に対する決戦が認められ、決戦の場としてディステニーランドが、対会社決戦兵器としてトウサンが選定されたのである。


 労働者側の目的は、対会社決戦兵器を操り遊園地を破壊することである。対するブラック企業側は、対抗兵器ボウガイシャを操り可能な限りこれを食い止めなければならない。決戦により今後遊園地側が被る損失額や、その再建費用等は、全額ブラック企業側が肩代わりすることになるためだ。


 なお、ディステニーランドの経営者は今回の決戦について、「生誕二百周年を迎えた当遊園地は、時代遅れや老朽化の声も多く、今回の決戦は当遊園地再出発の好機である」と述べている。決戦時は遊園地内を無人にし、対会社決戦兵器も遠隔操作のため、安全性もバッチリだ。どうか皆には思い切り闘い抜いてほしい。


 そう、皆――、かつてこの会社に勤め、死ぬ寸前まで追い詰められた私の目には、ボロボロになりながら闘うトウサンの裏に、当時の同僚の姿が見えた。自然、応援にも力が籠った。



―――――



 決戦開始直後からずっと劣勢が続くトウサンだったが、次第に戦況が変わリ始めた。ある時点を境にトウサンが光りだし、周囲に衝撃波が発生し始めたのである。

 最初は弱い衝撃派だったが、繰り返し発生する度に強くなり、遊園地を破壊するまでに至った。ボウガイシャも吹っ飛ぶ程だ。


「来た! トウサン来た!」解説者が叫んだ。「ボウガイシャは耐えられない! トウサンだ! トウサンだ!」


 テレビの中で観客の歓声が上がった。起動から二十分が経過し、トウサンのリミッターが解除されたのである。




 その後は一方的な展開だった。凄まじい衝撃波にボウガイシャは近づくことすらできず、その間にトウサンは体中からビームを発し、破壊の限りを尽くした。ディステニーランドは全壊した。


 今回の決戦で、ブラック企業側には多大な損害が出たことだろう。が、夜逃げなどしようものなら相当に恐ろしいことが起こるらしく、肩代わりした費用を払い切らなかった企業は今まで一つも無いと聞く。奴らも苦しむことになるのだろう。自業自得だ。




 決戦が終わり、一段落着いた頃、実況と解説者が話をしていた。


「さて今回の決戦、もし労働者が転職を望むのであれば、手厚い支援を受けることができます。が、もし転職先が見つからなかった場合、次の仕事が見つかるまではディステニーランドの再建に携わって頂くことになります――」


「デスティニーランドが決戦の場に選ばれるのは今回が初でした。新しく生まれ変わるディステニーランドが楽しみですね――」


「なお、三年前の決戦で壊滅した『ディステニーシー』ですが、再建作業が完了し、今週からリニューアルオープンします。ディステニー系列の遊園地がもう一つあって良かったですね――」


「さて、来週は今回の決戦の特集を放送します。彼らはいかにして署名を集め、決戦の申請が出来たのか。その裏にいた申請請負人、『ブラック破壊者』に迫ります。来週をお楽しみに――」


 私は番組の録画予約をし、テレビの電源を切った。




 息子は泣いていた。妻は困ったように笑いながら息子を抱いていた。私も苦笑しつつ、泣きじゃくる息子の頭を撫でた。


 幼い息子にはまだ分からない。それは仕方のないことだ。しかしこの子も大人になり、いずれ分かる時が来るだろう。その頃には、こうしてブラック企業が破壊し尽くされ、この子が暮らしやすい世の中になっていることを強く願った。

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