第二章 修行
俺様は雅の弟子となり計羅討凄流古武術を学んでいる。
最初は退屈な座学で、陰陽と言う千二百年以上前にできた思想を教えられた。そこから派生したのが計羅討凄流古武術。源流を知れ、と言ういかにも堅物な雅らしい理由だ。
光と闇に相当する陰と陽。木、火、土、金、水の五行。陰陽の宇宙はずいぶんと簡単な構造をしている。
応用すれば星の位置で未来を知り、式神と言う紙切れを使い魔にできる。もっと上に行けば自然を操れる様になり、全てを思うが儘にできる。
だが、陰陽の術はどれもでき損ない。使い物にしようと思えばできるが、ダークマターを操れぬ俺様には無用だ。
俺様の興味は唯一つ。計羅討凄流古武術。雅の強さだ。
計は計都、羅は羅喉。太陽と月を隠すと言う陰陽が不吉と恐れる星。その凶星を凄まじき力で討たんとする覇道。
計羅討凄流古武術の修行は「細かい」の一言に尽きる。
修行を始める前。
右足を一歩前に出した後、両足をそろえた状態で一秒間静止する。次は左足を前に出し、また一秒間静止する。ただし、膝を上げずに落とす事を意識し、足を床や地面に擦らせる様に前へ出す、すり足である事。
その上で「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・前・行」をずっと唱えながら、北斗七星とか言う地球から見た星の配置を大きく描く。修行で使う場を清める為の儀式らしいが、効果と言う効果は体感できなかった。
これを終えて修行を始める事ができる。せずに体を作る基礎鍛練をしたら雅にうるさく言われた。理解できぬがよほど重要な儀式らしい。
俺様を中心に大きな円を思い描き東西南北を配する。
陰陽の考えでは東を青龍、西を白虎、南を朱雀、北を玄武と言う幻獣が司っていると言っていた。それに倣って計羅討凄流古武術の技も四つに大別している。
青龍は水の様に変幻自在で、それでいて強い。どんな状況にも対応できる分、総合的な強さを必要とする。
白虎は相手を倒す攻めに特化し、相手を完膚なきまでに打ちのめす短期決戦に向いている。守りを捨てるから使いどころを見極めなければならない。
朱雀は燃え上がる鳥。跳んでばかりが能かと思っていたが、華やかな魅せる踊りを攻撃に転用したから派手な技が多い。
玄武、聞き馴染みの無い言葉だったが、亀と言われて合点がいった。攻撃を通さぬ硬い防御に、隙の少ない攻撃や強烈な反撃。まさにそうだ。
あの時に喰らった頭突きの痛みは忘れんぞ。
俺様は青龍を修行する為、青龍が司っている東に立つ。
計羅討凄流古武術・青龍・五黄土星・龍健ノ構え。
清らかなる水から生じる龍。静から動。自然体から一気に攻めや防御に転じる為の構え。
計羅討凄流古武術・青龍・一白水星・龍爪。
構えから一歩踏み込んで拳を真っ直ぐ打つ。また北に向かって拳を打つ。
修行中、思い描いた円を越えてはならない。これを破ると雅がネチネチ怒ってくる。
計羅討凄流古武術・青龍・五黄土星・龍健ノ構え。
計羅討凄流古武術・青龍・二黒土星・龍威。
龍が相手を睨むが如く牽制する蹴り。構えに戻り次は睨み威圧する蹴り。この二種類の蹴りを南西に向かって交互に放つ。
青龍をはじめとする大別された四つの技には構えを含めて百八つの技がある。
更に一から九の中分類があり、起点となる構えは五番目になっている。理由は陰陽にとって五黄土星は方角の中心を意味しているからだ。
「修行は終わりです」
雅から修行の終わりを告げられた。終える際も場を清める為のめんどくさい歩き方をしなくてはならない。その後に道具を使ってまた清めないとならんから非効率だ。
「意外です。怒ってすぐ投げ出すかと思いましたが」
「門徒だからな」
技は単純に四百三十二。当て身に使っていた五黄殺と俺様に絶命の闇を見せた暗剣殺があったから、間違いなく四百三十二以上ある。
儀礼的で堅苦しさばかり目立つ退屈な修行。習った突きや蹴りに特質すべき点は無いが、今は門徒として基礎に徹するまで。