表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/45

第五章 観測

 人の往来がほとんどない街の片隅。

 花瑠がいる。

 今よりも幼い十二歳。ただでさえ小動物みたいな背丈だが今よりも小さい。胸はこの頃から育ちつつあるな。


 拙い手付きで買ったばかりの三脚にデバイスを固定するところだ。

 希望と恐怖が入り混じっている。挑戦者になる者が抱く感情。


 俺様は花瑠の過去、心象風景の中にいる。


「さぁ、ここから私のアイドル伝説を始めちゃいますよ」


 REC、俺様の嫌いな軽快で生温い曲が流れる。

 介入できるなら止めるところだが。

 止められたとしても今回は傍観者に徹する方が賢明だ。


 拙い踊りだ。俺様が知る花瑠の踊りの中で最も拙い。

 卵から生まれたばかりの雛。小さな小さな足で偶像への道を歩む。

 道の険しさを真に知らず、運を信じる楽観さ。

 踊りながら時折見せる笑顔は自己満足か。

 まだ立っていない舞台に集った観衆共に向けての笑顔か。


 空から紙切れが落ちてくる。

 氏名、年齢、住処、箔を知らしめる欄、組織への忠義や意識の高尚さを書き殴る欄。

 面倒極まりない履歴書だ。


 たくさんの履歴書が落ちてくる。

 大きく赤いバツ、不合格、不採用、心からお祈り申し上げます。

 偶像への道を閉ざす言葉。


 暗転し建物の中に変わる。

 白い布で簡素を隠した机。そこに偉そうな影が三人並んで座っている。

 偶像への第二関門。その只中に花瑠はいる。


 歳は十四歳か。背は今と同じで胸は今より二回り小さい。

 正攻法で偶像にはなれなかったが、第二関門は行った事がある様だな。


「能村花瑠です。アキちゃん、んーん、(いち)()(あき)さんの様な、見ている人を元気にするアイドルを目指してます」


 俺様の知る可愛さの押し売りではない。

 偶像への誠意と自分を良く見せようとする見栄。物足りなく感じるのは毒されている証拠だな。

 形式的な質問。

 要求される簡易的な技芸の披露。

 花瑠なりに懸命に応えた。


「不合格」


 左側に座っていた影が実体化し、大室つまり蛇になった。

 否定する者に相応しい配役だが、嫌味なだけで蛆のいる沼の気配のしない紛い物だ。


「君にはアイドルとしてのタレント性がない。僕達否定する者を相手にするにも脆弱過ぎる。高校を卒業できるかも赤信号だ」


 自責に導く為の面接。


「歌は、普通」


 右側に座っている影が実体を現した。隈か。

 灰汁の強さが蛇よりもできがいいな。


「パフォーマンスのレベルは低いかな。キャラクターは盛り過ぎ。役者みたいな演技力はあるかと言ったらあるわけでも無いし。すごいバズりそうなネタも無い。グラビアやれば、一定の層にはヒットするでしょうけど、そっちはやりたくないでしょ?」


 確かに肌を晒せば金は稼げるな。花瑠も己の肉体に、多少は性的価値があると認識しているみたいだ。が、偶像として質は変わるから、積極的に切り売りするつもりはない。


「失格」


 冷然と切り捨てる様に言ったのはえり。美しいが、偶像と言うより貴族、執行官だな。


「アイドル、エクスカリバー、学生、二足どころか三足のわらじ。全て中途半端」


 真ん中なのは、花瑠にとってえりが潜在的な影響力が大きいからだ。


「花瑠はどうしてエクスカリバーを選んだの? 花瑠は否定する者と戦う事を選んだ」


 事実の確認ではなく意思の確認。


「どうしてアイドルになったの? エクスカリバーの力を使って」


 かなりの憤りだな。えりは関門を正攻法で通った者。


 花瑠は影森と取引をした。

 エクスカリバーに所属して戦士になるのと引き換えに、事務所にも所属できるよう融通させ偶像となる権利を得た。


「花瑠はいつだって中途半端、エクスカリバーにもなれず、アイドルにもなれず、テストは赤点」


「そうですけど、ですけど」


 花瑠は二の句を継ぐ事ができない。


「超能力を自由自在に使えるの? 安藤さんやエーリッヒさんに迷惑をかけて、誰かをまた藤川さんみたいに、大怪我させてしまうつもり?」


 思い通りに超能力を使えない焦りと失敗への自責か。


「正義を否定する者ヴィクシャスを倒せば、アイドルに戻れると思っているのなら甘いから」


 花瑠が最も恐れる事。


 蛇を倒しても花瑠が必ず偶像に戻れるとは限らない。

 影森の詭弁やエクスカリバーの組織的な影響力を使っても、事務所が飲むとは限らない。

 仮に飲んだとしても、えりと隈が一緒に活動するとは限らない。


 道を失う事だ。


 失意と恐怖が空間を塗り潰す。


 宙に浮いている感覚。


 急速に絶望の中心から遠ざかっている。


 俺様は目を覚ました。



 起きたのは夕方か。大して動いていないのに疲労感がだいぶ残っている。これは一日を潰すしかないな。

 トルネめ。またソファの上に寝かせやがって。


「みっ」


 花瑠の方が先に起きていたのか。同時だと思っていたが、予想外だな。


「みっちー、ごめんなさい。大丈夫ですか?」


「心配される筋合いは無い。花瑠こそ敵が現れても動けるんだろうな?」


「私、私は元気ですよ~」


 拳闘(ボクシング)の真似事をしてみせるが空元気だな。


 花瑠は俺様を見て臆した。我を失い暴れた罪悪感とは違う。

 過去を見られたかもしれない。羞恥心なら俺様の所に来ない。

 俺様が起きたのを認識して一歩退いたのは、本能的な恐怖、忌避。


 俺様が花瑠の精神世界を覗いたという事は逆もまた然り。


 何を見たか問わん。見たものは言わん。

 今はな。


「みっちー、お腹空いてません? のど渇いてません? 一緒にキッチン行きませんか?」


 あの臆した瞬間を除いて、花瑠の俺様への態度は今までと変わっていなかった。努めてな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ