第五章 感覚共有の果て
俺様はペットボトルの処理をして風呂場を出た。
空気が騒々しい。殺気を感じる。蛇が俺様達を発見し先兵を放ってきたか。
「急いでリビングに来てください。花瑠さんが暴れています」
覇道の心得を持たず、運動能力も低い、今の超能力は感覚共有、そんな花瑠が暴れたところで大した脅威ではない。
とは言え、トルネが声を送ってくる程の事態とは、余程の暴れっぷりの様だな。
実に楽しみだ。
「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッ!!」
狂乱だな。花瑠が暴れてトルネのリビングの調度品の一部に損傷を確認できる。
特に被害があるのはCDやレコードか。散乱し踏み潰れていた。
トルネは花瑠の攻撃をいなし、調度品に被害が出ぬよう音の壁を都度張っている。
「代わるぞ」
「お願いします」
殴りかかる花瑠の攻撃を防いでみる。
当てようとするだけだから精細さに欠けるが。
予想より重いな。
「殺すっ!!」
俺様の右手に違和感を覚える。殴ってないのに殴った様な感覚。
起こったのは花瑠が俺様の腕を殴った直後。手応えを共有したみたいだ。
「殺すころすコロスKorosu」
連撃。かわすのは容易い。
疲労を上回る興奮状態。
蹴り。スカートの中が見えそうなくらいには脚が上がり、受け止めてみると重さはそれなりか。
俺様にも蹴りをした様な感覚が脚にきている。
「ヤァッ」
花瑠の拳を左手でつかんで受け止める。
今の花瑠は拳を引く事も押し込む事もできない。
「ウガァァァ」
俺様の右手は、俺様がかけた分の力でつかまれている感覚がある。
花瑠の発動している超能力は感覚共有だけの可能性が高い。
力が強まっているのは、所謂火事場の馬鹿力、脳が筋肉の制御をしていない。このまま放置すれば体は壊れる。
「じゃま、壊す、消す」
問題は花瑠が暴れる様になった原因。
まず蛇がばら撒いている情報ではない。沼に棲む蛇の気配を微塵も感じない。トルネが壁を張り続け守っているからな。
花瑠は好戦的ではない。トルネの家から三日出てないが、衣食住は満たされていて精神的負荷はそこまで高くない。
偶像としての立ち位置を失い、仲間等の言葉に該当する者達とは対立状態になり、取り戻せる可能性がある己の超能力を極める事もままならない。
今の花瑠は内心焦り悲観し、決して精神的に安定しているとは言い難い。
ただ、狂乱状態になって八つ当たりする。その兆候は過去に見た事がない。
「殺す、殺す、ほろ………………ぼす」
俺様の殺意だ。
花瑠は感覚共有で俺様の無意識と繋がり、内包する殺意に飲み込まれたのだ。
「トルネ、花瑠は俺様の殺意に飲まれている。眠らせろ」
「二人共寝てしまいますが、よろしいですか?」
「やれ」
退屈に悲嘆が湧いた旋律。
咲いた途端枯れる花々。
瘴気の街には腐敗の血が流れ。
最期は惨め。
絶叫。
つかめなくなった。
殺意に飲まれた花瑠が、俺様を叩きのめそうと拳を振るう。
無駄だ。ふらついているぞ。
花瑠も一緒に意識を失え。
花瑠が万全の状態で蛇と戦えなくなるより、一日潰れた方がマシだ。




