第四章 俺様VS雅・オリヴィア
手足に力を入れて水の縄の拘束を引き千切ろうとするが、なかなか脱せない。オリヴィアに何度か拘束されたが、かなり強いな。
「大丈夫ですか。立てますか?」
「ああ、なんとか。すまない」
黒い力を身に纏った雅がヴィクシャスに手を貸している。まさか敵である否定する者を助けているとは思うまい。そもそも本来避難させるべき群衆共は俺様の奥義で減らしはしたが、まだまだ残っている。
歌が途切れた。何かしら改造を施してない限り、えりと隈が歌い続けるのは無理だ。俺様はこの好機を利用して拘束を引き千切る。
「捕まえられなかった」
「ディートリヒさん、援護お願いします」
雅が走り出し、オリヴィアが青い魔法陣を展開する。俺様が否定する者に見えている者が取る戦士の行動だ。
俺様が動くと青い魔法陣から無数の水の刃が撃ち出される。回避よりも前進し、雅に対応する。
力強く流れるような攻撃、青龍か。
再び歌が聞こえてくる。俺様を鈍らせるつもりだな。
荒々しい突きの猛攻が襲いかかる。その速さと重さには否定する者を滅ぼすと言う意思を感じる。
今まで雅と何度も戦ったが、人間相手、仲間相手を理由に力を出していなかった。が、俺様を否定する者と思い込んでいるから技の精度、威力が向上している。
雅の攻撃ばかりに注意を払うわけにはいかぬ。オリヴィアの魔法陣にも注意を払わねば。術式を読む事はできぬが、無数の刃から別の魔法に切り替えてくるだろう。
俺様は左腕で雅の蹴りを受け流しつつ後退する。
覇道森羅一体流・旋風の死に鎌奥義・風刃。
縦に切り裂く手刀で風の刃を作り出し、雅、後ろにいるオリヴィアを攻撃する。
「ぁッ」
前線に立つ雅は当然、攻撃が届かぬと思ったオリヴィアも防御する。
「させません」
雅が光弾を放ち俺様を牽制、接近戦に持ち込んでくる。
「魔法の準備を」
荒々しい虎の攻めか。連続攻撃ではなく、一撃の威力に重きを置いて俺様の防御を崩そうとするつもりだ。加えて踊り舞う不死鳥の技で隙を減らし、風刃を撃たせないようにしてくる。
首を刈る様に殴ってくるか。ならば、俺様から懐に潜り込んで膝蹴りを叩き込んで、風刃で斬り伏せてくれる。
どんな否定する者か知らんが、俺様と認識できなかった己を恨むがいい。
更にもう一斬繰り出し、オリヴィアに防御させよう。
ビームが風刃を打ち払い、俺様に命中する。雅が転がって距離を取っていた事に気付けなかったのは良くなかったな。
水流が襲いかかってくる。オリヴィアめ、発動を早めてくるとは思わなかったぞ。
力で水流を弾いたところに雅が攻め込んでくる。今度は堅実な攻めでオリヴィアの魔法の時間稼ぎか。
「安藤道男、ずいぶん動きがいいじゃないか? いいのか、相手は仲間だぞ」
蛇は直接話しかけてはいない。ウィルスを使った一方的なものだ。歌の増幅に加え、仲間や味方とかのウィルスで動きを鈍らせようとしているが無駄だ。
本気で殺し合いを挑んでくる雅とオリヴィアと戦えるなんて滅多に無いからな。殺さないでやるのは面倒だが、勝利する事に価値はある。
俺様は後退して雅から距離を取る。逃げたのではない。
覇道森羅一体流・雷哮の終奏譴奥義・稲光る即跡。
落雷の如く俺様は雅を通り過ぎオリヴィアを潰しに行く。張った魔法陣ごと吹っ飛ばす為、溜めておいた力を拳に乗せて解き放つ。
覇道森羅一体流・雷哮の終奏譴奥義・閃迅。
舞い降りてきた赤い光が俺様の突きを阻んだ。正確には黒い力の限定解除をした雅が後ろに跳び盾になるよう着地した。
「リィズァ」
禍々しい赤い力に相応しい、良い殺意だ。が、俺様をあのリィズァに置き換えている事は許さぬぞ。
俺様は稲光る即跡を使い、再び距離を取り、雅が想定し得ぬ縦横無尽の軌道でオリヴィアを潰しにかかる。
「させない」
一度、二度、三度、俺様の行くところ雅が立ち塞がってきた。
その上オリヴィアと今いる足元から殺気を感じる。
留まらず動いた直後、水柱が吹き上がる。目の前の雅を攻撃していたら飲み込まれていただろう。
今度こそオリヴィアを狙う。予想通り仲間を守ろうと雅が邪魔立てしてくる。それ故に意表が突ける。
真の狙いは蛇だ。すぐ方向を転換し。仲間割れしていると愉悦に浸っている面を滅ぼしてくれる。
「オイオイ、止まれ、止まれ、あの娘達の相手をしろよ」
そんなウィルスで俺様は止まらんぞ。
「遅くなりましたね」
鎌の如く刈ってくる雅の蹴りを拳でいなす。
騙したのに対応が早すぎる。
「目で追えるんだよなぁ、君の動きは」
優勢と調子に乗る声が入ってきやがった。蛇の奴、ウィルスで雅を誘導したようだ。
「ハァァァッッ」
何も知らぬ雅が勢いよく攻めに来る。俺様は即跡を五度使用した疲労で体が重い。こういう時こそ逃げず、亀の様な防御で捌き、次の一手を思案する。
冷たい殺気、視界の端に青く輝く魔法陣が映る。甘んじて受けるしかないな。
激流に俺様は飲み込まれ、体を激しく振り回されて意識を失いそうになった。
息は持つが、俺様を振り回す水流の行く先に少々問題があるな。オリヴィアの目にどう映っているか知らんが、このままでは群衆共も激流に巻き込まれて溺れるだろう。
なすがままはやめて、力強くしなやかに激流の中を泳ぐ。魚面程ではないが、俺様も水を制する泳ぎは習得している。それに術者の操作の方が自然よりも読むのは容易い。
全身で叩く様に勢いをつけて水面へと飛び出す。
覇道獣操流・昇龍の霹靂奥義・登鯉躍門。
鯉が滝を登り、その上にある門を越える事で龍となる。この世界でも、覇道の世界でも、そんな言い伝えがある。
俺様は今空だ。
遥か高き山の頂から流れる滝。それを超えんとする跳躍だからな。この場にいる奴等の上を取るのは容易い。
覇道獣操流・孤高の鷹奥義・鷹襲烈下。
遥か上空から獲物を狩る鷹の如き蹴りをオリヴィアに向けて放つ。
「オリヴィアさん!!」
雅に気取られたか。オリヴィアはとっくに水の激流を解いている。どんな魔法で迎撃してくる。そこが問題だ。
オリヴィアが魔法陣を幾重にも展開し、そこから流水を勢いよく撃ち出してくる。
先の激流に比べれば一本一本は弱いが、束ねれば鷹襲烈下を上回りかねない。
ならば。
覇道森羅一体流・旋風の死に鎌奥義・風転。
飛び蹴りの体勢を維持しつつ体を捻り回転させる。旋風となった俺様は直線的な軌道ではなくなり、襲ってくる水流を縦横無尽に避けながら、オリヴィアに一撃を喰らわせる事ができるのだ。
「くッ」
またしても雅だ。亀の如く不動となって耐え、蹴りを受け止めている。
この根競べは俺様の方に分が悪い。体を回転させ続けるのは受け止めるよりも体力の消耗が激しいからな。が、負けてやるつもりはない。
「ぬぅっ」
な。
俺様の体が棒切れみたいに振り回されるだと。また雅が限定解除を使ってきた。
投げられた俺様は床に叩きつけられてしまった。黒い力越しでもかなり痛い。
距離を取らされはしたが、仕切り直して二人を倒し、蛇を始末すればいいだけだ。
稲光る即跡を使う。雅も対応してきた。拳と拳、蹴りと蹴りがぶつかり、なかなか蛇を仕留められない。
悲観はしていない。そう何度も限定解除はできんだろうからな。
突き上げる拳が俺様の顎を狙う。が、遅い。
その証拠に黒い力の上に赤い力が流れていない。かわし、隙のある雅に一撃を与えれば容易く倒せる。
手の平が見え、閃光。
燃える熱さが襲いかかる。
「グァァアアアアッッ!!」
今度は水が全身を包み込んでくる。
ビームを目眩ましにするとは、やるではないか。雅の性格上、牽制や飛び道具としてしか使わぬと高を括っていたからな。相手が否定する者だと思い込んでいるから使える手か。
苦しい。
息ではない。上昇する水圧が俺様を潰してくる。
このままではすぐ深海だ。先の登鯉躍門は脚が動かぬから使えん。
魂を燃やせ。
そこに恵みは無く、あるのは何者をも蹂躙する炎。
如何なる者も触れること阻むこと敵わず。
君臨するは俺様。
名は暴虐の太陽。
覇道森羅一体流・暴虐の太陽奥義・極炎権臨。
オリヴィアの水の魔法を俺様の纏った太陽が凌駕し気体に変えた。
覇道森羅一体流・暴虐の太陽奥義・紅拳砲炎。
プロミネンスの一端をオリヴィアに喰らわせてやる。消し炭だ。
殺せ、敵だ、痛ぶれ、滅ぼせ、許すな、消せ、否定しろ。
蛇め、ウィルスを使い俺様の怒りを増長させオリヴィアを殺させる気だ。
俺様は突きだそうとする拳を力づくで抑え込んだ。どのみちオリヴィアを黙らせる為に撃つのだが、否定する者相手の威力で繰り出すわけにはいかん。
「と、止めないと」
オリヴィアが声を発し魔法陣を展開してくる。
太陽たる力を纏う炎と腕、拳に分散して砲炎の威力を下げる。こんな事で歯を食いしばらなければならない日が来るとはな。
魔法陣から放たれたのは俺様を飲み込んだ水流。
目の前まで引き付けるだけ引き付けて。
「ヌァァッ!!」
拳で水流を割り、撃ち出した砲炎が水流をかき消す。
爆炎が上がる。
「キャャァァアアアアア」
派手に吹っ飛んだが、オリヴィアは死んでいない。すぐに立ち上がる事はないだろう。
蛇がほくそ笑んでいやがる。コイツを暴虐の太陽で焼き殺してやりたいが。
「くたばれ」
こうなると雅が激昂して突っ込んでくる。
肉体の負荷を考えずに黒い力を限定解除し、俺様が纏う炎熱による負傷を度外視し、殺しに来る。
無駄だ。動揺で技が精細さに欠ける。避けるのは容易い。
覇道森羅一体流・暴虐の太陽奥義・
殺せ、抹殺、虐殺、暴力、敵、他人、否定する者、憎しみ。
駄目だ。拳を顔面に叩き込めば雅は間違いなく死ぬ。
操り糸とも言える破壊衝動を御し、どうにか拳を開く。
今のまま平手を打てば、しばらく黙らす事ができる。
見失った。
すぐ俺様は背中、心臓の位置に力を込めて防御を図る。
覇道獣操流・絶岩の山亀奥義・山甲不通。
硬い結晶が砕け散り、背中に激痛が走る。
山の如き堅牢な亀の防御を以てしても雅の暗剣殺は防ぎ切れない。
肉は削げたが、絶命だけは免れた。近接戦の最中に視界から消えた時は、死角に回り込んで致命的な奥義を繰り出す傾向にあるのは意識の中にあるからな。
「そん、な………」
雅が片膝を突いた。否定する者を倒せなかった幻覚でも見ているのだろう。
俺様の黒い力が急速に粒子となり消失していく。
自分で解いた時や、今の雅みたいにエネルギーが切れた時とは違う。その証拠に粉々になったデバイスが足元に。
致命傷こそ避けられたが黒い力を失ってしまった。




