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第四章 次の日

 目が覚めた。

 部屋は薄暗く、机にはデバイスが置きっぱなしだ。あの歌を聞いて眠ってしまったのだな。

 五時か。かなり時間を無駄にしたな。部屋を出て状況を把握しよう。


「否定する者発見」


 俺様は(いな)(びか)()(そく)(せき)で突撃銃の一斉射撃をくぐり抜ける。


 突撃銃のけたたましい銃声以外にも、妙な雑音が混じっている。


 廊下の壁を駆け上がりながら進み、近かった隊員の側頭を殴る。

 防具はへこんだが、威力は殺している。


 回り込まれた事を気付かれる前に、体重を乗せた体当たりで一人を壁まで吹き飛ばす。

 俺様に気付き銃口を向けてきたが、手近な奴の腕をつかみ、他の奴を巻き込みながら投げ飛ばす。

 残った一人が撃ってきたが、這い回る様に回避して接近、そいつの鳩尾を蹴り上げる。


 俺様が隊員達を殺したと雅が知ったら、永久的に破門だろうからな。手加減しておいた。最後のは、天井まで吹っ飛び床に落ちたが、死んじゃいない。重傷だ。


 足音が多数。十人の隊員が向かってくる。

 相手をするか。


 いつもなら感じられる殺気が、今は感じにくい。常に小さな耳鳴りが聞こえている感じだ。


 情報を集める為、俺様は隊員共を即倒さぬよう、さっきより攻撃を軽くして翻弄する立ち回りにした。


「当たらねぇ」


「このディッズル、ちょこまかと」


「この場を持たせろ」


 隊員共は蛇のウィルスによって俺様が否定(名前の)する(無い)(雑魚)に見えている。


 片付けながら、阿呆、間抜け、金魚の糞、給料泥棒、穀潰し。隊員共を罵倒してみたが、誰も反応しなかった。罵倒に対して心を乱さぬよう鍛錬できているとは思えん。俺様の罵倒が否定する者の奇声に置き換えられていると考えた方がいい。


 殺気を感じにくいのは昨日の歌、蛇のウィルスがそこら中に漂っているせいだ。


「ちぇすとーっ☆」


 半身を横にずらして振り下ろしてくる攻撃を避ける。すかさず振り返り拳を放つが、後退されてしまい手応えが無かった。


「やるな、侵入者君」


 面倒だ。

 茶髪を一つに束ねて肩に垂らしている女。年は二十代半ば。分類的には美人、厳めしい服からでも分かる無駄に妖艶な体つき。


「光栄に思いたまえ。(かげ)(もり)・ナディア・千笑里(ちえり)が相手をしちゃうよ」


 来る。机仕事を中心にしているとは思えぬ素早さ。

 得物は光を吸う黒き刀身、反りがあり片刃。刀か。


「アッハハハハハハ、正宗・ブラックの錆にしてくれる~」


 笑いながら片手で滅茶苦茶に振り回してくる。どこでもいいから俺様に傷を負わせたいみたいだ。

 当然避ける。


「村正ではないのか」


「天下を守る剣に恐れをなせい、ふらち者~」


 仮にもエクスカリバーの刀だから村正の名を使わないのか。


 一見、乱心して刀を振り回している様に見えるが違う。一刀、一刀、技として成り立ち繋がりがある。


「せいバイッ♪」


 ふざけたかけ声で刀を振り下ろしてきた。


 覇道(はどう)(じゅう)操流(そうりゅう)()()鍬形(くわがた)奥義(おうぎ)待ち鋏(まちばさみ)


 相手の攻撃を待つ奥義だが、全く動かないわけではない。潜る様に斬撃を回避し、影森の手首をつかんで投げ飛ばす。


 追撃の為に飛び出す。このまま二度と口を聞けなくしてやる。


 視界の端に複数の銃口が映る。影森への攻撃はやめて銃弾の回避に専念する。


 影森がうるさいせいで隊員共が集まってきやがった。


「サンキュー、みんな」


 影森は既に立ち上がっていた。刀を回して余裕を示していやがる。


「アイツは私一人で片付けちゃうから、君達は他にいないか探しといて」


「しかし」


 今だ。(いな)(びか)()(そく)(せき)で一気に詰めて影森を潰す。


 覇道(はどう)――


 突きで合わせてきおった。

 影森め、突風程度の速さで俺様の不意打ちに対応するとはな。


 覇道(はどう)(じゅう)操流(そうりゅう)(きば)折りの(おりの)穿山(せんざん)(こう)奥義(おうぎ)皮流(ひりゅう)折刃(せっぱ)


 大業物を使った練度の高い技。雑魚なら軽く二、三体をまとめて殺せる鋭さだが問題無い。腕で刀の側面を弾かず攻撃全てを流す。

 接近して空いた右拳を影森の顔面に叩き込んでくれる。


 殺気、影森の狂気が消えた。

 何も感じられん。

 諦観か。


 影森が笑った。

 蟲の如き蠢く害意。気色悪さが纏わり付いてくる。

 反撃の手は何だ。このまま殴ってもいいのかと警戒させられた。


 蹴り。

 単純な蹴り上げが顔面に襲いかかる。咄嗟に両腕で防ぐ。

 防いでも重い。その上、距離まで取らされてしまった。


「チャンスた~いむ」


 黒い刀による突きが胸を抉ろうとしてくる。これを弾く。


 一撃必殺を狙った突きに比べとても軽い。


「ハハハハハ、君ぃ~、健康の為に一万突きしてもいいかな~。ちょっとデスクワークが増えちゃったから、贅肉を燃やしたいんだよね~」


 問題は突撃銃の連射に迫る手数。

 弾いて反撃を狙いたいが、刀を引くのが早いから隙が無い。回り込もうとすれば、先読みの突きが阻んでくる。


「ダメだ。影森司令を巻き込む」


「ここは、指示通りにするしかないのか」


 隊員共が援護したくても射線に影森が入ってしまうと躊躇している。

 俺様は後退を余儀なくさせられている。壁に追い詰められれば勝機を無くしかねないが、まだその危険はない。


 それに悪いことばかりではない。援護に来た隊員共から遠ざかっている。それに影森のいい加減な指示にも忠実だ。


 三百七十四。一万突きなんて付き合いきれるか。連続攻撃に綻びが見えたところを潰してやる。


「見つけたァー!!」


 俺様の後方に一人迫ってくる。まず戦士ではない。それよりも気になるのは狂気状態である事だ。

 影森よりも理性が無い。蛇と代行者のウィルスによって浮かされた空しい奴だ。


 覇道(はどう)森羅(しんら)一体流(いったいりゅう)(せん)(じょう)(うつ)水鏡(みかがみ)奥義(おうぎ)撥幻落娑(はちげんらくしゃ)


 影森の刀が俺様を突く。

 派手に破裂し水が飛び散る。


 水に映った像に触れること(あた)わず。影森が突いたのは俺様ではなく、魂から生じた水で作った身代わり。


 俺様は影森の隙を突き、襲ってくるもう一人を巻き込むように投げ飛ばす。


「ウオオオォォォォォッッ」

「ウオオオォォォォォッッ」


 今度こそ影森を黙らせようと思ったら、怒り狂う喚き声が俺様の方に殺到してくる。


「サンドラ様を守れぇぇぇ」

「サンドラ様バンザイ」

「世界の敵をブッ殺せ!!」


 代行者に魅了され、狂信者となった軟弱者共がこんなにいるとはな。


 先だ。ウィルスの発生源である蛇と代行者を潰せば事態を収束できるだろう。とにかくこのビルを出る。その為に俺様は群れへと突っ込んだ。


 素早く先頭にいる奴をつかみ後ろへと投げ飛ばす。修羅三千投(しゅらさんぜんなげ)だ。


 場所が十分な広さとは言えず、相手の数が多い。まとめて吹き飛ばす奥義を使えば。落下よりも負傷が大きい者が出てくる。打撃を使えば、後ろにいる奴が倒れた奴を踏み付けまくる。後ろに投げ飛ばすよりも死亡率が高い。


 一人投げ飛ばしているところに軟弱者の鈍器が殴りかかってくる。人間相手に無傷でいられるのは三人とは情けなし。


 黒い刀の峰が軟弱者を打った。


「あっ、ごめ~ん、当たっちゃったぁ~」


 影森が薄気味悪い笑みを浮かべながら刀を振り下ろしてくる。が、無視。


「グぇっ」


 俺様の後ろにいた軟弱者を影森が倒した。

 やめだ。俺様も遠慮なく打撃を使う。


「ハハハハハ、君達ィ、ちょっとハリキリ過ぎじゃないかい? 明日、腰痛になったとか言って休むのだけはやめてくれよ~」


 本来は軟弱者共の半分くらいを投げたら、打撃に転じるつもりだったが、馬鹿らしくなってきた。ここで死人が出たら咎は全て影森に負わせよう。


「いやぁ、私達気が合うんじゃないかい、いっそ結婚しちゃう?」


 笑えんな。挑発的に俺様を掠める様な攻撃ばかりを繰り出す奴の言う事は。


 俺様と影森が共闘すれば、狂信者の群れなぞあっという間に片付く。


 戦っていたところよりも広いところに出る。

 真横から影森が黒い刀の鞘で薙ぎ払ってくる。


 さっきの蹴りよりも重い。防御は辛うじて。吹っ飛んだ俺様は十柱戯(ボウリング)みたいに机や椅子にぶつかり、壁に叩きつけられてしまった。


 久しぶりに強烈なのをもらった。立ち上がるのがちと辛い。


「ナイア!!」


 俺様は飛び出していた。怒りだ、あの一撃は殺すに値する。得意そうにする影森を壁に叩きつけなければ気が済まん。


 刀の間合いに入ったが影森は無だ。

 俺様は腰を落として奴の足を払おうとした。



 綺麗だけど汚い世界、ダウナーisマイン、お釣りがラッキースリーセブン。


 AIされるよりAIしたい、AIするよりAIされたい、ORどっちも大事。


 お肉、お肉、タンパクサイコー、アブラオーケーキニシナイ、タン塩、カルビ、中落、肩。



 突然、三つの歌が流れ出した。花瑠達ではない偶像共、滅茶苦茶で聞くに堪えん。

 おかげで俺様に隙が生じ、笑う影森に蹴り飛ばされてしまった。


 突撃銃の斉射が俺様の近くにある物を壊し、壁を傷つける。

 隊員が二人駆けつけていた。

 狂気は薄め、俺様が否定する者に見えている奴等だろう。


「影森司令、大丈夫ですか」


「サンキュー。でも、これ以上は下手に手を出すのはやめといた方がいいと思うな~」


「手負いの獣だからですか」


「YES。でさぁ君ィ~、カラオケいくつ取れる? ここで歌ってくれない? リクエストはー」


 影森が隊員に今ここで歌えと困惑させ、その様を楽しんでいる。

 黒い刀で床を叩いている。笑っていても間隔に狂いは無い。


 ・・ ・― ― ― ―・ ― ― ―・ ― ― ― ― ・― ―・ ・・― ― ―・―・ ・― ・・・ ・


『私は正気だ』を伝える信号か。


 狂気と共存し、俺様の苦手な歌を小細工できる奴が蛇のウィルスの影響を受けているわけがない。

 味方である事をすぐに明かさなかったのは隊員共を守るのもあるだろうが、嫌がらせの方が強い。


 気に入らん奴だが、何も伝えぬわけにはいかん。俺様も床を叩いて伝えるとしよう。


(否定する者だ。発生源は大室(おおむろ)(まさし)


(今、メディアジャックしてるよ)


 メディア、つまりテレビを点けたら、大物気取りの気障な壮年男が映るってわけか。


「影森司令、奴は弱っています」


 ゆっくりと立ち上がった俺様が隊員共にはどう見えているのだ。確かめようがない。


「やめとけ、やめとけ~? もし、焦って君が撃って、滅茶苦茶にしちゃったら、責任取れる~? 取れるの~?」


(場所を言え)


(台場)


 影森が刀で床を叩くのをやめた。台場では場所が大雑把だ。信号を別の手段で俺様に送っている可能性が高い。気は進まんが、体、動きを観察しなければならない。


「とにかく、敵がグワッと動くまでは援護を待とう。多少回復しているかもしれないが、アサルトライフルが五丁、十丁、たくさん集まれば、火力でどうにかなるって」


 影森は隊員の方を見ながら俺様を一瞥し、ウィンクをしてくる。


(大きい公園)


 挑発的な方法で信号を送りおって。

 台場には行った事は無いが、大きい公園は見た覚えがある。ここからはだいぶ遠いな。


(向かうからどけ)


(ム、リ)


「これ以上待てません」


 隊員二人が銃口を突きだす様にしている。

 待てと言う影森の命令よりも、いつ襲いかかるか分らぬ恐怖の方が勝っているな。


(負けてくれる?)


「断る!!」


「ウァァアアアアアッッ」


 俺様が怒りを発した事で、隊員共は否定する者が攻撃してくる様に見えたのだろう。恐怖が爆発し、突撃銃を斉射してきた。

 弾を回避し、撃ってきた奴等を潰しに行く。俺様と影森だけになれば話は大きく進むのだ。


「面倒だにゃぁ、もぉ」


 側面から隊員を潰しに来た俺様に影森が割り込んでくる。

 気の抜ける言い方とはあべこべの鋭い一斬、だが一歩下がればやり過ごせる。


 突風。俺様の足元から猛烈な上昇気流が発生した。

 踏みとどまれん。斬撃に備えた俺様は対応できず、また吹っ飛ばされてしまう。


 だが、対応できんわけではない。体勢を操りすぐに着地だ。

 追撃の一振り。黒い切っ先が空を切る。


 衝撃波が俺様を壁まで押しやってくる。影森が目測を見誤るなんて考えられん。

 覇道でのしかかってくる風を従えようとしたが、遅かった。


 鮮烈な()()(たま)の一太刀が俺様を斬ってくる。


 斬り上げの二太刀。


 俺様に背を見せ納刀する様な突き。

 見えぬが、影森の奴は絶対したり顔だ。


 壁が崩れる。

 俺様の体は突きの衝撃によって押し込まれ、崩れた壁や床と一緒に空中へ放り出された。


「アハハハ、まいったね~、否定する者が重過ぎだから壁壊れちゃったよー。まぁ、あの高さだし、死んだんじゃない。たぶん」


 屈辱だ、影森に負けた。が、本気で殺すべきは蛇と代行者。

 立ち上がり負傷を確認するが、問題無い。体が温まったくらいだ。

 そろそろ地面と激突だな。俺様は覇道の奥義の一つ(てん)(しょう)(ちょう)()で少しの時間だが空を飛び、エクスカリバーのビルから離れる。

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